日本一のバッテリー
私・近藤姫乃は大阪府の東大阪ボーイズという野球チームで野球をやっている。ポジションはピッチャーで小学校の時野球を始めた時からずっと変わらない。
中学3年の夏休み、私が所属している東大阪ボーイズが夏休みに行われた全国大会で優勝した。そして胴上げ投手でもあった私は、テレビで何回も取り上げられた。自分で言うのも何なのだが、私が男子のチームで活躍する女の子だからかな?しかし、東京から美人のアナウンサーとかプロ野球で活躍した雲の上のお方が取材に来るとは思わなかったなぁ。
「姫乃ちゃーん、サインちょーだい!」
「近藤さんテレビ見たよ!高校どこ行くん?」
「姫乃ちゃん、学校の誇りやわ」
この日は2学期の始業式当日。夏休みの野球での活躍が認められ、私は全校生徒の前で表彰された。そして、式が終わると各クラスのホームルームになるのだが、テレビに出たことで有名人となった私の前に学年・クラスを問わず、行列ができてしまったのだ。
そんなこともあって、この日は私を囲む人の壁が途切れることはなかった。1年生から3年生まで学年関係なく私の周囲を取り囲んでいた。んまぁ、改めてテレビの力って凄いんだな…って思った。しかし生徒の大半は、野球についてそこまで詳しくないので、学校の軟式の野球部と硬式のクラブチームの違いを説明するところから始めていた。
◇ ◇ ◇
「姫乃、もう別世界の人間になったみたいだわ…」
「でも、中学野球であそこまで騒がれるとは私も思わなかったもん」
「最初はスポーツニュースでちょっとだけやってただけなのな…女の子がエースナンバー背負ってガリバーズカップで優勝に導いたって」
「ほんとこの2週間で世界が変わったよ…それに私、今度の週末、テレビの収録で東京に行くし」
「それホンマか!?」
「うん。放送は来月初め」
「俺、絶対見るからな!」
「ありがとう…」
私とこう肩を並べて下校するのは、家が隣同士の幼なじみでもある森本慎也。小学校からずっとバッテリーを組んできた相棒でもあり、チームではキャプテンで4番。Uー12やボーイズリーグの日本代表にも選ばれている。そして、来年からは誰もが知る高校野球界の絶対王者、大阪松蔭高校に進学する予定だ。
「そういえば、姫乃って高校どこ行くん?」
「言わない。でも、女子野球部のある高校に行くつもり。で、お父さんのようなプロ野球選手になりたい」
「プロかぁ…姫乃が初の女子選手になるかもしれんのやな」
「うん。で、プロで慎ちゃんともう一回バッテリーを組みたい」
「そうか…俺、松蔭で甲子園5連覇して、絶対プロになったる!」
「そう、その意気込み待ってました!」
私と慎ちゃんはこうして2人で歩いているうちに帰宅。私はいつもこうやって、慎ちゃんと一緒に登下校をしている。都合にして片道10分。
正直、私は高校でも慎ちゃんと一緒にバッテリーを組んで、甲子園を目指したい。その気持ちはかなり強い。慎ちゃんは優秀な捕手で、私との息もぴったりだ。しかし、高校野球では女子の公式戦参加が認められてない。どんなに実力があっても、女子部員がいないと試合ができない高校でも、女子というだけで練習試合が限界なのだ。
「んじゃあ、姫乃」
「うん、慎ちゃん。でも着替えて昼食べたら練習付き合ってよ」
「ああ、わかっとるわ」
「じゃあしばしのお別れだね」
私と慎ちゃんはこんな話をしながら、お互いの家に入り、しばし別れるのであった。まぁ、お互いの部屋が窓越しで見えるから、その気になったらすぐ会えるんだけどね。
私はそんな慎ちゃんがかっこよく思い、そして愛おしく思い、好きで好きでしょうがないのだ。…たとえ高校が別々で、お互い親元を離れるとしてでもね。