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強肩強打の凄い奴  作者: 白井雪男
中学3年生
7/13

卒業式(近藤姫乃編)




3月初旬、ついに中学の卒業式当日だ。無事卒業することができたとは言うが、中学校までは義務教育なのだから、3年間1日も通わなくても卒業はできるだろう。いや…?この場合、ちゃんと学校に通えることができて、進路が確定したから、無事卒業って事になるのかな?




気温は日に日に高くなり、冬の厚着のままでは、暑ささえ感じる気温となっていた。プロ野球はオープン戦が開幕し、月末には選抜甲子園の開幕とレギュラーシーズンの開幕という野球シーズンの到来だ。




「卒業かぁ…」




マフラーもネックウォーマーもいらないくらいの暖かい気温の中、中学最後の日を無事迎える事が出来た。この際はっきり言うと、中学生活の思い出より、野球の思い出の方が多かった。まあ、これに関しては致し方ないだろう。慎ちゃんだって、健ちゃんだってきっと同じだ。しかし…




「わーん…ひめのちゃあーん…」


「高校でも…ぐすっ…高校でもやぎゅう、がんばっでっ~~~」


「うえーん…え~~~ん…」


「うん…私、頑張るから…」




私は卒業式で咽び泣く友達の姿を見て、こっちも泣きそうになっていた。原因は、ガリバーズ女子の3人組だ。




通称カリバーズ女子(補足・上から順番に、吉川結衣(よしかわゆい)岡本紫苑(おかもとしおん)小林真夏(こばやしまなつ))。この3人組は大の野球好きで、大阪出身にも関わらずみんな東京ガリバーズのファンある。で、学校では少し浮いていた私とよく一緒になることが多かったし、塾も一緒に通っていた。私自身も数少ない親友だと思っている。ちなみに、3人とも4月からは別々の高校に進学する予定だ。そして…




「おーい、姫乃ー」




慎ちゃんが卒業証書の入った筒をブンブンに振って、私に駆け寄って来た。「俺、2組の北條(ほうじょう)とか5組の近本(ちかもと)から告白されたわ」と爽やかに笑う翔ちゃんは、ボタンはおろか、制服も女子たちに獲られてシャツ一枚になっていた。




「…しっかし、相変わらずモテてますなぁ」


「いやぁ、参ったよ」




明るい性格で、野球だって上手い慎ちゃんは、学校内でも随一のモテ男だった。…でも、少し嫉妬しちゃうな。私は全然モテないのに。




「寒いから、って貰ったけど、さ。これどうすればええん?」




慎ちゃんが手に持ってたのは、女子用のコート。




「着ればいいんじゃないの?せっかくだから」


「ったく、他人事だと思って」




そう言いながらも、慎ちゃんは満更でない様子だ。




「…ちょっと羨ましい」




私はおどけて、女子用のコートを羽織り、周囲から喝采を浴びている拓ちゃんに話しかけた。




「何が?」


「いや、モテモテでさぁ…」


「姫乃だってめっちゃモテとるやん」


「ううん、全然。慎ちゃんとちがって、告られたことないし」


「ホンマか。今だから言えることなんやけどな、裏でお前のこと狙っている男子はめっちゃ多かったで」


「…マジ!?初めて知った…」




私が慎ちゃんとこうやって色々と話した。だって、こうやって話すのは今日が最後なのだから。




◇ ◇ ◇




で、ひとしきり騒いで、泣いて。そんな感じで私たちの卒業式は終わった。そして…




「姫乃、帰るぞ」




今日がお互い一緒に登下校するのが最後だというのに、当たり前のように、慎ちゃんが隣に寄ってきた。




「うん」




私も当たり前のように返事をして一緒に帰る。そんな関係が他の男子たちには羨ましかったのかなぁ…と、そんな事を私は考えていた。帰り道は、しばらく空を見ながら、ふたりで取り留めもない話をした。


慎ちゃんは同級生や後輩から何人も告白されて、その返事を全部断ってしまったらしい。そして私はガリバーズ女子から、手紙を貰っていた。




「あいつらから、何貰った?」


「手紙」




3通あるそれは、何枚もの便箋が入った分厚い封筒だ。きっと、私に対する想いが書かれているんだろうんな。




「家に帰ったらきちんと読むから」




私は慎ちゃんに向かって、嬉しそうに苦笑いした。それにしてもいい天気だ。私たちの卒業を祝福しているかのような、そんな青空。そして…




「おーい、姫乃ー」




慎ちゃんが私に向かって声をかけて来た。




「姫乃、リボンくれ」




直球だった。




「…今?」


「うん。今欲しい」


「だったら私も慎ちゃんの第2ボタン欲しい」


「そうだな…交換こだな」




家に向かって、ゆっくりと歩く私たち。そんな私たちをよそに、ウグイスの鳴き損ないが、遠くから聞こえて来た。




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