4話
りんごは戦いが終わると。かなりリラックスした様子で、ひょいっとアームカッターから降りると、軽い足取りで基地の中へ歩きだした。
「はぁ、終わった終わったー」
りんごは手のひらをパンパンと叩いた。
りんごはふと、自分を見ている誰かの気配を感じた。
「そんな所に突っ立ってないでこっちに来て話そうよ。何か用があるんでしょ?」
りんごは自分を覗いているであろう人物がいる方に話しかけた。
すると、
「あなた、また変えたの?」
レモンの声だ。
レモンが物影から出てゆっくりとりんごに近付いていく。
レモンはリストカッターからりんごが降りるのを待ち伏せていたようだ。
「変えたって?なんのことかなぁ?...」
「.........。」
レモンは何も答えずに、ただりんごを蔑んだ目で見つめている。
りんごは何か思い付いたように、突然手を叩いた。
「嗚呼。そうみたいなんだよね。僕は5人目なんだって。先生が言ってた」
彼女が言う5人目とは、一体なんのことだろう。
「はぁ、私の知らない間に2つも...」
レモンは額に手を当てて、目をつむる。りんごはそれを不思議そうに見ている。
「なに?瀬戸内、かなしいの?」
「まさか、私が哀しむ?冗談じゃないわ」
レモンはクルリとターンしてりんごに背を向けた。
「あと。あなたの前の前の子に伝えておいて、私の勝ちって」
レモンはそう言うと、早足で立ち去っていった。
「......。
はぁ、
そう言われても、もういないんだけどなぁ...」
りんごは自分の胸の辺りを指で突っついた。
ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*
いちごは目を覚ます。そこは暗くて狭いコクピットの中で、いつの間にか拠点の中に戻っていた様だった。
いちごは自分がなぜ気を失っていたかを一つ一つ確認する。
「そっか私あの時に...」
いちごは何があったのか確認するためにコクピットを開いた。外から人工照明のまぶしい光が入ってくる。いちごはその光に目を薄め、少し安心した。
すると、開いたリストカッターのハッチの隙間から、スルリとコクピットへ誰の足が入り込もうとしている。
メンヘーラのスーツはボディラインが強調されるデザインになっている。なので、恵まれた体つきである、その誰かの体が捻ったり動いたりすると、そのメリハリのついた体が嫌でも目についてしまう。
「あの、あなたは...」
誰かはいちごに両手を伸ばして、いちごの両頬手をピタリ添えた。そして、いちごとの距離をグッと縮めると、いちごの右の頬にキスをする。
「やあ、はじめまして、白雪姫」
いちごの目の前にいるのは、可愛らしいボブカットの女の子。
燃えるような赤毛にまるでアンティークのような輝きを放つ金色の瞳。
いちごは約2秒間、固まった。
いちごにとって、いきなり、しかも知らない人に頬をキスされるのは、初めてであったから当然のことである。
「は、はじめまして、は、は、はなぞの いちごですぅ…」
いちごは羞恥心と驚きで声が思ったように出せない、まるで怯えたハリネズミのようだ。
「ふふ、僕は陸奥林檎。よろしく」
りんごは先ほど噛んだいちごを見て、楽しそうに口を指で押さえて笑っている、そんな姿もとても上品でかわいらしい。
「う、うん、りんごちゃん、ね。よろしくね」
「ところでいちごちゃん...。」
「な、なあに?」
「確か、君とは初めて会う訳じゃないような気がするんだ」
りんごは自分の腰の後ろに手を回していちごの顔を覗きこんだ。
「えっ。うーん...」
いちごはしばらく考え込む、いちごは人の顔に対する記憶力はいい方なので一度話したことのある人間ならば忘れることはない............。筈だが、彼女の顔を見たところで何の心当たりもなかった。
「ごめんなさい、私、貴女と会ったことないと思うの」
「うーん、何処であったんだろう............」
りんごはいちごの声など一切聞いてない様子でずっと唸りながら、あーでもない、こーでもないと必死に思い出そうとしている。
「あっ、夢の中だ。それならまあ覚えてないのも無理ないか...」
「え?」
ゆ、夢の中。
いちごは耳を疑った。まるで豆鉄砲でも食らったかのような顔でりんごを見つめている。
自分はこの人と本当に仲良くしていけるのか...。そんな不安がいちごの頭を過った。
「ちょっと!いい加減にしなさいよアンタ。いちごが困ってるでしょ!
ちゅう、だけじゃ飽きたらず、アンタは...」
レモンの声はどこか震えているかなり怒っているようだ。
レモンは力任せに、いちごからりんごを引き剥がした。
「あー、邪魔しないでよ瀬戸内ぃ!」
陸奥林檎の登場により、浦安支部は少し賑やかになった。
新しいメンバーが増えたことでメンヘーラ達は、これでもう少し長生きが出来そうだ。という、希望が芽生え始め、少し全体の空気が軽くなった。