第2話 学園都市ティリンス
もし、感想などがありましたら、どんどん言ってください。
届いた手紙をさっそく開いたみると、
「拝啓レン・シェザード様
あなたの母親であるユキとの約束で私の理事長を務めるティリンス学園に編入させることにしました。
いきなりのことで驚くかもしれませんが、これはユキが病気に侵された際にあなたのことを頼むという連絡を受けました。
たびたび、あなたを街に行かせて学校に通わせようとしたらしいのですが、手放すのは寂しかったそうです。
お金や住む場所はこちらで用意することができるので、この手紙を受け取った数日後にあなたを訪ねる学園の教師に返事をしてくれると嬉しいです。
敬具ティリンス学園理事長キャメラ・パーミス
P.S.
こちらの手違いで有名ないたずら魔法具『爆発ペーパー』に間違えて書いちゃいました。ごめんね。
でも、書き直すのも今さら面倒なので、読み終わったらすぐにどっかにやってください。けっこうシャレにならない威力だ・・・か・・・ら。」
レンの手紙を持つ手が震えてくる。
チッ、チッ、チッ、
紙が嫌な音を立て始め、嫌な予感が膨れ上がっていく。
レンは慌てて手紙と封筒をグシャグシャにしてしまうと、外に放り出した。
ドカ――――――ン。
爆発音の後を見てみると、外に置かれていたテーブルや椅子が木端微塵になっている。
修復はどう考えても、不可能だ。けっこうな大きさの穴も空いている。
「なんつう、適当な人なんだ。さすが母さんの友達なだけはあるな。」
知らない人だからか、ボロカスに言うレン。しかし、あの爆発が家の中で起こったかもしれないと考えるとゾッとする。
「しかし、学校か。」
口から独り言がこぼれ落ちる。行きたいとは考えていたが、あまりにも現実味がない。
キャメラという人を直接知らないレンからすれば、ただの友達であるユキの息子である自分に何故ここまでしてくれるのかわからなかった。
とりあえず学園の教師とやらが来てから考えるとしよう。
釣り道具を取りに来たことを思い出して、道具の準備をする。
そして、近くにある川に釣りをしに出かけることにした。
釣り糸を川に垂らす。
別に魚を釣るつもりはないので、餌や釣り針は特に付けないで、ただ簡単な錘と一緒に糸を垂らしただけだった。
ぼーっとして時間を潰すにはこれが一番いい。
時たま、馬鹿な魚が錘に食い付くことがあるが、それ以外は特に魚はかからない。
川を見ながら、竿が落ちないように気をつける。
(ティリンス学園か。)
当然、考えているのは先ほど届いた手紙についてだった。
学校に通わせてもらえるということに対して、レンに特に断る理由はなかった。
両親のお墓があるここを離れたくないが、学校にも休みはあるそうなので、その時に帰ってこればいい。 また、始めからこのまま森の中で一生を暮らすつもりはなかった。
外の世界についての教育は一通り受けていたのも、いつかは森から出ていくためだった。
(外の世界か、そろそろ出てみることにしようかな。)
結局、晩になるまで釣り糸を垂らしながら、ぼーっとしていた。
家に帰ってくると、昼間に集めた果物類と置いてある肉を使って、晩御飯を作った。
晩御飯を食べている時、窓を叩く音がした。どうやら今日も来てくれたようだ。
「ほら、これでいいんだろ。」
レンが食べていた晩御飯とは別の小さな器に入れ替えて、自分の晩御飯を1匹の鳥に差し出す。
鳥は嬉しそうに鳴き声を上げると、晩御飯をついばみ始める。
この蒼い鳥は何故かレンのご飯が気に入ったので、毎晩訪ねてくるようになっっていた。レンも始めは驚いていたもの、今では普通に受け入れている。
「ここに来るのはもう終わりだ。俺はここを出るつもりだからな。」
レンは蒼い鳥にそう告げる。レンは街に出てみることにした。やっぱり街に出て、世界を見て回りたいと思う。
両親の墓があるこの場所をほったらかしにして離れるのは少し嫌だが、休みなどに戻ってくればいい。
この蒼い鳥は了承というように首を縦に振る。
「本当にわかってんのか、こいつ。」
蒼い鳥は器の中の食べ物を食べ終わると、すぐに窓から飛び去った。
食べ終わった食器を片付けると、もう寝るだけである。テーブルの上に置いてある本を本棚に片付けてベッドに寝転がると、すぐに眠気が襲ってきた。
そして次の日
「寝坊した。」
レンが目を覚ましたのはもう太陽が空高く昇った昼頃だった。
昨日はレンにとって精神的に疲れることがあったとはいえ、ここまで寝坊するなんて思っていなかった。
(今日は1日のんびりしようかな。)
昨日ものんびりしていただろうが、というツッコミはしないでください。by作者
レンはのろのろと寝巻きから普段着に着替えると、朝食兼昼食の準備を始めた。
昨日の残り物を軽く調理するだけで十分だ。後はいつもの紅茶を入れたら完成する。
(今日はどうするかな。昨日、果物は一通り採ってきたからやることはないし、久しぶりにまともな訓練でもするかな。)
両親が亡くなってから、まともな訓練はしていなかった。一応、日課のトレーニング程度ならしているが、本格的にやっていなかった。
コンコン
ぼんやりと今日の予定を考えながら、食後のティータイムを楽しんでいたレンを現実に押し戻したのは玄関へのノックだった。
「レン・シェザードくんは在宅かな。僕はティリンス学園の教師をしている者だけど。」
「開いてます。入ってください。」
入ってきたのは若い男性だった。微妙にスーツがくたびれているが、気にしないことにする。
レンの目の前にいるこの男性の身体からは、はっきりとした魔力が感じとられる。
(魔法使い、それもかなりの腕前だ。)
これほどの魔力を持つ人間が学園の教師をやっているとは思えない。国の研究所で働けるクラス、もしくはAランクの『渡り鳥』だろう。
「申し遅れたね。僕はティリンス学園の教師をやっているルイス・カールだ。」
「レン・シェザードです。じゃあ昨日の手紙は本当だったということですか。」
「手紙は昨日に届いたのかい。なら、まだ意思が決まっていないようなら」
「いえ、もう決まっています。俺は学園に通いたいです。ルイス先生、よろしくお願いします。」
ルイスの表情が変わる。彼もまたレンの潜在能力に気付いていた。始め、いきなり学園長と理事長から編入させると聞いた時は何を馬鹿なと考えたが。
(こいつなら、きっとあいつらとも仲良くできそうだな。)
「こちらこそ、ティリンス学園に編入おめでとう。」
ルイスは学園で力を持て余しているメンバーたちを思い浮かべながら、レンと握手した。
「こっちはいつでも編入を受け入れられるけど、レンくんはどうしたい。」
「準備は昨日のうちにできています。ですから、こっちはいつでも出発できます。」
昨日のうちに両親への墓参りは済ませておいた。荷物もそうたいしてあるわけではない。
「そうか、なら話は早い。すぐに森の外に出て、馬車を拾うことにしよう。」
レンは家をしばらく空けるため、腐りそうな物を鞄につめ、持ちきれない物は森に埋めていくことにした。
乗り合いの馬車で移動している最中、ルイスはレンに学園のことについて説明していた。
「うちの学園の特色として、特に何かを学ぶというわけではないんだ。
将来は国の騎士になったり、研究所で働く魔法使いもいる。『渡り鳥』も何人かはいるし、家を継ぐ者もいる。
学ぶたい者が学ぶ場所、それがティリンス学園だ。」
レンにとって、その方針はありがたい。レンはまだ何になりたいか決まっていなかった。
「もう一つ、ティリンス学園が導入している制度が『グループ』と『アトリエ』かな。
『グループ』は同学年で形成されるモノで、主に課題を片付ける時に協力し合うモノだ。
『アトリエ』は学年問わず、各々の研究を進められる部屋を貸し出している。これには3グループの共同使用が原則だけどね。」
『グループ』によって、課題の成功率が左右されるから、メンバーを選ぶのは慎重にしないとダメということである。
(編入してくる俺を受け入れてくれるグループがあるのか。)
レンは頭を悩ませる。
しかし、本人は気付いていないが、レンの顔立ちはそれなりに整っており、女子には人気が出そうである。
ルイスは不安そうなレンの様子を見ながら、レンの魔力を観察していた。
(やはり、かなりの能力だ。魔力量ならあいつに匹敵するだろうし、森でずっと過ごしてきただけあって、身体つきもしっかりしている。)
ルイスはかつて軍隊の魔法使い団として働いていた頃がある。
ルイスの魔法使いとしての直感がタダ者ではないと本能が告げていた。
その後、しばらくルイスはレンに学園についての説明をし、レンのする質問にルイスが答えるという時間が続いた。
馬車を何度か乗り継いで、数日経った頃、馬車の向かう先に城壁が見えてきた。
「あれが学園都市ティリンス、ティリンス学園を中心として発展した街だ。
近くには王都もあるから、かなり裕福な街だよ。」
その城壁にはティリンス学園の紋章が刻まれている。
レンにとって、これほど大きな街に来るのは初めてだった。
馬車が城壁の前に着くと、何人かの衛兵がこちらに向かってきた。
「通行証をお見せください。」
通行証など持っていないレンはどうすればいい。レンがルイスの方に向くと、
「あぁ、心配はいらないよ。自分の荷物だけを持っておいてくれ。」
ルイスは懐からなにやら手紙を衛兵に見せて一、二言話すと、衛兵たちは頭を下げた。
「レンくん、来てくれ。武器だけは一応預けてほしい。すぐに返ってくるし、その時に通行証も貰えるよ。」
袋に入れたレンの武器を衛兵たちに手渡した。
衛兵は3つの袋を受け取るとギョッとするも、レンを城壁の内側に通した。
城壁の内側は活気が溢れる街だった。商売人の人を呼び込む声や値切りの交渉をしている声が響き渡っている。
「王都に比べてたら小規模だけど、それでもこの国ではナンバー2の活気だよ。」
ルイスに案内されて、レンがたどり着いたのは大きな門がある建物だった。
門にはティリンス学園の紋章があり、ここがそうなのだと一目でわかる。
校門から一人の少女が出てくる。見た目はどう見ても、12、13歳ぐらいだ。
ティリンス学園は16歳からだと聞いているが、
「やぁ、イリス。今日もかい。」
「はい、ちょっと森の方に行こうと思います。夕方までにはちゃんと帰ってきます。そちらの方は先輩ですか。」
イリスと呼ばれた少女はレンたちが来た道と逆方向を指差してみせた。
「一応、君とは同級生になるんだけどね。レン・シェザードくん、明日編入することになる。」
「よろしくお願いします。イリス・ブルーミントです。」
「紹介された通り、レン・シェザードだけど、君って何歳なの?」
レンにとって当然の質問である。前述のようにティリンス学園は原則16歳から、イリスの外見はどう見ても、それを満たしているようには感じられない。
「彼女は特別な事情があってね。特別に15歳での入学が認められたんだ。」
「はい、ですからよろしくお願いします、レン先輩。」
「えっと、だからって同級生に先輩呼びは。」
「おいおい慣れるから、気にしないでいいよ。イリス、呼び止めて悪かった。気をつけて行ってこい。」
「はい、先生。」
イリスは再び一礼すると、背ほどの長さがある刀を持って歩いていった。
「今のが、イリスだ。あんな外見だけど、実力なら一年生でもトップクラスだよ。」
礼儀正しい子だ。しかし、同級生に先輩呼びされるのはレンにとって驚きだった。
寮のレンの部屋まで案内された。部屋にはすでに机の上にレンの武器と通行証が置かれていた。
「じゃあ、明日は8時15分ぐらいに職員室に来てくれ。職員室は学校に入って、すぐの右側にある。」
そこまで言うと、ルイスは部屋から出ていった。
レンはルイスが部屋を出て、しばらくしてようやく気を抜いた。
レンは一応ルイスのことを警戒していた。そのため、ここ数日の眠りは浅く、疲れていた。
(荷物の整理は明日にでもしようかな。)
レンはベッドに倒れ込むと、すぐに寝息をたて始めた。