16 勇者の降臨 その④
学校の校庭。
「良かった……あった」
急いで廊下から取りに向かった少年は安堵する。地面に落ちているスマートフォンを拾い上げて、付着した砂や土をポンポンと手で払う。
画面を服の袖で拭ってから、足早に帰途についた。
* * * * *
少年の自宅は、高校の最寄駅から二回電車を乗り継ぎ、市営バスに乗って数十分のところにある。
今は、一度目の乗り継ぎを経て山手線の電車の中だ。
彼は比較的すいていた車内の端に立ち、スマートフォンで『ついにブラックホールの観測に成功しました』という科学ニュースを読んでいる。
「? あ……」
ニュースサイト閲覧中、メッセージアプリの通知がスマホ画面に現れた。
クラスのグループチャットへ誰かが投稿したようだ。
少年が率先してアドレス交換したわけではない。入学して早々、お節介なクラスメイトの一人がクラスの交流を図るため、強引にクラス全員のグループを作ったのだった。
『そういやさ、誰か昨日の日本代表戦見た? めっちゃ感動したんだけど!』
『みたみた! あそこで大逆転とはな~!!』
『すげーよ! 大興奮!!』
なんとなく。
ほんの出来心で、少年も参加してみたくなった。
もしかしたらここから、みんなの輪に入れるかもしれない……。
彼は、勇気を振り絞って書き込む。
『後半のメンバー交代が勝因だよね』
しかし、その彼の書き込みについては、
『ん? いま誰か書いた?』
『いや、誰も』
『気のせいじゃないww』
と書き込まれた。続いて、
『ところでさ、明日土曜で休みじゃん。みんなで東京ユニバーサルパークにいこうぜ!』
『さんせー! ホーンテッドライドに乗ろう!』
『そこのアトラクションの隣にあるスモークチキンの屋台が美味しいらしいよ!』
と会話が進んでいった。
先の自分とのやりとりは、たまたま話の流れ的に冗談で流されたのかもしれない。
そう自らに言い聞かせ、もう一度だけ、彼は勇気を出してメッセを送る。
『そこの屋台スタッフに「オバケの分もください!」って言うとおまけでキャンディをもらえるらしいよ』
少年がひねり出したコメントへ返ってきたメッセは、
『またなんか、キモい気配がww』
『いやー、無視でしょ無視w』
『てかなんでグループ入れてるしw』
『とっととさっきのTUP行くの、出欠とろーぜ!』
『おう!』
グループのみんなが「はーい」「了解」などのスタンプを投下し始めた。
『おお、すっげ、全員じゃん! じゃあ参加は33名ってことで!』
少年は、グループチャットのヘッダーを確認する。「34」という表記を見て、ため息をついた。




