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4 覚醒前夜 その④  ★挿絵アリ★

挿絵(By みてみん)

「はい、シャル」


「ありがとう、ユーリィ」


 中央通りにはこの日だけ、村中のみんなが出店を準備する。通りの両脇には色んな食べ物や飲み物、それに見世物もあって、夜中まで賑やかだ。


 教会の賛美歌は降臨祭の始まりの合図ともいえる。


 大仕事を終えたシャルは、普段着に着替え、いつもの三つ編みおさげ姿で僕と一緒に出店を回っている。

 二人で食べ物を買って、食べ歩きしようという彼女の提案に二つ返事で了承した。


「うまい! この、変な色の野菜と挽肉が挟まれてるパン美味しいね!」


「ふふ、そうでしょ。今、リーバイン城下町で流行ってる食べ物みたい。というか、変な色とか言わないで。もしかして知らないで買ったの?」


 他愛のない話をしながら中央通りを歩く。


「さっきの歌、本当にびっくりした。あんな大役を任されていたなんて……」


「も、もう、やめてよ。たんに順番が回ってきたってだけだから」


「村一番の美声は伊達じゃなかったね!! あの歌ならきっと天のアーシア神さまにも届いてるに決まってるよ」


「今日に限って言えば、そうであることを祈るわ。感謝の気持ちが伝わってるといいなぁ」


 そう言って夜空を見上げるシャル。

 遠くを見つめる彼女の横顔を不意に覗き込んでしまい、僕は思わずドキっとする。


 なぜなら。こんな近くで彼女の横顔を見ることなんて今までなかったから。


 とても大きな薄翠色の瞳、美しい朱鷺色の髪、滑らかに曲がる長い睫毛、ツンと上向いた鼻筋、陶器のように白い肌……僕の心臓の鼓動がなぜかどんどん早くなって……


「ねえユーリィ」


「うはい!! な、なんだいシャル!?」


「……? どうしたの? 大声出して。こんなに近くにいるんだから聞こえてるわよ」


「うん! そうだね! 近いね!! どきどきだね!!」


「……変なユーリィ。ね、あそこで少し休憩しない? ちょっと歩き疲れちゃって」


 幼馴染の少女が指差す先には、簡易的なテーブルと椅子があった。出店ついでに好意で設置してくれたのだろう。ご丁寧にもテーブルの上には蝋燭まで備え付けられている。


「ふう、疲れたね」


「うん、でも楽しい!」


 二人で座って笑い合う。


「えっと、変なこと聞くんだけど……」


 横の出店の店主が出してくれたイヤフ茶のカップを両手で包み込みながら、シャルが恐る恐る切り出してきた。


「ん?」


「私と、初めて会ったときのこと覚えてる?」


「もちろん! 7~8輪廻(リンネ)位前かなぁ。神父さんの後ろに隠れてた僕の手を引っ張って、一緒に遊ぼう!って言ってくれたよね。あれは嬉しかったなぁ」


「ふふふ……」


 朱鷺色の髪の毛をいじりながら、嬉しそうに笑う少女。

 あれ、なんか変なこと言ったかな……。


「ユーリィの優しいところ。あのときのその言葉は、ユーリィが言ったのよ。勝手に歴史改変しないでね」


 そっか……バレてたか。


「あのね、それだけじゃないの。君のもっと優しいところは、いままでもずっと、私の両親について何も聞いてこないところよ」


 そうか、これもシャル、気づいてたんだ……。


「私の両親は、魔女の魔薬研究の影響で発生したと言われてる疫病で死んだ。それは呪いの病気だったから、私は忌み嫌われたわ」


「……」


 イヤフ茶のコップを両手で包んだまま続ける幼馴染。


「この村にも、孤児としてやってきた。最初は不慮の事故と言って神父様がごまかしてくれたけど。すこし経てば、みんな私のことを詮索して、両親の噂は一気に広まったわ。それからはみんなにずっと避けられてた。こっそり傍に来てくれた子も、魔女の『呪い』について知りたかっただけ」


「シャル……」


「けど……けど、ユーリィだけは違った。ユーリィだけは、そんなこと気にせずに、私と一緒に遊んでくれたよね。なにも、聞かないでいてくれたよね」


 そう、僕は気づいてた。だからこそ、なにも言わなかった。子供ながらにそのほうが絶対にいいことだと信じていたからだ。


 そうして少女は薄翠色の瞳で真っ直ぐに僕の方を見つめて、


「私、ユーリィをたった一人の家族だと思ってる」


「うん」


「だからね、これからもずっと、私の前からいなくならないでほしいの」


 いなくなってしまった両親のことを思い出したのかもしれない。彼女は俯いて、首飾りとしてつけている胸元のアーシア神像を握りしめた。


 そんな幼馴染の少女を見て、僕は――


「シャル。僕は自分の家族を失うなんていうことが幸いにもなかったから、君の痛みがわかるなんておこがましくて言えない。でもこんな僕でもたったひとつだけ伝えられることがある」


「なに? ユーリィ」


 顔を上げ、僕を見つめるシャル。


「僕は、ずっと、シャル……シャーロット=エアリエルの傍にいる」


 真っ直ぐ、彼女に向かって思いを伝える。


「……ありがとう」


 シャルは目をすこし擦るようにして微笑んでくれた。そうして向かいの出店を指さしながら、


「ね! 今度はあれを食べましょ!」


 いつもの明るい声で誘ってくれた。



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