2 闇の神の力 その②
闇の神と契約した翌朝。
魔女の館の門の前で、僕は自分の右手を見つめながら魔女に問いかけた。
「まずは、リーバインの城下町に向かいます」
「まあそうね。あそこもボッコボコにされたようだし、手がかりがあるかもしれないわ」
旅の支度は、ありがたいことに最低限の荷物をマリアンが準備してくれた。
残酷で邪悪な存在と子供の頃から聞かされていた魔女だけど、この人だけ特別に優しいのか、本当は違っていたのか。どちらにせよ、世間に流布される噂と真実は異なっていることも多い。
「なにからなにまで、本当にありがとうございました」
「あんたがあいつらに復讐するってんなら私も安心して眠れそうだからね。さっさと殺してきてちょうだい」
マリアンの優しい悪態に、つい顔が緩む。隣のシャルもクスリと笑っている。
魔女は懐から煙草を一本取り出して、指先に小さな炎を灯して火をつける。
「あんたは人族でも魔族でもなくなった。せいぜい絶望の道を楽しむのね」
「……」
ふーっと煙草の煙を吐きながら、
「……遠視魔術で観たあいつら、人族も魔族も、分けへだてなく殺戮してたわ」
「分けへだてなく……ですか?」
「そ。普通は、殺しには憎しみってものがくっついてる。今のあんたみたいにね。でも、あいつらからはその匂いすら感じられなかった。そうね……なんというか、幼い子供が無邪気に虫を踏みつぶすように」
「憎しみがない……でも、だからってなぜあんなひどいことを……」
「それがわかってれば世話ないわね。あんたを助けてもいないわ」
「あの、マリアンさん」
「なあに?」
「……あのトカゲさんにも感謝を伝えていただけますか」
そう。実際に村から魔女の館まで、シャルと僕を運んでくれたのはあの口の悪い火蜥蜴だったはずだ。
それを聞いて、すこし驚いた感じになるマリアン。
「ええ、わかったわ」
「今までお世話になりました」
「だからあんたのためじゃないから。さっさと出ておいき」
マリアンはフン、と息を吐きながら、しっしと手で追い払うしぐさをする。
「あの、最後に一つだけ聞かせてください」
「なによ?」
「僕には、どんな力が宿ったんでしょうか」
「……」
マリアンはすこし黙ったあと、口の端を吊り上げて、
「我らの神はもったいぶるのが得意でね。すぐにわかるわよ」




