10 精霊の少女 その⑥
眠り続けるユーリィ。
彼の顔半分以上、そして身体の三分の二を覆うその禍々しい刻印は、治療の樹液から逃れようとするかのように微細に蠢いている。
全裸のロラマンドリが、ベッドを覆う膜を突き抜け、中にはいる。
ちゃぷ、という音と共に、液体の中で眠る少年の傍らに寄り添い、そして添い寝をするように抱き着く。
――なぜ私は、この人族にここまで目をかけるのだろうか……。
意識のないユーリィを見つめながら、自問自答する。
――教えてください、マリアン様。なぜあなたは、この人族についていけと仰ったのですか?
――無意味な闇の神託は行わないあなたです。もしかして、これも思惑通りだとでもいうのでしょうか?
――まさか、こやつが私の行くべき道を示すものだというのですか?
――まさか、この人族が、三種族を繋ぎ合わせる救世主とでも?
――馬鹿馬鹿しい。
――こいつはただの、闇の神に命を売った『虚ろな者』です。
赤毛の少女は目を閉じる。
『因果共鳴』とは、接触する二人が互いの性質を分け与える儀式である。接触は身体的にも精神的にも深くあればあるほど感応度は高まる。
魔族としてではなく、精霊としての性質をユーリィに分け与え、『精霊専用』の治療の効果をより強めようというのが、ロラマンドリの狙いである。
そうでもしなければ、あの刻印の浸食はもう限界であることは明白だった。
「くっ……! あっ……」
赤毛の少女が悶え苦しみ始める。『因果共鳴』は、彼女の生命力も同時に奪っていく行為だからだ。
「あっ……ああっ……あっ……」
――身体中が、焼けるように熱い。
――私の、真っ赤な炎が、闇のように黒い炎に埋め尽くされていく……。
――ふ、ふざけないで! 私は火の精霊よ。あなたになんか、負けない……!
眠る少年の横で、身体をよじり悶え続けるロラマンドリ。
――もしも万が一。本当に、この人族がそうだというなら。私はこの人族を……最後まで、見届けます。私を、三種族を、救うものだというのなら……。
なおも苦しみつづける赤毛の少女。
そして、二人の身体が、赤い光に包まれる。
「ああっ……あああああっ……!」




