第四話 説明書(前編)
同時投稿一つ目です
解説回
長いので話が進むところまでまとめて投下します
まずはタブレットの画面に表示されている電子説明書にてこのMAVの形をした謎マシンの仕様を確認する。
どうやらこのビックリドッキリメカの外装はほぼ不壊であるらしく、さらには先ほどそうだったように探知できなくなるレベルの光学的・魔力的な欺瞞すら可能であるらしい。どこかの893人目の武器洗浄人のストライカーよりも無茶苦茶だ。
天井には20mmチェーンガンのRWSが載っている。RWSとはリモートウェポンシステムまたはステーションの略で、要するに車内から操作できるカメラ付きリモコン式機銃だ。このRWS、なんと対空目標への射撃にも対応しているらしい。これでワイバーンが急降下してきても安心だ…いるのかは知らん。
内部は空間魔法なる公国(?)驚異のメカニズムによって拡張されているらしく、いくつかの部屋――というのも生温い広大な空間もある――があり、そのなかに至れり尽くせりの設備があった。寝室が三つ、ダイニングキッチン(しかも飲食物付き)、風呂と洗面所とトイレが二つずつ(片方はユニットバス)、そして今いるこのリビングに、このリビングに来るのに通った意味不明なほど広大なトレーニング施設、最後に肝心の操縦室と、9人までの乗客が乗れて天井のハッチを開けて身を乗り出せる兵員室、それら全てがこの装甲車のキャビンには収まっている。
実に意味が分からない。空間魔法ってなんだ。ねぇこれほんとに銃要る?魔法だけでよくない?神様俺に渡すスキル間違ってない?ねぇ本当に大丈夫?ねぇ。ねぇってば。
しかし返事はない。あゝ無情。
そうだ、スキルだ。それも確認しなければならない。何しろ俺は未だに神様になんのスキルを貰ったのかすら把握していない。
そう、ここまで来てなんだが、俺は転生の詳しい経緯を覚えていない。ここに至るまでの経緯で俺が覚えているのは…老衰以外の何らかの理由で死んだこと、神様に何らかのスキルを貰ったこと、魑魅魍魎のはびこる剣と魔法の世界へ送り出されたこと…それだけだ。
死因は何だったのか、神様に貰ったスキルとやらがいかなるものであるのか、この世界へ送り出された理由はなんなのか…それら転生の経緯の一切合切を俺は覚えていない。
それはさておき、スキルの確認に戻ろう。
説明書によると、スキルは例のアイテムボックスの中身の要領で見れるらしい。早速説明書の通りにイメージを組み立てると…
名無しの権兵衛
ユニークスキル 状態把握
神器召喚(現代)Lv2
スキル 隠密Lv1
射撃Lv1
近接戦闘Lv1
状態 毒
精神ダメージ
これは…所謂ステータス画面とでも言えばいいのか、そう言ったようなものが目の前に現れた。だがHPだとか攻撃力だとかはない。まぁそりゃ、これはゲームのようでゲームではないわけだしな。
というか名無しの権兵衛ってなんだオイ。俺の名前は…あれ?
おかしいな、名前を思い出せない。俺はなんて名前だった?
そもそも俺は何者だ。俺は…何をしていた人間だった?
…駄目だ、思い出せない。
軽度のミリオタ――重度のそれを名乗れるほど、俺は軍事に詳しくはない――だったこと、しかしその知識を活かせる仕事に就いてはいなかったことは覚えている。怠惰な人間であったこと、生きる意味について思い悩むような人間だったことも覚えている。だが…何歳ぐらいだった?どんな容姿だった?…駄目だ、このあたりも記憶がない。
自分が何者なのか、なぜここにいるのか思い出せない。これではまるで記憶喪失だ。正直不安で仕方がないが、プラスに考えるなら「記憶喪失」という言い訳を嘘でなく使うことができるとも言える。嘘をつくのが苦手であったことは覚えている。
しかしなぁ…確かに名前を覚えていないが、だからといって名無しの権兵衛はあんまりじゃないのか…
それは一旦置いておいてスキルについての説明を読もうと思ったところで…無視できない文字が飛び込んで来た。
状態 毒
毒状態だと…!?
もう一つの方、精神ダメージについてはまぁわかる。遠目にとはいえスプラッタを見せられ、ともすれば返り血を浴びる距離でこの手で人型の生き物を殺したのは流石に堪えた。だが、毒を食らった覚えは全くない。
虫刺されか毒草にでも触ってしまったか、ゴブリンに針かなんか撃たれたか…?と考えていたが…一つの可能性に思い当たった。
銃だ。
弾丸を撃ち出すのには火薬を使うが、この火薬が発火したことによって出る硝煙には毒性がある。どうやら俺はこれをモロに吸ってしまったらしい。戦闘の途中から気分が悪くなったのは、精神的なもの以上にこっちが直接の原因だったのかもしれない。
毒状態と書かれると精神衛生上よろしくないが、推測通り硝煙によるものだとするなら、時間経過で治るはずだ。とはいえ今後もっと危険な毒をより直接的に食らった場合に備え、対処の仕方は知っておきたい。地球には毒を持つ生物がいたのだから、この世界にも毒を持つ魔物は当然いるだろうし、この世界の衛生事情もわからないのだ。車内に何かないだろうか、後で探してみよう。
それはそうとスキルだ。このユニークスキルとやらとスキルの違いはなんだ…?
そういえば神様はスキルについても解説してくれているんだった。説明書を読もう。
読んだ。これでM202を撃て…るっぽいこともわかったが、スキルとユニークスキルの違いについて、わかったことを簡潔にまとめてみる。
ごくかいつまんでいえば、ユニークスキルは「先天的な」「才能」、スキルは「後天的な」「技術」、ということだ。
神様がくれたのは二つのユニークスキルのほうらしい。
ではただのスキルのほうはいつの間に身に着いたのかというと、これはどうやらチュートリアルで身に着いたものらしい。待ち伏せし、撃ち殺し、そして接近して戦ったことにより、それら三つの技術の入り口に立った、ということのようだ。
まぁつまるところ、どっちも神様がくれたようなものだ。しかしこの差はそれなりに大きい。スキルのほうは練習するだけでも強化されていくが、ユニークスキルは戦果や稼ぎなど、実際になんらかの成果をあげなければ強化されないらしい。
つまりスキルはここのトレーニング施設で訓練しまくればどうとでもできるが、ユニークスキルは魔物を倒すか商売するかなんかするしかないらしい。
となると問題は当面の方針だ。魔物を狩りまくるか、しばらくここで訓練するか。
先ほどの戦闘を思い出す。あの時点ではスキルは恐らく働いていなかったのだろう。つまり、FALが中ったのは本当にビギナーズラックだった可能性が高い。少なくとも最初の一発はほぼ確実にそうだ。その後の近接戦闘も危なっかしいものだった。あんな綱渡りを続ける気にはならない。
つまり答えは一つだ。だが、とりあえず硝煙の毒が抜けるまでは、とてつもなく久しぶりに感じる休息をとってゆっくりしよう。ダイニングキッチンには飲食物があるらしいが、さて何があるのやら…
続きます