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18 勇者の降臨 その⑥
秋葉原の中央通りと神田明神通りの交差点。
その道路の真ん中に、血だまりが広がっている。
血だまりの中心には、一人の少年が仰向けに倒れていた。
少し離れた路上には、ひび割れたスマートフォンが落ちている。
交差点周辺では、事故を目撃した通行人の悲鳴や、救急車を呼べ、という緊迫した声がこだまし、あたりは騒然としている。
この事態を引き起こしたトラックは、突っ込んだ猛スピードそのままに御茶ノ水駅方面へ走り去った。
ひき逃げの事故現場を見た誰もが思った。
即死だ、と。
つまり。
少年の短い人生は、ここで幕を閉じたのだ。
――刹那。
ひび割れたスマートフォン。
路上に落ちている小型の携帯端末が虹色の光を帯びたのち、消滅した。
その不可思議な現象はしかし、現場にいた誰も気づかなかった。
次に、少年の身体も。
虹色の光を帯び、道路のど真ん中から消え去った。
「え……?」
「いま、消えたぞ……?」
彼の救命処置をしようと駆け付けた通行人たちは、呆然として固まった。
夢か幻か。
少年がいた痕跡を示すのは、道路の真ん中に広がる血だまりのみだった。