1 完全なる敗北
それは、現代世界では『一〇式戦車砲』と呼ばれるものだ。
その名の通り、最新鋭兵器『一〇式戦車』の主砲。ドイツ・ラインメタル社製の四四口径一二〇ミリ滑腔砲・L四四を参考に、日本企業と防衛装備庁で新規開発されたその兵器が、ここ異世界に転送されてきていた。
兵器は即座に使用され、不死者の少年がいた草原へ何十発と撃ち込まれた。
「あー、やっぱもっと派手にいきたかったけど、うちの火力じゃこんなもんか。できれば街ひとつぶっ壊せるくらいの火薬量が理想なんだが」
その声は、空中にホバリングする飛行兵器から聞こえてきた。
飛行兵器に下部につけられた、雪上ソリのような着陸脚に一人の男が足をかけている。
その兵器は、UH-Xと呼ばれる多用途ヘリコプター。しかし、操縦席は無人だった。
『影』がなんらかの力を使い、操っているのだ。
「おーおー、でもかなりぼっこぼこになってるね。俺様のポリシーであるデストロイ&カタストロフ! が反映されてるぜ!」
いや、男を『影』と表現するにはもう違う。
その風貌は、黒いフードローブ姿ではない。迷彩柄を纏った一人の兵士の姿をしていた。
そして彼の背後には、空中から無数の砲台が突き出ている。
本来は、戦車の車両に付随しているはずの砲身だけが、浮かんでいた。
まるでロボットアニメの遠隔無線兵器のように、迷彩柄の男の周りを浮遊している。
その姿は、現実世界を知るものがみれば、まるで仏神像の光背のようだと表現したかもしれない。
迷彩柄の男は、右手につけた腕時計――それはスマートウォッチと呼ばれるものだ――に向かって話しかける。
「データロード。M4カービン」
男の手元が虹色に光る。粒子が集まり、小型の突撃銃が生まれる。それは米軍兵士の主力として採用されている自動小銃だ。
人を軽く殺める弾丸の発射速度は毎分七〇〇から九〇〇発。
「砲弾でも銃弾でも、オートで無限装填。異世界ならではだな」
男が生み出した小銃、そして空中で浮遊する一〇式戦車砲の弾丸は無限に供給される。それが彼の固有能力《豊穣神ウカノミタマ》だ。
男が見据えるはるか先に、砲弾の雨でぐちゃぐちゃになった大地が見える。
「ノア。映像とっとけ」
『了解』
ヘリの横には、小型のドローンが同じくホバリングしていた。
そのドローンは、撮影のためにさらに上空へ飛び上がる。
対してヘリは、ゆっくりと降下を始める。
そして迷彩柄の男が大地に降り立つ。
ボコボコになった爆心地はそこからわずか三〇メートル程度の距離だ。
男はM4カービンをくるくると回しながら、爆心地の少し横、吹き飛ばされ四肢が破損したぼろ雑巾のような少年のもとへと歩き出した。
* * * * *
突然飛来した爆発物によって殺される少し前。
僕は散り散りにされた肉体のまま、かろうじて意識を保ち『影』を視認していた。
――こんなにすぐ再会できるなんてな。
でも、もう限界だ。
身体がものすごく熱い……!!
意識が消えゆく……僕の世界を、闇が襲う。
暗黒に包まれるこの感覚は激痛よりも、むしろ寂しさのほうが強い。
痛みは耐えることができる。孤独は無理だ。
慣れることのない、虚無による支配。
僕という存在が。
消え去る。
しかし僕は。
消滅と孤独への恐怖で狂いそうになる中で。
血みどろで笑う。
「今日がお前の命日だ」
冷たい死がやってくる。
僕は幻想的な景色に包まれた。




