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 そして。


 死んだはずの彼女が目覚めたのは、真っ暗な空間だった。


「あれ……私、お風呂に入ってて……」


 なにも見えない。地に足がついている感覚もない。


 暗黒の空間にふわふわと浮いているみたいだ。


 闇の中なので感覚でしかわからないが、身体には何も身につけていない。


 全裸だった。


「ちょ、ちょっと、なんなの……? これ」


 うっすらと。


 この空間で気付く直前の記憶が思い出されていく。


 自分の家のお風呂に入ってウトウトしていたら、突然胸が苦しくなって……。

 それで慌てて目を開けると、視界一杯が濁った黒い煙で覆い尽くされてて……。

 驚きと共にまた濁った煙を吸い込んで……その瞬間、喉と肺が焼けるような痛みを感じて咳き込んで……。

 その咳き込みによってさらに煙を吸い込んで……。


 そこで記憶は途切れていた。


「……ああ、そうか」


 凜々花は至ってシンプルな結論にたどり着いた。


「私、死んじゃったんだ」


 自分の人生の終焉。


 そして自覚。


「あんな簡単に人って死んじゃうんだ……」


 しかし、彼女はその事実にショックを受けた気配はない。


「……まあこんな才能もない人生、これで終わってもいいかな」


 ふと脳裏に浮かぶ、両親の顔。しかし、その表情は心配しているようなものでも、温かく迎え入れるような笑顔でもない。


 ()()()()()()()()()()()()()。という呆れの表情。


「……もう、疲れたよ」


 自虐の笑みを浮かべ……そして、ポロポロと涙を流し始める。


「たった一人の読者の感想すら罵倒しかなかった……。一度で良いから、自分の作品を認めてもらいたかった……。落ちてばっかりは、やだよ……」


 彼女の流す涙の雫は、ぼたりぼたりとこぼれ落ち、何もない真っ暗な空間に吸い込まれていく。


 どれくらい時間が経っただろうか。


「あれ……これ、なんだろう?」


 生前の後悔を経て、むしろこの暗闇を受け入れつつあった凜々花が、何かを見つけた。地面もなにもない掴み所のないこの空間の、下の方から。


 ぼんやりと灯る光が見えた。


 その光の行方を追うと、それは凜々花の右手からだった。いつのまにそこにあったのだろう。ついさっき全裸と気づいた時は何も持っていなかったのに……。しかし事実として右の手中には愛用のタブレットが収まっている。


 凜々花は右手を持ち上げ、光る画面を覗き込む。


 そこには、


『貴方は魔術師に選ばれました』

『異世界では最強の力を持ち、好きなように行動できます』

『貴方は全種類の魔術を魔力消費ゼロで使い放題になります』


 そして。


『異世界に転生しますか? はい いいえ』


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