20 勇者の降臨 その⑧ ★挿絵アリ★
リーバイン神皇国とオティーヌ王国。
隣接する二つの国は、互いの宗教的解釈の相違から、国境線付近で常に小規模な諍いを起こしていた。リーバインにとっては最西端、オティーヌにとっては最東端にあたるこのカルグ地方もその一つだ。
国境があるカルグ市街で、両国の攻防戦が続いていた。
重厚な鎧に身を包み、鈍色に光る刀剣を携えたリーバインの兵士と、鎖帷子と片手剣、小型の円盾という軽装で、機動力を重視したオティーヌ兵士。
カルグ市中心部に引かれた国境線を境に両軍が睨み合う緊迫の状況下、
そのど真ん中に、
異世界転生したアヤメが空から落ちてきた。
「うわああああああ!!!!」
煉瓦が敷き詰められた街路に叩きつけられるアヤメ。
突然現れた闖入者に、両国の兵士は一瞬ためらうも、
「てっ敵軍斥候の先制だ!! 応戦開始!!」
「敵兵の陽動だ!! ひるまず突撃せよ!!」
双方誤解をしたまま、両軍は戦闘に突入した。
アヤメは、両サイドから襲い来る兵士たちの殺意にただただ戦慄する。
「ひ、ひいい、ひいいいいい!!」
天空から落ちたダメージが身体に一切ないことにも気づかず、腰が抜けたように情けなく後退りするアヤメ。
その時、左手に持つスマートフォンが虹色に光る。
アヤメの身体を黄金の鎧が包み込み、手には豪奢な片手剣が出現した。
「ひいいいいいい!!!! く、くるな!! くるなあ!!」
彼は無我夢中で、急に現れた右手の片手剣を振り回す。
するとその剣は、眩い光を放ちながら、目の前に迫り来ていた何十人という兵士をすべて両断した。
ドサドサドサ! と、上半身と下半身に別れた亡骸が地面に落ちていく。
「え……?」
あっけにとられるアヤメ。
それは襲いかかってきていた両軍の兵士たちも同じだ。
兵士たちも驚きを隠せない。
「な……何者……!?」
「ひ、ひるむな……! かかれ!!」
続いて、第二陣の集団が切りかかってくる。
「わ、わああああ!!」
呆然とした状態からようやく我に返ったアヤメだが、もう遅かった。
片手剣による牽制よりも敵兵の攻撃のほうが早い。
殺されると感じ、思わず目をつむるアヤメ。
兵士たちの剣が、彼を斬り伏せる。
しかし。
その剣撃は、キィン! という高い金属音と共に鎧によって弾かれた。
磁石の斥力のように斬りつけた剣は兵士の手から離れ後方に吹っ飛んで行ってしまう。
「え……?」
ようやく、目の前の存在が異質なものだという疑念を抱き始める。
その疑いは、畏怖に変わっていく。
「な、なんだこれは……」
「ば、化物……」
自らの防御性能に驚いていたアヤメは、ようやく右手に持つ豪奢な片手剣を一振りした。
再び、何十人という兵士たちが一瞬で両断される。
「て、撤退だ! 撤退!!」
後方にいた指揮官が、泡を吹きながら指令を出す。
リーバイン神皇国、オティーヌ王国の両軍の兵士が一斉に逃げ出し始めた。
ようやく状況を把握しつつあったアヤメは、その状況を唖然としながら見届けていた。
「ん……?」
彼は右手の片手剣が薄く光っていることに気づく。
そして、もう一度、剣を中空で振ってみる。
すると、剣から虹色の波動が発生し、逃げ出す兵をすべて真っ二つにした。
「は、はは……。マジ笑える……なんだこれ」