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第二六話 貨幣制度

難産だった…内容自体はかなり前に決まっていたものの、貨幣制度の中身について悩みに悩んだ結果時間を浪費してしまった…

「ハイ・オーク1にオークが少なくとも5、懸賞金が出ていた問題の群れに間違いない。というわけで報酬の15オーロだ」


「ほう!そりゃなかなかの大盤振る舞いだ。ありがたく頂戴するよ」


 という受付の人とマルグレーテさんの会話を聞きながら、この世界の通貨単位について全く学んでいなかったなと思うなど。


 受付の台には現代の貨幣と比べると結構でかい金貨、しめて15枚。即ちこれが「1オーロ金貨」なのであろうことは察しが付く。現代の紙幣や小さな貨幣にはない、重厚な存在感がある。現代日本で言えば諭吉先生に相当する、高額紙幣もとい高額貨幣なのだろう。


 しかしそれがどのくらいの価値なのかわからない。物価や下位貨幣次第で話が全然変わってくる。


 俺は、目の前の金貨の重さを計りかねていた。



 結局あの戦闘では戦果を出してないから報酬は全額俺にくれるというマルグレーテさんを説得して、金貨を8枚を貰い、残り7枚は彼女に貰ってもらった。森での雑多な戦闘ではかなり助けられたし、そもそもこれ受取はギルドに登録出来なかった俺ではなく、全額彼女が受け取っているので、手間賃の意味も込めて概ね山分けということで落ち着いた。ついでにパーティを組むときの報酬関係の話は気を付けるように、とのありがたい忠告を頂いた。その上で戦果の多い者がより多く受け取るべきだと彼女が譲らなかったので一枚多く頂いてしまった。


 そんなわけでギルドを後にした俺は、ギルド支部に併設された酒場と宿の他に晩飯を食べる店がないか探すついでにマルグレーテさんに異世界の村について教えてもらっていた。


 といっても村だ。市場なんてものはない。


「教会に、ギルド支部と併設の冒険者向け宿屋兼酒場、それから村民向けの酒場…予想はしていましたしこう言ってはなんですが、特に何かあるというわけではないですね…」


「まぁこの規模の村だからね。あとは屠畜場くらいかな、家じゃないものは」


 屠殺場…そういえば聞いたことがある。中世の農民なんて肉は贅沢で食えないものだっていうのは先入観で、村々にまで屠畜場があり、(貴族に比べれば頻度は下がるにしても)庶民でも肉は食えた、むしろ近代に入ってから、産業革命以後のほうが(時代が下れば大幅に改善するとはいえ)庶民の食卓は貧しくなったと、そんな話をどこかで聞いた。イギリスの話だったか。


 それなら今夜の晩飯はそこまで貧相になることを危惧しなくて済むかもしれない。なんで金を消費した上でそんなリスクを冒してまで(MAV内の食料ではなく)外食に拘るのかというと、この世界のものに慣れておきたいからだ。食べ物の思い出話やなんかがないっていうのは、今後この世界に馴染んでいく上で不自然だ。


 MAVの中に逼塞すればまぁ生きてはいけるが、せっかくの第二の人生、それでは勿体ない。というより俺の精神が死ぬ。今にして思うとたった二週間で結構危ないところまで行っていた気がする。だからこそこの世界に馴染まなけりゃいけないし、そのためには金が要る。


 けどなぁ…確か貧民も肉を食えるようになったのはペストで人口が激減してからなんだよなぁ…


 まぁそれはさておき。


「もっと規模の大きい町だとどんな感じなんですか?」


「んーそうだね、市があって商店があって飯屋があって、領主の屋敷や役場があったり…まぁ、そのあたりは実際にこの先の街へ行ったときに教えよう。とりあえず、今は夕食だ」


「そうですね…そういえば、金貨ってどれくらいの価値なのかわからないんですが、これ一枚で夕食と宿と朝食には足りますかね?二人分の」


「余裕で足りるね。というか金貨なんか出したら驚かれるぞ」


「あー…ちなみに相場はどれくらいですかね?というよりこの国の貨幣が記憶にないのでもっと少額の貨幣単位から教えてもらえるとありがたいのですが…」


「そうか、そのあたりも知らないか…わかった、夕食の前に教えとこう。と、その前に。計算はできるかい?」


「あまり専門的なものでなければ」


「よし、それじゃあ…」





 結局その後、村民向けの酒場は入りにくかったのでギルド併設の宿屋兼酒場にて夕食をとっている。手持ちに金貨しかなく、マルグレーテさんに小銭を出してもらい借りるという形になってしまった。両替商なんてものがあるがため、超高額貨幣は一般人には馴染みがないばかりでなく経済的な理由もあって市井では使えないケースが多いらしい。当の本人は奢りでいいと言っていたが、街に着いたら手持ちの金貨を両替してお返ししたいところだ。


 夕食はパンとシチューだ。はっきり言って粗末ではあるが、意外と悪くない。少なくとも某英連邦構成国で食った弁当くらいには食える。素材の味がする。


 中世ヨーロッパでは一般的に薪を効率よく使用するためにシチューポットで、煮汁を無駄にしないためにシチューやポタージュを作るのが一般的だったとか。ここは店だから調理器具のほうはわからないが、シチューなのはその辺のところもあるのだろう。メニュー?そんな洒落たものはない。なにせ冒険者のための店、量と安さ重視なのだろう。


 ちなみにシチューには肉が入っている。やはり屠畜場は殆どの村や町にあるそうで、肉は案外手に入るものらしい。と言っても地域格差というものはある。こういう場合において田舎というのは有利なもので、田舎でなら普通の肉を食える機会というのもそこそこあるらしい。今目の前にあるものがそれだ。だが都会だと普通の肉は主に金持ちが独占するので、貧乏人が食えるのは主にあまり肉、内臓や睾丸などらしい。


 おかみさんの肝っ玉カーチャンという感じの恰幅のいいおb…お姉さんによれば、ちょうど肉が入荷したタイミングだったらしい。運が良かった。


 パンは平べったい、フラットブレッドというやつだ。比較的寒冷な地域なのか、イーストで発酵させるタイプは少なくともこのあたりでは珍しいらしい。


 パンの大きさと価格は法律で統制されていているそうだ。



 そうそう、貨幣制度についてマルグレーテさんに教わったことを要約すると、この国の貨幣単位は、金貨の単位「オーロ」、銀貨の単位「プラータ」、銅貨の単位「コーブレ」の三つがあり、


 1オーロ(金貨)=10プラータ(銀貨)=10000コーブレ(銅貨)


となっている。貨幣は、


 金貨=1オーロ

 銀貨=1プラータ

 大銅貨=100コーブレ

 銅貨=10コーブレ

 銅銭(銭貨)=1コーブレ


の5種類があり、それに加え1オーロ金貨を10枚包んだ10オーロ包みなんてものもあるらしいが、1オーロ金貨以上のものは大商人や王侯貴族がやるような取引に使われるもので、基本的に市井で目にするのは主に銅貨と銀貨らしい。


 で、パンの価格が法律で統制されていて、それが一枚10コーブレ、つまり銅貨1枚。


 仮にこの平べったいパンを100円と考えると少し高すぎる気がするし、金貨の価値やそれが10枚一包みで小銭の如く飛び交うという輸入品の市場なぞは想像しただけで眩暈がするが、一方で10円と考えると物価の安さにそれはそれで驚かされる。


 ともかく今日得た報酬はパン15000枚分になるということだし、かなりの金額なのだろうことはわかる。しかし、あの戦車か装甲車かという怪物の懸賞金としてはいささか額が少ない気がしないでもない。なにせ、俺たちはともかく他の冒険者はあれに剣と魔法で戦わなければならないのだ。それを考えると…やはり、わりに合わない気がする。



 貨幣制度について復習しながらマルグレーテさんと夕食をとっていたところへ、先ほどギルドで会った受付のおっさんと鑑定のお爺さんがやって来た。


「よぉ、また会ったなぁ、若いあんちゃんにねえちゃん」


「おお、若いのとべっぴんの、お前たちも来とったか。折角じゃ、同じ卓を囲んでもええかの?」


「ええ、もちろんですとも」


「構いませんよ」


 わりと持て余していた広いテーブルが、俄かに賑やかになった。


「先ほどはお世話になりました」


「なに、それがわしらの仕事じゃ、若いの」


「そういうこった。おっ今日のシチューうまそうだな、おーいかみさん、食うもんとエール二丁!」


「なにぃ、爺さんに呑ませて大丈夫なんかい?」


「抜かせ、エールも飲めんほど耄碌しとらんわ」


「だっはっは!その調子なら飲んでる間は死にそうにないね!あいよ、ちょいまち!」


 すぐにおかみさんが二人の夕食と飲み物を運んできて、賑やかな食卓になったところで、受付のおじさんが唐突にこんな話をした。


「そうだ、忘れないうちに言っておかんとな。あんちゃんとねえちゃん、これからどっちの方へ行く?」


「フェアネの方だ、もしかして何かあったかい?」


「ああ、ちとここらじゃ珍しい規模の盗賊団が出たとかでな。ハイ・オーク率いる群れを二人で片付けるお前さんらなら多分大丈夫だろうが、注意しておいてくれ」


「それは大事だ。ご忠告痛み入る」


「わかりました、ありがとうございます」


 盗賊…そういうのも出るのか。面倒だな…


しばらく今以上にペースが落ちるかもしれません、申し訳ありません

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