5 覚醒前夜 その⑤
中央通りに備え付けられた臨時の街灯が、村の大人たちによって片付けられ始めている。もうほとんどが油切れになってしまっているからだ。中央通りの出店も、ほぼすべてが店じまいに忙しい。
僕とシャルは幕切れが近い降臨祭の名残を惜しむようにゆっくりと通りを歩く。
「そういえば聞いた? 最近また魔女が出たって……。リーバイン城の近衛騎士まで捜索に駆り出されているって」
「へえ、それは物騒だね」
「だから、ユーリィも気を付けてね」
「『災厄の執行者にして呪いの化身』――『呪いで人を支配し、すべてを食い尽くす』だっけ? 今の時代はむしろ魔女より隣の国との争いのほうが大変だって。気にしすぎだよ。『呪い』だってあやしいものだし」
「またそうやって軽々しく……ほんとに心配してるんだからね」
「ありがとう。気持ちはしっかりと受けとったよ」
僕らの足取りは自然と帰路に向かい、ついにそれぞれの家への分かれ道にたどり着いた。
「今日は楽しかった! ユーリィ、ありがとう」
「こちらこそ。何度も言うけど、シャルの歌、すごくよかったよ! これでぐっすり眠れそうだ」
「神様をたたえる歌を子守唄にする気!? まったくもう……」
互いに顔を見合わせて笑い合う。
「ねえ、お城の近衛騎士団試験もうすぐでしょ?」
シャルは胸元のアーシア神像の首飾りをいじりながら、
「……私、神父様からのお給金ずっと使わないでとっておいててね、そのお金があるから私もお城までいけるの。だから……応援しにいってもいいかな」
「え……いいのかい? だって、ずっと貯めていたんじゃ……」
「貯めたお金は、いざというときに使うためにあるのです」
幼馴染の少女は、人差し指をピッと立て神父様の真似事をするように言う。
「……シャル」
心が温かく、満たされていく。
「じゃあ……じゃあ、お言葉に甘えるよ。うん。絶対に受かってみせるから」
「ふふ……期待してる」
「また明日、教会で」
「ええ、また明日ね」