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3話

「今日貴女を呼んだのは他でもないわ」


机や椅子が積み上げられた空き教室。


篠崎先生は窓の縁に手をかけていちごがを見つめる。


「...。」


篠崎先生は風になびく髪を邪魔そうに指で髪を耳にかけた。


「規律違反、ですか?」


いちごの脳裏にレモンのことが思い浮かぶ。いちごは不安そうに眉間にシワを寄せた。


「いいえ、違うわ」


篠崎先生は首を左右に振る。

いちごは表情を崩さないまま少し安堵した、特に叱られるわけではないらしい。

しかし、油断はできない。


「それで、いったいなんの話ですか」


「それは、貴女の固有能力についての話よ」


「アスタリスクソード...」


「そう、その能力は


生前貴女の事を愛していた個人の力がそのまま、貴女の力になる...」


いちごは身を引き裂くような心の痛みに襲われた。犠牲が出ない限り強くなれない能力、心優しいいちごには荷が重すぎる能力。


「つまり、誰かが死なない限り効果を成さないわ」


「それで、私は一体、どうすればいいんですか?」


「どうもしなくていいわ、愛と言うのは突拍子もなく不確定なものよ。

大体この体の能力は私達が管理するには大分手を焼くわ。」


「それに貴女、あの子とは違って女受けが悪そうな顔をしてるわね。」


篠崎先生はいちごに顔を近付けてまじまじといちごの顔を見つめる。そんな篠崎先生にいちごはちょっと身を引かしている。


「...はずれ能力ね」


篠崎先生はいちごに気を使わず、目の前で大きなため息をついた。子供に失望した時の大人のため息だ。


「まあ、使いこなせるようにせいぜい頑張りなさい。」


そう言って篠崎先生は部屋から出ていってしまった。




ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー




「みんなぁ、大変だよ。りんごちゃんが帰って来るよ!」


みかんが上履きをバタバタと鳴らしながら廊下を走り、そう大声で知らせる。


今日もメンヘーラ達はリストカッターの教習を受けるために学校の教室に集まっている。


いちご以外の全員がみかんの言葉に反応し、視線をみかんに向けた。


「えぇ!本当?いつだって?」


一番最初にメロンが食い付いた。


「次の月曜日!」

「何時?」

「んー。何時だっけ?忘れちゃった。でも、午前中に来るって」

「なるほどなぁ。始まる前に来てくれるといいんだけど...」


メロンが悩ましげ眉間にシワを寄せて唸った。


「ねぇメロンちゃん。さっきから言ってるりんごちゃんってなんの人なの?」


いちごはメロン達の話についていけず、たまらず質問した。


「あー。いちごは会ったことなかったね。その子は陸奥 林檎、うちのエースさ」


メロンは自信たっぷりにニヤっと笑って見せた。


そう、陸奥りんごはいちごがメンヘーラになる大分前からこの浦安支部にいるメンヘーラであり、全国にいるメンヘーラの中でも五本の指に入るほどの強さを誇る。


正にエリート中エリート。


「エースって。みかんちゃんより強い子がいたんだ...」


「あんただって十分強いのに...」


メロンが少し不服そうにムスッっとした表情で呟いた。


「いや。そんなぁ。私、まだ、全然アスタリスクソード使い方がわかってないのに。」


いちごはばつが悪そうにうつ向いた。


「この前は敵をズバーンって一発で倒したらしいじゃない」


「あれは、誰かが応援してくれたから...」


「誰かって?」


「誰って。それは、私が知りたいくらい...」

いちごは呆けて天井を見上げた。


「うん?それ、どういうこと?」


いちごは前回の怪獣との戦いで怒った出来事について包み隠さずメロンに話した。



「うーむ。それって本当なの?いまいち信憑性がー」


「ほら、これでも嘘だって言えるの?」


いちごはおもむろにポケットからデバイスを取り出して、立体モニターを表示させ、指でひょいっとメロンの方へ飛ばした。


メロンは立体モニターを受けとると、メッセージの詳細や差出人情報を調べた。


「...この御時世に差出人不明のメッセージ...」


「ね。」


「ねっ、じゃないよ!いちご。この時代で非通知のメッセージは違法よ。これを送った奴は十中八九犯罪者なのよ」


西暦2146年には非通知で連絡を取るとこ事態が犯罪とされている。


「でも、非通知のメッセージを送るには相当手間がかかると思うよ...。だから、もしかしたら、電子の妖精とか?」


「いや、ナイナイ。ホントなに言ってるのさ」


「でも100%ないとは言い切れないじゃない」


「うむうむ。みかんもいると思うよ電子の妖精」


みかんは早弁のために持ってきたおにぎりを頬張りながらいちごに賛同する。


「いちごがいると思うなら。私もいると思う」


「もう、みかんまで、そんな非現実的なことがあり得るわけないじゃない!あと、レモンはちゃんと自分の意見を持ちなさい!最近貴女はいちごに甘すぎる!」


「はーい」

「はいはい。」





翌朝、午前5時。

まだ空は暗い、にもかかわらず、一斉にメンヘーラ達はベッドから起き上がる。


いちごも素早くベッドから飛び起きて、身支度を始めた、顔を洗い、歯を磨き、素早くクローゼットをあけてパイロットのスーツに着替える。

全ての身支度を終えると部屋を駆け足で飛び出していく。


途中、他のメンヘーラと合流するが特に会話は交わされない。





月曜日の朝7時。


メンヘーラ達は怪獣の出現を待つ大体怪獣は理由は詳しくわからないがいつも決まって朝の7時半にやって来る。


リストカッターの後ろには朝の霧でうっすらとしか見えないが、高層ビルのようなものがいくつも立っている。

あのビル群はニュー浦安タウン、怪物の魔の手から難を逃れるために沢山の人たちが身を寄せあい暮らしている。


浦安支部のメンヘーラ達はニュー浦安タウンに住む人々を守るために戦うそれが使命である。



メロンが肩を落としてため息をついた。


「そっかー。朝は電車停まってるもんね」


早朝は怪獣対策ためどこの交通期間も止まっている。

メロンは少し考えればわかったにも関わらず目先の利益に飛び付いてすっかり忘れてしまっていたようだ。


「しょうがないよメロンちゃん」


そうこう話している間に気づけばもう7時半の少し前。


辺りは灰色の煙に包まれる。


<観測値より50m南西、目標確認、排除せよ>

という篠崎先生のメッセージが送られてくる。


メロンは手慣れた手つきで文字を打ち込み、返信する。

<Ma’am,yes,ma’am>


徐々に灰色の煙は晴れてゆき、巨大な怪獣が姿を表す。


それはコウモリのような翼と細長い口を持ち合わせた不気味な怪物の影が見えた。あちらはメンヘーラ達に気付き飛びかかってくる様子はない。


「攻撃、される前にこっちから先手を打とう。」


「二手に別れる。レモンとみかんは左、私といちごは右、翼を抑えつけて。」


「はい!」


リストカッター達は上手く拡散し敵の周りに張り付いた。


「今よ、押さえつけて!」


メロンが張のある声で皆に指示をだす。


メンヘーラ達はリストカッターの腕で怪獣を締め上げる。


霧の奥に居たときは見えなかったがこの怪獣は頭がイルカの形をしていた。そのイルカの頭には水族館で見られるイルカショーの時のような輝きのない死んだ瞳がなんとも不気味だ、夢に出てきそうなほどに。


いちごは不自然なほどに大人しい怪獣の腕にしがみついた。


だが、その必死なほどに無駄に力の入った、しがみつきが仇となった。


いちごが手を滑らせて、リストカッターがしっかりと掴んでいたはずの怪獣の右翼を落としてしまったのだ。


それを見たいちごがたまらず吹き出してしまった。


「ぷっ、あははははは、あははははは」


その瞬間、怪獣がゆったりと首を回し、顔をいちごに向けた。


―プシュッ―


血液が―。


いちごがまるでベッドショットを決められたかのように目をパッチリと開けたまま後ろにバタリと倒れた。いちごはそのままぐったりして動かなくなった。


「いちご!?」


レモンはリストカッター向きをすぐさまいちごの方へ切り替えようとする。


「下手に動くな!」


メロンがレモンに向かって怒鳴る。


メンヘーラ達に沈黙が流れる。


最悪な空気が漂うなか。霧の奥から影が近付いてくる。その丸いフォルムはリストカッターのようだ。


「やぁ皆、遅れてごめん。って、あれ?みんなどうしたの?」


メンヘーラ全員のモニターに赤毛のボブカットの女の子が写し出される。


そう、彼女こそがメンヘーラの五本の指に入るほどの強さである、エリート中のエリート。


陸奥林檎である。


「今一人敵に再起不能にされた。奴は笑い声に反応して襲ってくる、みたい...」


「へぇー。恐いねえ。それじゃあ笑わないようにしなくっちゃ」


りんごの表情に恐怖はない。


ただ、目の前にいる、獲物を狩ろうとする野性動物のように、まっすぐに怪獣を見つめている。


「後は僕一人でやろうか?他のみんなは帰ってもいいよ」


「だ、そうですけど」


メロンは篠崎先生に許可を貰うために報告する。


「そうね、やってみなさい。陸奥林檎。貴女の今の実力が知りたいわ。」


「はーい、了解でーす。」


メロンたちはその言葉を聞いて、りんごを心配するような素振りを見せずそそくさと退散していった。


あっと言う間にりんごは怪獣と二人きり。か弱い少女の風貌をしたりんごではとても頼りないような気がする。




「さて、」




りんごは突如まるで気でも狂ったかのように笑い出す。長く長く、酸欠になるギリギリまで。


もちろん敵はその笑い声に反応する。強力な超音波のビームがりんごに向かって放たれた。


りんごは避ける様子もなく、まるで待ちわびたかのように被弾する。


りんごの燃え上がるような赤い髪の毛の生え際から徐々に深い藍に染まっていく。


目付きは先程とは比べ物にならないほどつり上がり、野性的で猛獣のようなオーラがりんごから発せられる。


「縺薙←繧ゅ�縺ッ縺九★縺ョ縺薙□縺九i魏ケ遽€縺ィ驢、豐ケ繧偵°縺代k縺ィ縺翫>縺励>」


髪の毛が青色になったりんごは不可解極まりない、とても地球の言語とは思えないほど音、【何か】を唱えた。


りんごのコクピットの内側がりんごの足元から赤く光出す、まるでコンピューターによる音声認識に反応したかのように。



【On your mark, get set, go】



「うわー、飛んだよ!飛んだ!」


「流石、リストカッターの上位互換、アームカッター。時速約800kmで飛ぶ姿は圧巻ね」


まるでジェット機のような速さで飛ぶアームカッターにメロンはキラキラと目を輝かせる。


マッハにも届きそうなほどの超スピードに負けじと食らいつく怪獣、黒い線と白い線がぶつかり合うのがかろうじて地上から確認できた。


「うぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。がは、」


髪が青いりんごはずっと言葉にならないうなり声をあげている。さっきまで普通に喋っていたことが嘘だったかのような変貌具合だ。


それと、陸奥りんごは武器を使わないさっきからずっと攻撃は体当たりと頭突き。自分の体を省みない倒せればそれでいいみたいなそんな戦い方をしている。

きっと今ごろコクピットしっちゃかめっちゃかだ。


怪獣もりんごの連続体当たりにかなり消耗している。これじゃ持久戦じゃないか。


「あ゛ー、あ゛ー、あ゛ー」


りんごはさらに怪獣に追い討ちをかける。確かに今はりんごが優勢に見えるが彼女もかなり消耗している筈だ。


―グチャ―


どうやら敵の急所に入ったようだ、怪獣は怯んで動けない。それをいいことにりんごは怪獣の頭を鷲掴みにし首と胴体を腕ずくで引きはなそうとする、かなりエグい絵面だ。


―ブチブチブチ、メキメキメキ―


怪獣を構成する物質が音をたてて引き裂かれていく。

りんごは怪獣の頭と胴体を引き離した。頭はその辺に投げ捨てた。

気色の悪いイルカの頭が地上に落ちやがて、黒いドロドロになって地面に吸収されていった。


その頃りんごはというと怪獣の胴体をただ持ち上げて空中でたたずんでいた。しばらくたつと、りんごのアームカッターは先程とは違い緩やかに下降しながら基地に戻ってきた。


「皆、ただいまぁー」


りんごはアームカッターの足を滑走路に優雅に着地させ、徐々にスピードを落としていった。


突如として現れた彼女のうら人格、一体彼女は何者なのか。何が彼女のうら人格を呼び覚ましたのか。


次回へ続く。

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