17 勇者の降臨 その⑤
今日は、寄り道をした。
山手線の秋葉原駅で降りて、街をブラつく。ただそういう気分なだけだったのに。
今、少年は秋葉原の路地裏で、不良グループのカツアゲに遭っている。
お小遣いをもらったばかりで、財布には高額のお金が入っていた。失いたくない。そう思って抵抗をしたのがいけなかったのか、不良は彼の脇腹を思い切り殴りつけた。
少年はうめき声をあげながら、路上に倒れ伏す。
「素直に出しときゃ良かったのにな、ボク?」
なんで一日に何回も、こんなやつらにカラまれなきゃいけないんだ。
痛みになれていない身体は、情けなさと相まって、目から涙が零れる。
「おいおい、この程度で泣いちゃってんじゃん。最近の若いもんは根性ねえなー」
「おいおい、お前も若いだろって」
「おーし、臨時収入ゲットだぜ!」
不良たちは軽口をたたき合いながら、倒れた少年の頬に、現金が抜き取られた財布を投げつけた。
悠々と去っていく不良の一人が、近くに落ちていた少年のスマートフォンを踏みにじる。
「あ……」
急いで少年が拾い上げるも、その画面にはヒビがくっきりと刻まれていた。
* * * * *
ふらふらと路地裏から出てくる少年。ゴシゴシと、腕で涙をこすっている。
「もう帰ろう……」
無気力につぶやき秋葉原駅のほうに足を向ける。と、道の向こう側の書店の看板が目に入った。
『異世界に転生したら、スクールカースト最底辺が最強の軍師になった』
最新刊、好評発売中!!!!
「へえ……書籍版、もう出てたんだ」
今大人気のライトノベルの新作告知だった。一年前くらいだろうか。この作品をネットで見つけて以来、ファンとして楽しんできた少年は書籍版の購買者でもあった。道向こうの書店に立ち寄ってから帰ろうと、横断歩道を渡ろうとする。
しかし、
「そうだ、お金……」
紙幣は不良にすべて奪われてしまっていた。
これではお金が足りず、新刊を購入することができない。
「(どうしよう……! 一回帰って戻ってくる? いや、それなら地元の書店を探した方がいいか。でもアキバのほうが特典が豊富だし……)」
立ち止まり思案する少年。
その時間は、三秒にも満たない短いものだった。
ただし、信号のシグナルが赤色から青色に変わるには、十分な時間でもあった。
「あぶない!!!!」
どこかから、叫ぶ声がした。
それが自分への警告であると理解する前に、
「え……?」
少年は、走ってきた大型トラックに吹き飛ばされた。