15 勇者の降臨 その③ ★挿絵アリ★
新学期。
とくに高校に進学した四月の始業式からの一週間は、とても大事だ。
生徒にとっては学校が生活のほぼすべてといっても過言ではない。自分の居場所を見つけられるかどうか、その居場所が居心地いいかどうかで、その後の学校生活がバラ色になるか泥色になるかが決まる。
自分をより安寧な環境に置くために、だからこそ新学期の一週間は大事なのだ。クラスの中でのスタンスとポジションを決める試金石になる。
それがわかっている学生は、積極的に友達作りに励んだり、同じ趣味やスポーツを嗜む生徒がいないかと周りで交わされる会話に耳を立てている。
わかっていない学生は、当然置いていかれてしまう。
クラス中の生徒が自己紹介をし始めているにもかかわらず、一人机に向かってスマートフォンをいじっていたりするからだ。
そしてそのミスを一週間やり続けてしまった少年がいた。
引っ込み思案な性格だったからなのか、もしくは自ら交流を排斥したからなのか、どちらにしても、彼はクラスでは浮く存在となってしまった。
一学期中盤の五月。
彼はいまだにクラスメイトとの向き合い方を決められないまま、現在に至る。
* * * * *
放課後。
周りのみんなが帰りの支度をしている。明日の行事や次のテストについて会話しながら、連れ立って帰っていく。部活に行く生徒もいれば、帰りに寄り道して仲のいいグループで遊ぼうとする生徒もいた。
その少年は、誰からも声をかけられない。
彼はずっとスマートフォンの画面を見ながらひっそりと教室を出る。
廊下を歩いて下駄箱へと向かう。
彼の長く伸びた前髪では、前方が隠れて見えなくとも仕方がなかったかもしれない。
つまり、少年の『歩きスマホ』のせいで、ドン! と他生徒と廊下でぶつかったのだ。
「いってえな」
ぶつかった相手は、おそらく上級生。衝突した左腕あたりをポンポンとはたきながら、こちらに睨みをきかせている。この上級生は、不良グループに所属していると一目でわかる見た目だった。少年が、最も嫌っていて、避けて通りたいタイプ。
「す……すみません」
前髪で隠れた顔を俯かせながら謝罪する。
「あ? 聞こえねー。声小さすぎんだよお前」
「あの、だから、すみません」
「ああ? だからってなんだよ。てめえ?」
「いえ……その、すみません」
「ちっ。……たく、こんなもんみてるからだろっと!」
苛立ちを抑えきれない上級生は、少年からスマートフォンを奪い、廊下の窓から投げ捨てた。
「あ……!」