第二七話 魔法の防具と宿屋
ご無沙汰しておりました(なお次回も未定)
しばらくは不安定な更新となります。
盗賊。
古来より遠隔地交易最大の障害の一つであったそれは、このファンタジー中近世世界にも当然の如く存在するらしい。
まぁ、現代にも海賊はいるし、テロ組織の非合法な関所やなんかはまんま山賊だろう。要するに今も昔も変わらぬ、ありふれた人の業というわけだ。
しかしながら旅をするこちらの身としては、古の時代において旅を難しくした要因の一つをまざまざと見せつけられるのは面倒で仕方がない。
夕食を終え、宿の部屋へ引っ込みそんなことを考える。宿に泊まった理由は至極簡単、世間体だ。宿も取らず馬車中泊をするような人間と思われるのは不本意だ。とはいえ、
「比較するのは適切ではなかろうしここは田舎のギルド宿だが、あの自動馬車を知っているといささか物足りなく感じるね」
とはマルグレーテ女史の言であるが、実際山小屋みたいなものであり、当たり前だがMAVの中と比べて快適かと言われるとそれはない。予想はしていたので一応シュラフとかランタンとか蚊帳とか召喚してはいる。世間体か快適性か、わりと悩ましい二択だ。そう考えると、冒険者になって常に旅の身になるというのは悪くないかもしれない。
それはそれとして盗賊への対処だ。武器は…基本的にはAk 5Cがあれば問題ないな。一通りの対歩兵用装備は揃って…ないぞ。防具が何一つない。
ボディアーマーは重要だ。かの有名な「ブラックホーク・ダウン」の元になった作戦で、世界最強クラスの特殊部隊とも言われる精鋭デルタフォースが壊滅したのは、ボディアーマーを身に着けていなかったことが原因の一つとされていたはずだ。今日の戦闘によって、多少の防弾装備が召喚できるようになっている。慣れていない人間には重いのが問題だが…
そういえば、女史の身に着けているローブ、あれ防具だって言っていたな。…ああいう防具があるなら便利だろうなぁ。まぁ魔法的な物品らしいしお約束に漏れず高いのだろうが、ちょっと聞いてみよう。
「ちょっと聞いてもいいですか?」
「うん?なんだい?」
「マルグレーテさんのローブって防具だって言ってましたけど、具体的にはどういうものなんですか?」
「ああ、これは魔法付与を施したものでね、物理攻撃も魔法攻撃もそこらの鎧より防ぐことができるんだ」
並の鎧より防御力高いのか…凄まじいな。
「で、重さは普通のローブだと?」
「そうなるね」
えぇ…それ反則なのでは。程度によるが、プレキャリとかと併用したら効果とんでもないのでは…
「それってめちゃくちゃすごくないですか?」
「ああ、とても強力な品だよ」
となれば、自分も手に入れたくなるのが人間の性というやつでして。
「どうすれば入手できるものなんですか?」
「魔導院関係者以外が合法的に入手するとなると、ダンジョンで見つけるか、さもなくばそっち方面の専門の職人に発注するしかないね」
「ダンジョンで見つける?」
宝探しで実用品を見つけろとでも言うのか。いやゲームのお約束ではあるが、現実にそれはなかなか無理がありはしまいか?
「たまーに出てくるんだよ、ものすごく強力な魔法物品が。古代超文明の遺物とも言われているけど、実態は全くの不明。一説にはダンジョン内で命を落とした探検家の装備にダンジョンの魔力が作用し、ダンジョンへ挑む者達の欲が指向性を与えて自然発生的に強力な魔法が付与されるとか」
「それはまたけったいな…なんにせよ安定入手は望むべくもないですね」
「そうだね、性能も安定しないし、とんでもない厄物である場合もある。とはいえ最大値は圧倒的に高い。ギャンブル性が高いね。安定入手なら購入一択だ」
「いくらくらいするものですか?あとその、どのくらいの効果で、というか」
「例えばこれと同じもの、騎士殺しと魔術クラスまでの攻撃魔法を確実に防ぐ程度のものとなれば最低でも70オーロは必要だろうね」
「今回の報酬の総額の5倍弱ですか…」
しかしそれを差し引いてもたかがローブの使い勝手でクロスボウやある程度の魔法を確実に防ぐというのはとんでもない。是非とも欲しい。
「あ、ああ。…計算速いね」
「そうですか?」
「ああ、かなり速い。ちょっと驚いたよ」
これは興味深い。そういえばお金の説明の時、計算ができるか聞かれたし、この世界じゃ計算は高等技術なのかもしれない。読み書きそろばんと言うしな、教育制度が未発達なら十分考えうることだ。これからの資金調達に役立つかもしれない。
「まぁそれはそれとして、もう少しグレードを落とせば値段も下がるんでしょうけど…」
「命を懸けるものだからね、おすすめはしないよ」
「ですよね。ちなみにマルグレーテさん的には最低ラインはいくらくらいですかね?」
「基本的には懐事情の許す限り高いものを、だけど、30オーロ以下は絶対に買っちゃ駄目だと聞いたことはある。私も買ったことはないけど見たことはあるが、まぁ酷い物だった。気休めにしかならない。払う金を考えるとあまりに馬鹿馬鹿しい」
まさに安物買いの銭失いというやつだな。
「なるほど、参考にします。オススメの店はありますか?」
「それならこの先の都市クランシュタットの装具店がいい。この魔物が多いクランシュ伯爵領の防衛を支えている店のひとつだ。中央の貴族向けのとはわけが違う、実用一点張りの質実剛健なものを、魔法具としては良心的な値段で作ってくれるよ。君の冒険者登録をするためにクランシュ伯爵領の冒険者ギルドの本部に行く予定だったわけだしちょうどいい」
「ああ、それもクランシュタットって都市にあるんですね」
「そ」
なるほど、俺のひとまずの目的地は定まった。そこから先どう動くかは俺次第ということだ。冒険者ギルドを見て金を稼げそうな依頼があれば残り、なければ移動する。移動の方向にしたってマルグレーテさんと同じとは限らない。
「とするならひとまずマルグレーテさんとの旅はクランシュタットって都市までってとこですか」
「そうなるね。私はまっすぐ魔導院へ行くからクランシュタットの滞在は最短になるし、カイが残るか別方向を目指すならそこでお別れだ。とはいってもまだここより少し大きな町を一つ挟んでさらに先だ。まだようやく折り返しが見えて来たところだ」
とは言っても終わりが見えたのは確かなんだよなぁ。出会ってからまだわずか四日だ。その時点で折り返しが見えているとなると結構短い。
「寂しいかい?」
「ええまぁ。ここまでお世話になりっぱなしですし」
「…それはどういう意味でかな?」
一瞬質問の意図を量りかね、女史のほうを向くと、ランタンの光に照らされた彼女の顔がにやけていた。そういうことかこの痴女め。
「勿論あらゆる意味で、ですよ」
翌朝。
「おはようございます。ゆうべはお楽しみでしたね」
ピロン、という間抜けな音とともに、視界の左上に謎の通知が出てきた。
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トロフィーを獲得しました!
・お約束
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やかましいわ。
神妙な顔をした酒場兼宿屋のおかみさんにお約束というか古のビデオゲームのネタを朝っぱらからぶち込まれ(勿論おかみさんはそんなもの知っているはずもないのだが…ないよな…?)乾いた笑いしか出てこない。楽しんだのかって?察しろ。
というかこの通知はなんなんだ。半ば存在を忘れかけていたが神様絶対遊んでるだろコレ。今までこんなの出てこなかったことからも明らかだ。確実にロクでもないタイミングでしか出てこないやつじゃないか…
いや下手すると今後出てくることはないかもしれないが。
朝食にパンとシチューを平らげ、お世話になったギルドの受付のおっさんに鑑定のお爺さん、そして勿論おかみさんにも礼を言い、いざ出発。
目指すはクランシュタット。ひとまずはその手前、クランシュタット(とその先)へと続く街道、その実質的な起点だというフェアネという町が次の目的地だ。




