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第二五話 冒険者ギルド

 オークのバラバラ死体を回収した俺とマルグレーテ女史は、MAVに揺られて隣村を視界に収めるところまで来た。今は適当なところで停車して、マルグレーテさんからレクチャーを受けている。


「端的に言えば、魔物の死体は金になる、ものもある。素材が取れるものや、討伐に報酬が出るものなんかがそうだ」


 おお、「冒険者」っぽい。…ってことはやっぱりあるのか、冒険者ギルド。


「素材はわかりますが討伐の報酬、ですか?」


「ああ、領や豊かな街なんかが懸賞金を出してることが多い。然るべき窓口へ死体そのものか討伐の証明が可能な部位を持ち込めば懸賞金を貰える。その懸賞金と素材を売った金で飯を食ってるその日暮らしの人間も結構いる。賞金稼ぎ(バウンティハンター)、魔物と盗賊を狩る狩人、戦争以外の傭兵…ま、世に言うところの『冒険者』というやつさ。で、そいつらの隔離…もとい、監視機k…げふんげふん、管理と情報の交換を目的とする組織、正式名称賞金稼ぎ(バウンティハンター)相互互助組合、通称『冒険者ギルド』があって、大体はそこへ持って行けば懸賞金を貰える、ってわけだ。まぁ当然懸賞金の出てる魔物でなけりゃ話にならないが、どんな魔物にどれだけの懸賞金が出てるかってのは大抵土地の冒険者ギルドに行けば確認できる。魔物の、俗にいう『討伐依頼』は当然のことながら極めてローカルなものだからね」


 なるほどなるほど、これぞ冒険者。そしてまさしく「賞金稼ぎ」でもある。懸賞金の対象が魔物なだけ。しかし気になることが一つ。


「なんで賞金稼ぎのことを『冒険者』って言うんですか?」


 なぜ「賞金稼ぎ」という言葉があるにも関わらずわざわざ「冒険者」という名称を使うのか。何がどう冒険なのか…いやそりゃ魔物狩りは冒険には違いないが、別に進んで冒険をやっているわけではなかろう。狩人と()()()は違うものだ。


「ああ、それはね…まぁ、そうやって魔物や盗賊の懸賞金で稼ぐなんざヤクザな商売だ。それで昔、それを貶されたある男が見栄か本気かこう言ったんだそうだ。


『俺はいつか未開の地を探検し、秘境の遺跡(ダンジョン)を冒険して財宝を見つけるのだ!今はそのための元手を稼いでいるだけだ』


 とね。で、それを皮肉って賞金稼ぎ共のことを『いつか冒険に出ることを夢見て日雇いのヤクザな商売で金を稼ぐ奴ら』ってことで『冒険者』って呼ぶようになったのさ」


「ああ、だから冒険「者」なんですね。冒険「家」にはなれてない、冒険家を夢見る者って意味で」


「そういうこと。で、ちょいちょい冒険者から本当に冒険家になる奴が出るから、初めは蔑称だったものが、だんだん皆それを誇りにし始めて定着していったんだ。冒険ですっからかんになって冒険者へ逆戻りなんてザラだし、資金の豊富なお貴族様や大商人の後ろ盾があるプロの『探検隊』なんかでもパトロンの護衛や小遣い稼ぎで魔物や盗賊狩ったりなんてよくあることだから、今じゃそのあたりの区別は曖昧になってる。『一攫千金を夢見る山師の集まり』っていう本質は同じだしね。みなヤクザな商売だ」


 なるほどなぁ…山師、探検家、傭兵、賞金稼ぎ…冒険に満ち溢れる世界だからこそ、やることは似たようなものになるわけか。現代はそれぞれ特化しているが、それは冒険が少なくなったからこそなのだろう。


「で、これからその冒険者ギルドにオークの死体を持ち込んで金にするわけですか」


「そ」


「冒険者じゃなくても利用できるものなんですか?」


「ああ。冒険者ギルドを利用するのは冒険者だけじゃない。それこそ腕っぷしに自信があるなら加入さえしておけば魔物や盗賊を退治したとき小遣い稼ぎできるから、冒険者だけで生きてるその日暮らしの連中から私のような魔法学者や正規の騎士まで利用者は結構幅広い。冒険者なんて誰でも名乗ればなれるから、そのあたりはかなりゆるいのさ。とにかく金に困った奴がなんかできることをやって食っていくための社会福祉という意味もあるから、それこそドブさらいから薬草採取、回復魔法が使える奴向けの簡単な治療の依頼までいろんな依頼があそこには出る。治安さえ気にしなければ誰でも利用できる、ってわけさ。一応多少の区別はあるけど、まぁそのあたりは実際に冒険者ギルドに行ってから説明しよう」





 そんなわけで俺たちは遂に「まともな道の来ている村」までやってきた。いわば街道の終点だ。


 まず真っ先に冒険者ギルド支部へ向かった。



「ここじゃ加入手続きできない!?」


「すまんねぇ、個別での組合員名簿への登録は本部でないとできないんだわ」


「あっちゃー、こりゃまいったな…」


 早速トラブルが発生していた。


 どうやらギルドへの加入、所謂「冒険者登録」はこの地域の冒険者ギルドの本部がある都市でないとできないらしい。


「すっかり失念していたよ、そうだよ、東部じゃ支部で登録ができるのは毎年の一斉登録の時だけなんだったなぁ…」


「ごめんなぁ、ねえちゃんとあんちゃん、わざわざ来てくれたのに…」


 謝る受付のおじさん。なんかこっちが申し訳ない。


「いや、謝らないでください。決まりなら仕方ないですし…」


「そうさ、こっちの不手際だから気にしないでくれ」


「すまんねぇ。それで、他に御用はあんのかい?」


「おっとそうだ忘れるところだった。ちょっとばかし魔物を倒したんだが…」


 そうだ、まず魔物の死体を処分しなけりゃならんのだ。


「懸賞金と素材の買い取りだな?よしわかった、ちょっと待っててくれな…おーい爺さん!鑑定一件頼む!」


 ガタイが良すぎて存在感がヤバい、人相がめちゃくちゃ悪いけど普通に優しいおじさんが人を呼ぶ。こういっちゃなんだけど、受付に立たせる人の人選間違っちゃいないか…?


 いや、治安が悪いことくらい俺にもわかるこの冒険者ギルドという場所に、女の子を受付に立たせておくというのはそもそもおかしな話だ。いかつい人が受付のほうが舐められないだろう。それにこのおっさんちょっと足を引きずってるし、もしかすると怪我で引退せざるを得なくなった冒険者の雇用先という側面もあるのかもしれない。


 などと考えていると、別の人が現れた。


「鑑定だって?」


 こちらも古傷だらけの渋い爺さんが出てきた。


「おう爺さん、このお二人が鑑定をご所望だ」


「そうか、わかった。…ほれ若いの、大方空間魔法かアイテムボックスだろう?ここで出されちゃかなわんからこっちへ来とくれ」


「あ、はい」


 爺さんに案内され、ギルドの裏に出た。運動場のようなスペースがあった。


「ここに収まらないっちゅうことはなかろ?」


 なるほど、ここで出せということか。確かにここなら余程の大物を大量に持ち込まなければ全部並べられるだろう。


「はっはっは、流石にそこまでの大物じゃないよ」


 マルグレーテさんは笑いながら言った。


「ちょっくらウルク=ハイをぶっ倒しただけさ」


「ほう?」


 爺さんが反応した。


「それは本当か?」


「ああ、本当さ。カイ、出してくれ」


「わかりました」


 待ってましたとばかりにアイテムボックスを開き、豚顔のハイ・オークの死体と多数のオークのバラバラ死体を展開した。


「…!確かに間違いないな、ハイ・オーク…豚顔か。なんじゃこの腹の大穴は…そこら中に穴がほげとるし…」


「で?どうだい?素材としては」


「…素材としての鑑定はちと時間がかかる、また後でくるこったな」


 マルグレーテさんは上手いこと誤魔化してくれた。…これ、俺はどの程度情報を秘匿すべきなんだろうか。今後の課題だな…あとでゆっくり考えよう。


「そんでこっちはなんだ、オークか…よくぞここまで引きちぎったもんじゃ…これも総数の計算は時間がかかる、次からは出来るだけ原型を留めた状態で持って来とくれ。手間がかかる」

ですよねー…


「ごめんなさい、不可抗力だったんです」


「…まぁそれなら仕方なかろ。命があるだけ儲けもんじゃ。年寄りのお節介だが、あまり無理はするでないぞ」


「はい、気を付けます」


「で、これで全部か?」


「はい」


「そいじゃさっさと済ませるか」


「「お願いします」」

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