12 覚醒前夜 その12 ★挿絵アリ★
「マリアン様、やはり収穫はなしです」
「ま、はじめから期待なんてしてないわ」
あれから長い時間をかけて魔女マリアンによる聞き取りは続いた。
もちろん黒い来訪者についてだ。
ただ、隠すこともない代わりに何の情報も持っていなかった僕は、彼女たちにとってはまさに助け損といったところだろう。
隣に座る三つ編みおさげの少女も同様だった。彼女もまた特筆すべき情報は持ち合わせておらず、ただ申し訳なさそうに俯くのみだった。
「……こんなものね。もうこっちの用は済んだわ。ほら、目が覚めたならさっさと出ていきな。人族は嫌いでね」
「ふん。帰るあてなんて無いだろうけどなぁ、ヒッヒッヒ」
「あと一刻待ってあげる。それまでにここから消えてちょうだい」
部屋から出ていこうとする魔女。
「待ってください」
しかしそこで僕が声をかけた。隣に座る幼馴染の少女が不思議そうに見つめてくる。
僕は、目覚めてからずっと考えていた。
想いの丈を、吐露する。
「あの黒いやつらは、僕からすべてを奪い、消え去りました。どうして……いったいどうしてこんなことに……僕の、僕の人生は、こんなのじゃ、ぜんぜん、ない……」
魔女がその深刻な声音に立ち止まり、僕の方を向いた。
「だから……だから、こんなことをしたやつらは、報いを受けるべきです」
僕は顔を上げ、真っ直ぐに魔女を見つめる。
「マリアンさん。あなたは、魔女だ。『災厄の執行者にして呪いの化身』……。呪いで人を支配し、大切なものを奪い、人のすべてを食い尽くす」
「あぁら? わかってるじゃない?」
「でも、この言い伝えには続きがある」
ピクリとする魔女。
「へえ? どんな?」
「大切なものを奪い、人のすべてを食い尽くす。しかし引き換えに、人へ『魔』の力を与える……」
隣の少女がますます不安そうに見つめる。
ごめんねシャル。
僕は、もう決めたんだ。
続いて僕は魔女の肩を――正確には肩に乗る生物を――見つめ、
「そこのトカゲは――」
「トカゲだと!? 貴様人族、我は由緒ある火の精の――」
「おだまりロラマンドリ」
「むぎゅう!」
「ぼうや、続けて」
「は、はい。そこのトカゲ……さんは、今起こっている惨状を『災厄』だといった。だとするなら、この『災厄』に立ち向かう術を、魔女のあなたなら、持ってますよね」
「……それで?」
「僕を、『魔』と契約させてください」
「ユ、ユーリィ!」
驚きで言葉を失うシャル。不安そうに胸元のアーシア神像を握りしめているのが見えた。
「僕の家族を殺したヤツは、絶対に許さない」
平和でのどかな日常というのは、善行を働くものに自然に訪れるものだと信じていた。
訪れたあとは、その幸運をもたらした神に感謝し、いつもと変わらず生活し、最愛の人と家庭を持ち人生を終えるものだと思っていた。僕が騎士団に入団したかったのも、人と争いたかったわけじゃない。高い給金によって家族を楽にしてあげたかっただけだ。
でも、違った。
幸せな時間というのは、なんの理由もなく、原因すらわからず、何者かの一存によって脆くも崩れ去る。
だったら。
いま、自分にできることは。
「僕は必ず、あいつらに復讐する」
みんなの仇を、討つことだ。
魔女の顔が妖しく嗤った。