21 勇者の降臨 その⑨
リーバインとオティーヌの国境、紛争地区カルグ市。
両軍の兵士たち全員が倒れた戦場で、たった一人生き残った少年。
彼は、煉瓦製の路地脇に転がっていた大きな石を椅子代わりに座り込み、スマートフォンを必死に操作していた。
「マジで、なんだよ……これ。本当にラノベだ。ええと、この武器が『エクスカリバー』か。名前だけで最強ってわかるぜ……全属性攻撃を付加ってほんとかよ」
調べれば調べるほど、今の自分が置かれた状況が尋常ではないことに気づく。
「待ってくれ。これが本当だとしたら……この世界では、俺は王になれるじゃないか」
アヤメの顔が、疑心暗鬼による不安の表情から、徐々に邪悪の笑みに染まっていく。
「いや、王よりももっとすごいぞ。……そう、俺は『勇者』だ、『勇者』なんだ。選ばれた人間なんだ!」
椅子代わりの大きな石から立ち上がり、一人で空に向かって叫ぶ。
「それをこの世界で証明してやる!! みてやがれ、俺をバカにしてきたやつら!!」
アヤメはひび割れたスマートフォンを操作し、『アピアランス エディットモード』を選択する。
「クク……ククク……」
タッチスクリーンを高速で操作、そして最後に『done』を押すと、アヤメの顔や体が光に包まれた。
彼の風貌が、パラディン(聖騎士)のように変化する。
「俺は勇者だ!! この世界を、俺が救ってやる! ククク!! クカカカカカカ!!!」
* * * * *
「俺が、この世界を救うのだ」
ぼそりとつぶやく。
「ん? なんか言ったかい? ボス?」
前を歩く黒いフードローブが一人、後ろを振り返る。
「いや、なんでもない」
王の間から出て廊下を歩くアヤメたちは、オティーヌ城の従者の案内で迎賓室に向かっている。
従者が言うには、オティーヌ王の指示通り、最高級の部屋を用意しているとのことだ。
歩きながら彼は、手に持つひび割れたスマートフォンを見つめる。
「まず、この国からだ」