5 選択画面
そして。
死んだはずの彼女が目覚めたのは、真っ暗な空間だった。
「あれ……私、お風呂に入ってて……」
なにも見えない。地に足がついている感覚もない。
暗黒の空間にふわふわと浮いているみたいだ。
闇の中なので感覚でしかわからないが、身体には何も身につけていない。
全裸だった。
「ちょ、ちょっと、なんなの……? これ」
うっすらと。
この空間で気付く直前の記憶が思い出されていく。
自分の家のお風呂に入ってウトウトしていたら、突然胸が苦しくなって……。
それで慌てて目を開けると、視界一杯が濁った黒い煙で覆い尽くされてて……。
驚きと共にまた濁った煙を吸い込んで……その瞬間、喉と肺が焼けるような痛みを感じて咳き込んで……。
その咳き込みによってさらに煙を吸い込んで……。
そこで記憶は途切れていた。
「……ああ、そうか」
凜々花は至ってシンプルな結論にたどり着いた。
「私、死んじゃったんだ」
自分の人生の終焉。
そして自覚。
「あんな簡単に人って死んじゃうんだ……」
しかし、彼女はその事実にショックを受けた気配はない。
「……まあこんな才能もない人生、これで終わってもいいかな」
ふと脳裏に浮かぶ、両親の顔。しかし、その表情は心配しているようなものでも、温かく迎え入れるような笑顔でもない。
また、人様に迷惑をかけたのか。という呆れの表情。
「……もう、疲れたよ」
自虐の笑みを浮かべ……そして、ポロポロと涙を流し始める。
「たった一人の読者の感想すら罵倒しかなかった……。一度で良いから、自分の作品を認めてもらいたかった……。落ちてばっかりは、やだよ……」
彼女の流す涙の雫は、ぼたりぼたりとこぼれ落ち、何もない真っ暗な空間に吸い込まれていく。
どれくらい時間が経っただろうか。
「あれ……これ、なんだろう?」
生前の後悔を経て、むしろこの暗闇を受け入れつつあった凜々花が、何かを見つけた。地面もなにもない掴み所のないこの空間の、下の方から。
ぼんやりと灯る光が見えた。
その光の行方を追うと、それは凜々花の右手からだった。いつのまにそこにあったのだろう。ついさっき全裸と気づいた時は何も持っていなかったのに……。しかし事実として右の手中には愛用のタブレットが収まっている。
凜々花は右手を持ち上げ、光る画面を覗き込む。
そこには、
『貴方は魔術師に選ばれました』
『異世界では最強の力を持ち、好きなように行動できます』
『貴方は全種類の魔術を魔力消費ゼロで使い放題になります』
そして。
『異世界に転生しますか? はい いいえ』




