1、はじまりの島
荒れまくった大海原にポツンと在る小さな小島。
低く垂れこめた黒い分厚い雲から雷鳴が鳴り響く、その小島の中央。
もうもうと立ち上がる土煙と瓦礫の山。
その瓦礫の山の中から天に伸びる二本の腕。
腕の先には、この景色には場違いなピンク色の、所々別の布でパッチワークされた60cm程の可愛らしいクマのぬいぐるみが…
――side????――
暗いな……でも所々から光が差し込んでる。
あぁ……俺埋まってるのか……だが、腕に風が当たる感触があるから深く埋まってる訳ではなさそうだ……
ココさんもちゃんと離さず手に持ってるみたいだし。
パタパタパタ――
鳥の羽音?ハンゾウか……無事でなによりだ。
「あるじー。大丈夫でござるかー?」
「……ああ……ハンゾウも無事そうだな……?」
「某はぶつかる直前に華麗に羽ばたいて脱出したでござるからな。はっはっはー。」
「お前の主が生き埋めになってるのに自分だけ逃げ出すとか……どうなんだろうねぇ……ハンゾウさんよ?」
「どうせあるじはピンピンしてるでござろう?。今の某はか弱いセキセイインコでござるから。」
「いやいや……雷雲に突っ込んで雷に撃たれてそれだけ軽口叩けるインコがか弱いはず無かろうに……」
「細けー事はいいんでござるよ。ん?ココ殿の右腕と脇腹のトコ少し破れてるでござるな。」
「あぁ……流石に無事ではないよなぁ。早く治してあげんと。ちっとココさん持ってて。此処出るから。」
ココさんが手から離れた感触を確認し、身体を色々動かしてみる……が、服でも引っかかってるのか思うように動かない……
「んん?! ちょっとハンゾウさん。ちょちょいっと引っ張り上げてくんない?瓦礫に服が引っかかってるのか、上手い事抜け出せないんだが。」
「ホント駄目あるじでござるなぁ~。」
「うっせー。」
まったく……ご主人が腕だけ出して埋まってるのにこの仕打ち……なんて眷属でしょう!ぷんぷん!
憤慨し、瓦礫の中でぶーたれてる俺の右手首を何者かに掴まれた!何ヤツ!?まぁハンゾウだろうが。
「ほら、引っ張るからしっかり握るでござるよ。」
「何時もすまないねぇ……」
「ポンコツあるじの世話は慣れてるでござ――っ!?」
その時、瓦礫の山が突然揺れ始めた。
ヤバイ!そう思った俺はハンゾウの手を掴もう――パシンっと手を弾かれた……
「サラダバー。」
あれ?ハンゾウさん、何処行ったの?腕をグルングルン動かすけど空を切るばかり……
ちょっと!埋まってるんですけど!?
ゴゴゴ――って揺れが大きくなってるんですけど!?
っ!?あの鳥野郎また1人で逃げやがっ――
ドッカーーーーーン!!!と大爆発。
吹き飛ぶ瓦礫と俺。
岩や石が俺の身体を容赦無く襲う。
そして開けた視界、眼下に見えるは藍の着流しに1本の刀を差し、ココさんを小脇に抱えた白髪のイケメン侍。
空を飛び、瓦礫に翻弄される俺を指さし、腹抱えて笑うハンゾウ……
「あああああああへぶぅっ!!!」
岩の直撃を頬に受け、俺は思う……俺が一体何をしたってんだ……グスン……
そして放物線を描くように、地面に叩きつけられた俺。
瓦礫に翻弄され続けた俺が受け身など出来るはずもなく、その勢いを殺せずゴロンゴロンと地面を転がる。
瓦礫と共に転がる俺は、突然、頬に受けた強い衝撃と「へぶぅ!!!」と言う俺の声、そして海老反りな体勢でその勢いを止めた……
モチロン止めたのは、ココさんを小脇に抱え、ニヒルな笑みを浮かべたハンゾウ。
だがハンゾウさんよ……ご主人の顔を足蹴にするってどーよ?
「無事脱出できてなによりでござるな。あるじ。」
「あぁ……ありがにゅ……だがごにゅじんの顔を踏んじゅけて止めると言う方法にゅ異議を申したいんだぎゃ……?」
「ココ殿を抱えてたでござるからなぁ。緊急的措置でござる。」
「いにゃいにゃ!片手空いてりゅじゃねーきゃよ!」
「細けー事はいいでござるよ。はっはっはー。」
『グロオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
「ん?あるじの腹の音でござるか?」
「いにゃいにゃ、腹減ってねーしゅっ!」
そう言いあいながら、大きな音?の発生元であろう瓦礫の山があった場所を見る。
今だ、もうもうと土煙が漂う瓦礫の山があった場所に見える巨大な影……
「にゅ?にゃんかいりゅな……」
「そこそこな大きさでござるな。ま、弱いヤツ程大きさに拘るでござる。能率悪いでござるに……」
ちなみにこの間も足を退けようとしないハンゾウ。
喋りづらいんだよ!このドSインコめ……
『グロオオオ!!!この様な狭い場所に400年も封印しやがって!!!人間も勇者も神もブチ殺してくれるわ!!!』
其処に居たのは体長50m以上ありそうな4本角の漆黒のドラゴン?
「にゃんだアレ?知り合いきゃ?」
「あんな下品な輩知らんでござる。大きいだけのトカゲでござろう?」
「トカゲは喋りゃんだりょ?」
「うちらにしたらトカゲもドラゴンも大差無いでござる。」
『んんー?貴様らか?我の封印を解いたのは!褒めてつかわすぞ!我の名は邪龍王グラシャ――!!!』
「よっこいせぃ!」
ハンゾウの足を外して立ち上がる。
あぁ……服ボロボロじゃん……パンパンと埃を払うも意味あるんだろうかレベル……
『我の――』
「あぁ~えらい目にあった…。」
『此の世界の絶望を――』
「ボロッボロでござるな…。」
『神に反逆を企て――』
「修繕不可能レベルだな……まあそんな事よりココさんを治療だ!」
『あの憎き勇者共を血祭――』
「あのトカゲずっと喋ってるでござるが…?」
『この様な屈辱を与えた者等に――』
「ほっとけよ。それよりココさんのが重要だ!」
正面に、ブーンと歪んだ収納空間の入り口を発生させ、手を突っ込み、ソーイングセットとココさんと同じ生地を取り出す。
「待ってろよーココさん!今手当するからねー!」
「あて布はあるじが沢山纏ってるでござるからなー。」
「ちゃんと同じ布使うっつーの!」
演説ドラゴンを無視し、背を向けココさんの治療?に取り掛かる
破損個所の大きさを確認し、布を裁断するハンゾウ。
布を受け取り俺が縫い合わせていく。
チクチクチクチク――
『――!――――!!――!――――!!!』
その間も自分に酔ったように喋り続ける邪龍王グラシャなんちゃら……
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「うし!お腹はこんなモンかな?」
「うむ。綺麗でござるな。継ぎ目がわからんでござる。」
「んじゃ次は右腕っと…」
『――という訳で!貴様等には復活した我の最初の礎となってもらおう!有難く受け取れぃ!!!』
微妙な力の集まりを感じる!
振り返るとヤツが……邪龍王グラシャなんちゃらが口を大きく開け、何かやらかそうとしていた。
口の中では光が集まり、どんどんと光度を上げてゆく。
その光が最高潮に達したその時、ぼけーっと見ていた俺達目掛けて放たれた。
荒れ狂う炎、灼熱の温度、そして爆風に飲み込まれる俺達……
『がっはっはっは!此れから我が混沌の世界を作り出して見せようぞ!生きるもの全てに絶望を与えてやろうぞ!グロオオオオオオオオオオオ!!!』
圧倒的な破壊の力?に歓喜し、雄たけびを上げる邪龍王グラシャなんちゃら。
この程度で何を喜んでやがる……
てめえの火遊びのせいでココちゃんの右手が焦げたじゃねぇかよ……
下等生物ごときが……死をもって償え……
パシュン!と自身の放った暴力的な力が掻き消え、辺りを静かな、だが恐ろしい程の殺気が包み込む。
邪龍王グラシャなんちゃらは、その殺気を受け本能的に声を無くし、驚愕に目を見開いていた。、
炭化した衣服を纏い、ピンク色のぬいぐるみを抱えた俺達は、ただ静かに、そして濃密な殺気を込めて糞トカゲを見つめていた。
『な!ななな……何なのだ!?貴様等は!何故無事でいられるっ!』
「うるせーよ糞トカゲ!てめぇの火遊びのせいでココさんの右腕の傷が広がっちまったじゃねーか!!!」
そう言って抱えていたぬいぐるみのココさんを邪龍王グラシャなんちゃらに向かって突き出す。
破れた布部分の端っこが焦げて、中の綿が見える面積が増えていた。
おいたわしや……
「しかもココさんお直し用の生地まで燃やしやがって!同じ生地はもう無いんだぞ!!!」
『そ……っ!そんな事我の知った事かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
「ココさんはなぁ……ココさんはなぁ!俺が生まれた時に母ちゃんと姉ちゃんが手作りしてくれた大事な友達なんだああああああああああああ!!!」
俺の叫びと同時に膨大な力が溢れ出す。といっても全力の1%にも満たないんだが、これ以上出すと星が壊れそうだし。
だがその力は周辺の瓦礫を吹き飛ばし、俺を中心に大地は陥没し、天を覆う黒雲全てを吹き飛ばし、俺とハンゾウの身体に辛うじて付いていた炭化した衣服をも吹き飛ばした。
やべぇ!真っ裸じゃん!
邪龍王グラシャなんちゃらは、自身が経験した事もないであろう、圧倒的な力の奔流の前に、恐怖し、ガタガタと震えはじめた。
俺の身体は光り輝き(全裸の為、一部自主規制)、普段糸目だった目が完全に開き、バンダナの取れた額には金色に輝く第三の目が邪龍王グラシャなんちゃらを射抜いた。
今のその姿(一部モザイク)はまさに神々しく、纏うオーラはまさに神秘的!超絶カッコイイ!!!
「自画自賛乙でござる。」
「心の声につっこむな……」
『な……なんなんだ貴様等の……その力は!?2000年以上を生きた我が恐怖するだと!?ゆ……許さんぞぉぉぉぉ!!!』
「あぁー?なんだ年下かよ。若造が!」
俺はビシっと邪龍王グラシャなんちゃらを指さす。
「躾けてやんよ!」
地面を蹴って一気に肉薄する。
お前程度には見えんだろうよ。
『っ!ど……何処にグハァ!!!』
顎へ向けて挨拶代わりの膝蹴り。
邪龍王グラシャなんちゃらの身体が浮く。
「其の一!会話は友好的に!」
「多分聞こえてないでござるよ……」
どうやら顎への一撃で邪龍王グラシャなんちゃらの意識が飛んだらしい……でもボコるのを止めない!
浮いた身体に右ストレート。
大地と水平に吹き飛ぶ邪龍王グラシャなんちゃら。
「其の二!人の話を無視しない!」
「それ…おまゆうでござる…」
背後に回り込んで背中に回し蹴りを入れる。
海老反りで、無理矢理方向転換させられる邪龍王グラシャなんちゃらの身体。
「其の三!無暗に暴力を振るわない!」
「今あるじのやってる行動は……」
横飛びしてる邪龍王グラシャなんちゃらの首に踵落とし。
地面に埋まる巨体。
「そして其の四!悪い事したら!ごめんなさいだぁぁぁ!!!」
俺の右腕に光が集る、更にギュンギュンと回転し始める。
その渾身の一撃を、地面に叩きつけられた邪龍王グラシャなんちゃらの頬面に叩きこんだ。
「スクエアー!!!」
俺の拳から放たれるパワー・スピード・回転をモロに受けた邪龍王グラシャなんちゃらの頭は……
「あ、加減間違えた……」
ブチっと首から離れて、高速回転しながら空の彼方に飛んで行った……南無……
スタっとハンゾウの元に戻る俺。
やり切った感満載の良い笑顔で額の汗を拭う。真っ裸(一部自主規制)だが……
「やはり高嶺先生は偉大だ。」
「高嶺殿はサウスポーでござるよ…しかも躾けと言いながら殺ってるでござるし……」
「細けー事はいいんだよ……」
何も無い荒れた大地に、首から血をドクドクと吹き出す巨大なドラゴンの死体……
そして平和な会話する真っ裸な二人……
これは2人の裸族による無人島開拓記……じゃないよ。