19 勇者の降臨 その⑦
死。
暗闇。
真っ暗。
漆黒世界。
無限の晦冥。
虚無空間。
そして。
覚醒。
生。
* * * * *
「こ、ここは……?」
死んだはずの少年は、
「えっと、俺、アキバの交差点でトラックに轢かれて……」
奇妙な空間で目を覚ました。
「……俺、死んだんじゃ……? なんで、生きてるんだ……」
真っ暗な空間に、少年はふわふわと浮いていた。
あたり一面すべて闇ではあったが、少年の身体が薄く虹色に光っているため、かろうじて自身の存在は認識できた。
だとしても、この暗黒の世界はなんなんだ。
脳内で事態の整理が追い付かず混乱している中で、ふと、少年の手に持つスマートフォンが、自分の身体よりも強い光を放っているのがわかる。
不良グループの一人に、カツアゲついでに踏まれてひび割れてしまったスマホ画面。
そこには、奇妙な文面が表示されていた。
『貴方は勇者に選ばれました』
『異世界では最強の力を持ち、好きなように行動できます』
『貴方は全属性の攻撃を付加する片手剣「エクスカリバー」と、全属性の攻撃を無効化させる防具「アルスルの鎧」をはじめから装備しています。固有能力として《破壊神》を得ます』
そして。
『異世界に転生しますか? はい いいえ』
最後には、謎の選択肢。
「は、あ……? なんだこれ……ラノベかよ」
少年は困惑してはいるものの、
「いや……まて。つまり……これって……。まさか、『貴方は死にました。でもそれは神の手違いでした』ってやつ?」
彼が子供のころからずっとプレイしてきたゲーム的な考え方、なにより自分が好きなラノベジャンルそのもの。それらを下地とした状況判断能力で事態の把握に努める。
「つまり、『人生』ってソシャゲがバグ起こしたから、『詫び石』がわりに、最強装備を差し上げますってこと……?」
少年は薄く笑いながら、
「選べもクソもないっつーの」
おもむろに、『はい』をタッチ。
次の瞬間。
真っ暗だった空間が一面虹色の光に覆われる。
少年――東雲アヤメは異世界に転生した。