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令嬢より季節の御挨拶

令嬢は暑さに耐えられない!

作者: 五日北道

 こんにちは。

 毎日うだるような暑さの中、みなさまいかがお過ごしでしょうか?


 名前も名乗らずに、失礼しました。

 私は乙女ゲームのヒロインに転生した前世日本人の夏来香、現世ヒューミード男爵家のレテです。

 よくあるテンプレだと思うので、詳細は割愛します。


 ……暑くて説明が面倒だとか、そういうのではないです。


 みなさまには私の近況をお知らせしますね。




 私の前世も、夏は人肌越えの気温だったりしましたが、なんと!

 転生先の現世も、なんでか暑いです。


 無駄にヨーロッパ風の世界で、エアコンもなく、もうね、溶けます。

 人間は36度あたりに融点があると思います。


 転生時にエアコンの内部構造(しくみ)を覚えられれば良かったのに、そんなこともなく。

 いちおう魔法がある世界なので、私も魔法が使えるようになったんですが、なぜか光魔法で。


 テンプレらしく、希少な光魔法の使い手とか言われてもね?

 暑さの前にはなんの役にもたちません。


 私に必要なのは夏に氷魔法、冬に火魔法!

 百歩譲っても、夏に氷魔法!これ、絶対!


 ……光魔法は本当にちょっとだけほんのり温かい感じがするので、あきらめるのは火魔法です。


「お父様、暑いです」

「すまんな、別荘もない、バカンスにもいけない貧乏男爵家で」


 私のグチに、現世のお父様が律儀に謝ってくれます。


「どこかに涼しいところはないのですか?」

「学園だな。それから王宮とか、高位貴族の屋敷とか……そういうところには、ものすごく高価な気温調節の魔法陣が組まれていて……」


 お父様による魔法陣の説明は、暑くて集中できないので、右から左に聞き流します。


 ようするに、なるほど?

 乙女ゲームのシナリオどおりに、学園に通って、気温調節の魔法陣を持ってそうな誰かを攻略すればいいってことね。

 シナリオあんまり覚えてないけど!




 それから私は学園に通いだしました。


 急募!涼しい快適ライフ!


 ということで、とりあえず気温調節の魔法陣が確実にある王宮の住人、第二王子に近づいたんですが。


 第二王子には当然、すでに婚約者がいました。

 いわゆる悪役令嬢です。


 ……気温調節の魔法陣のために略奪しようとしてる私のほうがあくどいとか、まあ、それは言わないお約束です。


 はじめのうちは、私もうろ覚えのシナリオ通りにがんばりました。

 マナーがなっていないと注意され、笑われ、取り巻きには転ばされ。

 でも、お茶会で熱い紅茶をかけられるにいたって、私は気がつきました。


 ……暑さから逃げたくて攻略してるのに、なんで熱い思いをしなけりゃならんのか!


 攻略はダメだ。

 暑い中、修羅場とかよけいに暑くなる。やってられない。


 私は攻略に見切りをつけて、ほかにどうにか涼しく過ごす方法を考えることにしました。


 案1。気温調節の魔法陣があるおうちの子と友達になる。


 これは、わりとすぐに頓挫しました。

 男爵家の私と友達になってくれるご令嬢は、基本的に子爵家か男爵家の出で、気温調節の魔法陣なんて高価なものはうちと同様に持ってない。

 高位貴族と友達になれるような伝手もないし、第二王子の件でむしろ警戒されているありさま。どうにもならない。


 そこできっぱりあきらめて次を考えました。次、次。


 案2。気温調節の魔法陣がある学園にいすわる。


 学園の教師になれれば、一年中、気温調節された建物内で快適ライフが約束されます。すばらしい。

 でも、これもすぐに現実が見えました。

 なにしろ、学園の生徒には王族も高位貴族もいます。

 先生と生徒では、当然、先生が上に立って教え導く側。でも中には、下位貴族出身の先生をあからさまに見下す高位貴族の生徒もいます。そういうこともあって、下位貴族から学園の教師になろうと思ったら、誰もが認めるような研究や論文が必須で、案1以上に厳しい。


 はい、無理。はい、次。


 案3。王宮勤めになる。


 これはかなり真剣に考えました。職場見学の許可までとって、王宮を確認してきました。


 うん、最初こそ、

 涼しいし最高っ!王宮くん、キミに決めたっ!

 って思いましたよ。


 でも、ちゃんと確認したら、やっぱダメでした。

 涼しいのは、座り仕事の人だけなんです。

 王様とか、えらい人たちが座って仕事するのにちょうどいい気温になってるんです。

 私が王宮で働く場合、良くて侍女です。めっちゃ肉体労働です。

 社内の事務員さんたちがカーディガンをはおり、外回りの営業さんたちが大汗かいて戻ってくる図が浮かびました。


 ……うん、ダメだ。


 たぶん、気温調節の魔法陣にこだわるからいけないんです。

 魔法陣のことはもう考えない!


 発想の転換です。


 気温調節の魔法陣がなくても、夏に涼しい地域、冬に暖かい地域はあります。

 夏は北に行き、冬は南に行く。すばらしい。これですべて解決するはず!


「お父様。私、学園を卒業したら、吟遊詩人か冒険者になります」


 お父様に宣言したら、


「吟遊詩人は絶対にやめなさい。レテの歌は騒音……ごほん、非常に独特なので犠牲者が出る。冒険者にしなさい」


 思ったより、あっさり許可が出ました。


「ではこれから、冒険者ギルドに登録してきます!」


 私はお父様の気が変わらないうちに家を飛び出しました。


 待ってなさい!夏の快適ライフ!



 というわけで、無事に冒険者となった私ですが、さきほど幸運にも氷魔法の魔法使いの方とパーティーを組むことが決まりました。

 これからの冒険と活躍については、きっとクリスマスから年初のあたりでお知らせできるでしょう。

 まだまだ暑い日が続きますが、みなさまもどうぞ体調を崩されませんよう、ご自愛ください。


お読みいただきありがとうございました。

明日立秋だそうですが、きっとまだ暑さは続きますね。

みなさまの夏が充実したものになりますように。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 暑い夏にぴったり(?)ですね。 短編の中に(魔法などの)仕組みの短い解説的なものがあり、現状がどのようなものかが伝わってきました。 発展すれば長編も作れるのでは? と思います。 [一言]…
2019/08/10 20:14 退会済み
管理
[良い点] 面白いです。短編として、良くまとまっていて、楽しく読めました。
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