第3話 レンの編入
ちょっと慌てて書いた気がします。
次の日、レンはいつものように7時頃に起きた。
森から持って来た食料を調理して朝ごはんを食べ、食後にレンが森の植物を利用して作った特別製の紅茶を飲む。
着替えを終えても、時間はまだ余っているので、昨日の晩に片付けなかった荷物を片付ける時間ぐらいならあるだろう。
「さてと、教科書とかは今日もらえるということだから。」
食料などを冷蔵庫の中に詰め込み、服なども備え付けられたタンスにしまう。持って来た荷物はこの程度しかないので、すぐに終わる。
午前8時前、そろそろ学校に行くべき時間だ。
レンは戸締まりをしっかり確認した後、部屋を出た。
学校への通学路にはたくさんの生徒が歩いている。ティリンス学園は私服通学が許可されているので、制服の生徒は少ない。
何でも、学園長と理事長が全員同じ制服なんてつまらない、と言ったことが原因らしい。
そのためか、制服を着ていなくてもレンは特に目立っていなかった。
レンは校舎に入ると、生徒とは逆方向に歩き始める。
昨日言われた通りに職員室に行くつもりなのだ。今の時間は8時10分過ぎ、時間はギリギリだ。
「失礼します。今日、編入予定のレン・シェザードです。」
「どうぞ。入ってくれて構わないよ。」
レンが中に入ると、中には教師が勢ぞろいだ。全員、今入ってきたレンの方に注目している。
「言われたように来ましたが、俺は何組ですか。」
「それなら僕のクラスだからね。後で案内するから待っといて。」
ルイスはレンに返事をすると、すぐに教師たちの話に戻る。
教師たちの話はすぐに終わり、ルイスはレンのところにやって来た。
ルイスはレンに一言かけて、教室についてくるように言った。レンはその後ろについていく。
「待たせたね。君の紹介をするから、呼んだら教室に入ってくれ。」
「分かりました。」
「やぁ、みんな。遅れてすまなかったね。ちょっと編入生が来るようになって、職員会議が長引いたんだ。」
ルイスが教室に入ると、ざわついた空気が少し収まった。
しかし転校生の話を聞いた途端、再び教室内は騒ぎ始めた。
そんな空気の中、一人の少女が不機嫌そうにしている。明らかに迷惑がっている。
「ルイス先生、転校生は男子ですか、女子ですか。」
ありきたりな質問をする生徒たち。ルイスは生徒たちを抑えながら、答える。
「男の子だよ。みんな、仲良くしてやってくれよ。じゃあ、入ってくれ。」
ガラッ、
レンが入った途端、明らかに教室の空気が変わった。生徒たちから驚きや歓迎の声があがる。
前者はレンの持つ武器を見て、校舎は整ったレンの容姿を見て。
レンは3本の刀を持って来た。刀は倭の国の代表的な武器として知られているが、実際にこの国で扱う者は少ない。
対人戦などには刀の速さは武器になるのだが、魔物たちを討伐することの多い騎士団や渡り鳥からは剣を愛用する者が多く、刀は犯罪に手を染める者が使うことが多かった。
そして、レンの顔はどちらか言うと、倭の国に近い顔をしている。髪や瞳の色は違うものの、十分美少年で通じるレベルなのだ。
「レン・シェザード。昨日ここに着いたばかりで、まだあまりここの事を知らないが、よろしく頼む。」
レンは簡潔に自己紹介すると、教室の中を見渡した。
ある一点で、レンの視線は止まった。そこは一人だけ、明らかに空気が違った。周りとは馴れ合おうとしない鋭い刃のようなイメージだ。
(一人だけやけに気品があるな。)
服も高そうな物を纏っているのだが、まるで気品が違う。他にも貴族出身の生徒もいるだろうが、この女子生徒だけは別格だった。
レンの視線がその女子生徒に止まっていたのは一瞬だった。気を取り直して、すぐに教室内を見渡した。
その女子生徒ほどの強い印象を持つ生徒はいなかった。
「席はそうだね、ルナライトさんの後ろが空いていたよね。そこに座ってくれないかな。」
「分かりました。」
ルイスが指差したのは先ほどの少女のところだった。レンが座席に座ったことを確認すると、ルイスは授業を開始する。
「さて、昨日までに魔力についての説明したから、今日は魔法についての説明をするよ。」
「魔法とは大きく分けると、4つの分類に分けることができる。
1つ目は一般的な現代魔法。
その名前の通り、現代に作り出された魔法であり、普通の魔法使いはこれを使うね。
2つ目は古代語魔法。
古代語によって、書かれた古文書を解読することによって、呪文の詠唱文や効果を知ることができる。でも、危険な魔法も多いから主に城やティリンス学園の禁書庫に封印されているから。現代魔法はこれらの魔法を簡単にしたモノだと言われているよ。
3つ目は精霊魔法。
この世に存在する精霊の力を借りる魔法だ。書物に記されているが、元はこれらは全て上級精霊から聞き出したモノだ。しかし、魔力があっても精霊と相性がよくないと使えない。また精霊と契約すれば、精霊に力を貸してもらうことで、爆発的に精霊魔法の威力を上げることができる。
うちのクラスだと、すでにルナライトさんが契約しているね。」
ルイスはそこで一旦止める。生徒たちは尊敬の目をルナライトと呼ばれた少女に向けているが、本人は毛ほどにも気に止めていない。
「さて、最後だけど分かるかな。
じゃあ、シェリフィム・ルナライトさん。何か答えてもらえるかい。」
「はい。
最後の1つは血統魔法。
少ない一族のみに宿った特殊な魔法です。主な力は各血統ごとに違います。このクラスではイリスがその血統魔法の使い手です。」
ルイスは大きくうなずく。
「正解だよ。
イリスは『音』の力を持っている。血統魔法とは大抵、属性に当てはまらない魔法を指差している。
魔法が発達してきた今でも、血統魔法について分かっていることは少ない。
その威力や利便性にしても、イリスが普段は現代魔法を使っていることから、決して優れているわけではないよ。
魔法についての説明はこんなものだけど、みんなに言っておきたいことがある。
魔法とは生まれつきの才能に左右されがちだけど、決してそんなことはない。
魔力量は限界にまで使っていると成長するものだ。
精霊との相性にしても、精霊と仲良くすることは誰にでも可能だよ。
決して自分は才能がないと悲観せずに努力を重ねてほしい。
今日の授業はここまで。じゃあ、解散。」
ルイスは部屋から出ていくと、レンの周りに生徒は集まり始めた。
シェリフィムはすぐに席を動かない。というよりも、動けなくなっていた。
みんなはレンに対する質問をするばかりで、機嫌を悪そうにしているシェリフィムに気付く様子はない。レンも周りにされた質問に律義に答えることしかできなかった。
昼休みになると、レンは昼食をとるために食堂に向かった。場所は前の休憩時間に聞いておいたので、道に迷うことはない。
レンは簡単なBランチを頼むと、空いている席に座った。
周りからざわめきが出るが、レンは一切気にしない。
「何故、わらわの前に座る。」
「問題があるのか、えっとシェリフィムさんだったけ。」
名前を言った途端、シェリフィムはレンの首元の横にレイピアを突きつける。
「わらわの名前を気安く呼ぶな。そう呼んでいいのはわらわが認めた人間だけだ。」
「じゃあルナライトさん。首元からレイピアを退けてくれないかな。俺もびっくりしてルナライトさんを斬りそうになったよ。」
レンもまた、短い方の刀を一本だけシェリフィムの胴体に突きつけている。
「なっ。」
驚くシェリフィムを後目にレンは刀を退くと、元通りに鞘に納めて、Bランチに手をつける。
「レンと言ったな。
次の時間は実技じゃ。そこでわらわの相手をせよ。」
「理由は聞いてもいいか。」
「そなたの実力を知りたい。それでは不十分か。」
「構わない。
早いうちに実力を見せないと、どこにもグループに入れてもらえないだろうからね。」
周りがうるさいが、2人とも気にしないで食事を終えた。
「では先に武道館で待っておる。そなたも早く来るのだぞ。」
シェリフィムは食器を持って席を立った。レンはそのまま座って食べ続ける。
(ルナライトさんか、実力はかなりありそうだな。精霊と契約するだけではなく、それにレイピアの使い手か。)
先ほどのことを思い出しながら、レンは相手のことを分析する。食事を終えると周りの目を気にせず、すぐに席を立った。
先に席を立ったシェリフィムはもう武道館に着いていた。
こちらもかなり焦っていた。
(わらわが刀を突きつけられたことに気付けなかった。あやつかなりの腕前だ。)
シェリフィムとて、この学年だけでいうなら学年トップの自信はある。
レイピアと精霊魔法の組み合わせで倒せなかった敵の方が少ない。
レイピアだけでも大抵の敵なら倒す自信があった。
その自信を根本から揺るがそうとしたレンにわずかに恐れを抱いたのだ。
(うん、あやつは三刀流なのか。あの刀以外にも2本持っておった。)
シェリフィムの疑問は最もだ。もし三刀流だとすれば、そんな相手と戦ったことはない。違うとすれば、相手によって持ち換えているということだ。
(それほどの技能を持っておるのか。)
シェリフィムは昼休みの間に身体を温めておくため、刃を落として切っ先にゴムをつけたレイピアを振るう。
(まぁ、どちらでもいい。やるからには全力で戦い、そして勝つ。)