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12 精霊の少女 その⑧

 さらに数刻が経ち。


「ほんとですって。リーバイン城で働いていた村のお姉さんから聞いたんですけど、こうやって右の横の髪だけつまんで結んで、輪っかみたいにするのが流行ってるんです」


「いや、それ可愛いか? 動きにくくなるし、かたっぽだけって変じゃないか?」


「いまは髪を留める髪飾りがないからそう見えるんです。花をつけたり、リボンで結ぶとすごく可愛くなるんですよ。かたっぽだけが変って、どこのおじさんの意見ですか。当たり前を崩して変化を受け入れることが個性なんです」


「ななな……! おじさんって貴様……!」


 二人がとりとめなく話をしている中、扉が開く音がした。


「「!!」」


 精霊の長が部屋に入ってくる。


「ローラ。お前はまた賭けに勝ったようだ。人族が目覚めたぞ」


 シャーロットとロラマンドリは、顔を見合わせ、急いで治療施設へと走った。


   *  *  *  *  *


 二人が急いで治療施設に入ると、大きな植物製のベッドから身を起こした少年の姿があった。


「ユーリィ!!」


「シャル!!」


「ユーリィ! ユーリィ! ユーリィ! あっ……!」


 ベッドに近づいたシャーロットが、目覚めたユーリィをみて目を背ける。


 全裸にもかかわらず、身体を起き上がらせていたからだ。


「?? ……あっ!」


 ユーリィが、いそいそとベッドから抜け出し、身体についた樹液をぬぐい、服を着始める。

 彼の刻印は、顔も身体も、浸食が半分程度に収まっていた。


『因果共鳴』の効果もあって、精霊の加護ともいうべき治療が効いたのだ。


 少女二人のあとを追い、精霊の長も戻ってくる。


 服を着た亜麻色の髪の少年が、三人に感謝を述べる。


「長さま、なにからなにまで、本当にありがとうございました」


「ローラのためだ。気にするな」


「シャル、ありがとう。君が青毛の『影』をやっつけてくれたって、長さまから聞いたよ」


「ううん、そんなこと……! 私、無我夢中で……!!」


 順に礼を伝えていくユーリィだが、


「そこの……赤毛の精霊さん?」


 ロラマンドリのほうを向いて止まった。


「(そうだ、ユーリィはトカゲさんの本当の姿をまだ知らなかったわ……!)」


 シャーロットが不安げにことを見守る。


 赤毛の少女は、やれやれと言わんばかりの勝ち誇った表情で、


「ふん、貴様は我が誰かわからんだろうが――」


()()()()()()()()、ですよね」


「!?」


「(なぜわかったの!? 今初めて見たはずなのに……。それに『トカゲさん』じゃなく『ロラマンドリさん』って……)」


 シャーロットだけではない、赤毛の少女当人も驚く中、亜麻色の髪を持つ少年はどこかを見つめながら語り始める。


「僕は、ここで眠っている間、夢を見ていました。まだ燃える前のヴルカン村で……僕はまだ小さい子供で……悪しき疫病にかかって床に伏せっていました」


 精霊の長が食い入るようにユーリィを見つめている。


「そのとき、なぜかロラマンドリさん、貴方が、ずっと僕の傍にいて、勇気づけてくれていました」


「人族、貴様……」


 ロラマンドリの脳裏には、ある映像が浮かんでいた。


 それは、『因果共鳴』中、燃えるように熱い身体を悶えさせながら幻視した光景。

 幼少期のユーリィが、病に伏せっている。いつのまにか、火蜥蜴が一匹、枕元で心配そうに彼を見守っている。


「あなたは、僕の症状が良くなるようにって、とっておきの薬をくれた。どんな難病にも聞くという、貴方の……火蜥蜴のしっぽです」


 少年が一睡して目覚めると、枕元には火蜥蜴のしっぽが置かれていた。そして、それをつまみ上げる誰かの手。少年が見上げると、赤毛の少女姿のロラマンドリがいた。


「なぜか少女の姿の貴方は、しっぽを果実水に煎じて飲ませてくれたんです」


 少女はそっとユーリィに白樺製のコップを差し出す。


「人族の噂では、飲むと口の中を火傷する……って聞いていたけど、そんなこともありませんでした。ぽかぽかと、身体の中が温かくなるだけでした」


 少女は、少年が寝入るまでずっと枕元でいてくれた。


「疫病は、魔女がもらたすもの……そう信じられていたけど……あれは嘘だなって思いました。まだ少ししか貴方と旅はしていませんが、貴方は、あの夢みたいに、常に僕を見守ってくれている……そんな気がしました。なぜなら、あの夢の中の少女は、僕の懐で一緒に戦ってくれたロラマンドリさん。あなたの匂いがしたから」


 少年が朝起きると、すっかり身体は元気になっていた。家族が集まり、大喜びしている。しかしそこに、赤毛の少女はもういない。


「命を賭してまで、僕を助けてくれて、ありがとうございました。ロラマンドリさん」


 それを聞き、かあっと顔を赤くする少女。


 そして即座に顔を横に向け目を逸らし、


「わ、わかったならいいんだ! 二度と、私をトカゲなどと呼ぶなよ!」


 ユーリィは優しく微笑んだ。

 周りのシャーロットや精霊の長もつられて笑顔になる。


 そんな柔らかな雰囲気の中、ユーリィが何かに気づいたようにハッとして、


「そうだ、トカゲさん!」


「き、貴様、人の話を聞いていたのか!?」


「いや違うんです、違わないけど、そうじゃなくて……!」


 説明がもどかしいというようなそぶりの少年が、ようやく本題を切り出す。


()()は、どうなりましたか?」


 ピクリ、と。


 ロラマンドリもそれを聞いて、表情を改めた。


「ああ、人族。貴様の願い通りになっているはずだ」


 ふーっと、ため息をつく赤毛の少女。


()()()もきちんと持って帰ってきたぞ。貴様から渡すがよい」


 懐から、薄い板金を取り出す。

 それは、知識があるものからはタブレットと呼ばれているものだ。


   *  *  *  *  *


 隠された森の大地。


 精霊の里、世界樹の根本。


 ユーリィが昏睡状態でずっと眠っていた治療施設。


 実は、あの施設には別室がある。


 そこには、もう一つ植物製ベッドが置かれていた。


 そのベッドの中には、賞金稼ぎギルドの館でユーリィたちへ襲いかかってきた少女、


 長い青毛を持つ『影』――リリカが眠っている。


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