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第二二話 「まもののむれ」

 野原をMAVが駆ける。


 結構背の高い草とかもあるが、無視して飛ばす。今までで一番の速さで走っているんじゃなかろうか。草をかき分けで進んでいることになるので、光学迷彩オンとはいえ早いうちに見つかりそうだな…


 「まもののむれ」は、少しずつ西へ向かっている。まぁすぐに追いつけるが、人里へ向かわれるのはまずい。犠牲者が出る可能性もそうだが、MAVや強力な武装を見られても面倒だ。ここで倒す。


 「まもののむれ」が向かっている方向、少し先のちょうどいい位置に木があった。群れと十分に距離を取りつつ先回りする。流石に物音で不審に思われたか、さっきから魔物たちがキョロキョロしている。


 木の影にMAVを回り込ませる。後部の兵員室がちょうど木の影に隠れるようにMAVを止め、RWSで様子を伺う。今更だが、肉眼で見てなく(操縦席のモニター越し)てもそこに敵性存在のあることを確認しさえすれば状況把握のマーカー表示は発動するんだな…


 さて、絶好の位置につけた。ここからなら連中に直接姿を見られることなく攻撃を加えられる。


 さて、まず何で仕掛けるべきか。Ak 5CかPIATか、はたまたFALで狙撃するか。しかし狙撃は枝葉に遮られて難しいか?今このRWSの映像を見ながら攻撃できればい…


 いや、そうだよ。これRWSなんだよ。こいつには低反動20mmチェーンガンが載ってるじゃないか!


 迂闊だった。完全に存在を失念していた。もしや最初に豚顔の大オーク(ボア・ウルク=ハイ)と遭遇して草原に逃げた時、こいつで撃ってればぶっ殺せたんじゃないか…?


 いや、奴は生半可な機関砲なら弾く装甲を持つ戦車をも屠るPIATの成形炸薬弾にすら耐えたんだ。20mmでは通用しなかった可能性もあるし、そうなった場合発見されて危なかったような気がする。結果オーライだ、たぶん、きっと。そういうことにしておいたほうがいい。うん。


 ともかく、今ここにいるのは多くが雑魚だ。そうじゃなかったとしても絶対奴よりは弱い。おそらく20mmでも十分通用する。とりあえず、この20mmチェーンガンで薙ぎ払って一気に数を減らそう。


 すぐにRWSを射撃モードで操作し狙いを定め、20mmチェーンガンを撃つ。


 連続した打撃音のようなくぐもった砲声が車内に響く。モニター越しに一番手前にいたゴブリンが木っ端微塵になるのが見えた。思わず戻しそうになるが堪える。


 魔物の群れは混乱している。今の内に畳み掛けよう。


 ゴブリンの高さに合わせ、20mmを横薙ぎに掃射。


 再び乱暴にノックされたような音が鳴り響く。これで一気にゴブリンは半壊、オークも下半身に弾を受けた個体が倒れた。さぁ、掃討戦だ。


 20mmを繰り返し掃射する。ゴブリンが全て血煙と消えた後は、オークを一体一体潰していく。直撃を食らったオークは上半身と下半身が今生の別れを迎える。


 大戦後に一度廃れた対戦車ライフルの生まれ変わりともいうべき対物ライフルの先駆けにして傑作と名高いバレットM82の12.7mm弾は、1.5km先のイラク兵を真っ二つにしたという。それより遥かに威力の高い20mm弾を叩きこまれたオークもまた、人間と比して強靭な肉体を以ってしてもそれ以上の目に遭うのは必然であった。


 たちまち、生きている魔物はいなくなった。今や白く塗り替わったマーカーが林立しているだけである。


 比較的あっさりと決着はついた。やっぱりこれ奴にも出会いがしらに撃っておくべきだったかもしれんな…


 しかしモニター越しに散々スプラッターを見せられて正直気分が悪い。何度か戻しそうになったのはなんとか堪えたが…ここに来るまでの戦闘でも、実は一度手榴弾に引き裂かれたゴブリンを見て戻してしまったことがある。いい加減スプラッタにも慣れたいが…殺しに慣れてしまいたくはない。


「…ほう、すごいね」


 不意に耳元から声をかけられる。マルグレーテさんがモニターを覗き込んでいた。


「見てたんですか?」


「途中からね。なにやらすごい音がしていたし。…見ていた感じだと群れを統率していそうな個体は居なかったね」


「ええ。いなかったのか、もしくはどこかに隠れているのか…」


 だとすると面倒だ。今の殺戮を見て、警戒して出てこない可能性がある。いるのはわかっているが見つからない潜水艦みたいな質の悪い状況になる。なんとか見つけたい。


「少し、外に出て直接見て探してみるかな」


 ふむ、それがよさそうだ。ここまでの戦いでもほとんど敵を見つけたのはマルグレーテさんが先だった。女史の索敵能力は相当なものだ。魔法なのか、あるいは身体的な技術なのか。ともかく彼女の感覚は頼りになる。RWSのモニターとにらめっこしていても埒が明かないので外に出て探してもらえるなら助かる。


 だが、降車する必要はないかもしれない。


「ここからでも身を乗り出して外の空気に触れられれば見つけられますか?」


「うん?まぁ多分できるけど、目視で確認したほうがいいからできれば少しこいつを動かしてほしいかな?後ろの荷台からじゃ木に隠れててちょっと難しい」


「ああ、それなら大丈夫です。ここから…」


 そう言いながら、俺は操縦手用のハッチを開ける。


「外に身を乗り出せるようになってます。木に隠すようにしたのは車体後部だけなので、ここからなら木に邪魔されることなくそれなりに広い範囲を見れるはずです。…見つかるリスクもそれなりに上がりますが」


「おっ、これは助かる。どれどれ…」


 すぐさまマルグレーテさんはハッチから慎重に身を乗り出した。


「ふむ、不思議な感覚だね。透明になった馬車から身を乗り出してその馬車を見るというのは…さて、と」


 彼女が索敵を始めたので、俺もRWSの画面に集中する。


 数瞬黙っていた彼女だが、唐突に例の仕込み杖をハッチの外へ出した。


「『我が魔力よ、地に満ちる魔力よ、風に舞う魔力よ、陽より月より降り注ぎし魔力よ、収束せよ、投擲するは【魔力弾(マジックミサイル)】!』」


 光の矢が一閃、森へ向けて飛んで行った。


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