13 勇者の降臨 その①
オティーヌ王国。
主要産業は鉄鉱石。山岳地帯が多く、そのいくつかで鉱山が発見されて栄えてきた。
人口は約三二〇万人。大多数は農民や商人、炭鉱夫であるが、騎士や傭兵といった武装組織も一定数存在する。
政治形態は封建制度。オティーヌ王が最高権力者として統治している。
隣接するリーバイン神皇国とは思想、政治形態、文化様式などが非常に似通っているにもかかわらず、数百年にわたって紛争が続いている。これは信仰する宗教の違いから来ている。リーバインはアーシア神を崇拝し、オティーヌはティルトー神を崇拝しているからである。
国としてのまつりごとは王都で行われる。
王都の中心にはオティーヌ城があり、さらにその最頂部には、王の間が控えている。
王の間には歴代の王が鎮座してきた、由緒正しき黄金の玉座があった。
今も、その玉座には現在この国を統治している最高権力者・オティーヌ王が腰を下ろしている。
しかし、その表情は支配者のそれとは異なり、どこかおびえていた。
その理由は、城主の目の前に立つ四体の『影』にあった。四体すべて、黒いフード付き外套を羽織り、顔を隠している。
影のうちの一人が城主に報告をする。
「――というわけです。リーバイン神皇国はほぼ壊滅ですね」
報告を受けた王が信じられないといったような顔つきで、
「いったいいかなる呪術で、このような成果を……? わが王国と、かの国は三〇〇年にわたって争っていたというのに……」
その重い問いかけに、『影』は肩を竦めながら飄々と答える。
「まあまあ、いいじゃないですか。で、この取引は成立ですよね?」
「あ、ああ……あいわかった。この王国の半分の富と権力を差しだそう……」
「ってことです。ボス」
その『影』はうしろを振り返る。どうやら同じ見た目の『影』たちにも階級分けのようなものがあるらしく、後方に立つ別の『影』に可否を問う。
ボスと呼ばれた『影』が口を開く。
「では、取引成立ですね。まずは我らが滞在するための部屋に案内していただきたい」
影は、そう言うと、フードの中から奇妙な薄い長方形の板金を取り出した。
板金に影が指先で触れる。
すると黒いフードが消え去り、まるで伝説のパラディン(聖騎士)のような風貌に変わった。
「!!」
その風貌に驚愕したオティーヌ王は、玉座から降りてひれ伏した。
「しかと、承りました。『勇者』様……」
聖騎士となった影はふっと笑い、他の影に手で退出の合図をする。
あとには、王の間の床に平伏した王だけが残された。




