プロローグ
村のいたるところが燃えていた。
夕暮れの空の色なのか、建物を焼く炎の色なのか、判断がつかない。
それほどに視界すべてが朱に染まっていた。
子供の頃によく遊び場にしていた教会も、いつも余ったパンをこっそり裏口から分けてくれるスウェインおじさんが営むパン屋も、ねだって買ってもらった水車のおもちゃが売っていた道具屋も、なにもかもが、火の海に沈んだ。
――それは、突然やってきた。
村の中央部を貫く大通りでは、たくさんの村人だったものが、衣類を焦がし、炭のようになって黒く変色し倒れている。幼い子供も、大人も、老人も、残酷なまでに万遍なく。
路傍の石のように転がっていた。
人は簡単に灰になる。
僕の家族も、灰になった。
かあさんも、とうさんも、おばあちゃんも、いもうとも。
村中に燃え広がる炎の中、ほんの数刻前とあまりに変わり果てたこの光景を見て、
僕は願った。
ここはヴルカン村なんかじゃない。僕の生まれ故郷なんかじゃない。
そうであって欲しい、と。
きっとここは――子供の頃に教会で教えてもらった、『地獄』なんだって。
だったら、この悲劇は全部……理解できる。
ここは『地獄』。
だから僕が帰る故郷は、まだある。
そう思えるから。
……でも違った。
ここは僕の知ってるヴルカン村だ。
もちろん、『地獄』なんかじゃない。
なぜなら。
『本当の地獄』は。
これから僕が進む道、その先にあったから。