第一八話 豚顔の大オークVS英国面
フラッシュバンが爆発したのを確認し、様子を伺う。豚顔の大オークは呻き声を上げながら目を抑えている。しかし召喚したものが壊れた場合、光の粒子になって消えるのか…よく見ると使用済みフラッシュバンも同様に光の粒子になりつつある。MAVを出せたらタブレットの説明書で確認しよう。
ともかく奴から見て木の影に隠れながら、アイテムボックスを開け今回の主役を取り出す。
PIATと、HEAT3発だ。
PIATはイギリスが第二次大戦時に開発した対戦車擲弾発射器だ。こいつの特徴はなんといっても弾体を飛ばすのにロケットではなくバネを用いるという点だ。おかげでバネはクソほど硬いし命中率は悪いったらありゃしない、まさしくフォースの英国面だが、そのおかげでこいつは大戦に間に合ったのだ。兵器とは道具であり、良い道具とは必要な性能を持っていることは勿論、必要な時に必要なだけあるもののことなのだ。
HEATというのは要するに成形炸薬弾のことだ。あのドイツ戦車を撃破してきたこれならば奴にも通じるはず、中りさえすれば。PIATの場合それこそが問題なのだが…とはいえ同時期の対戦車擲弾発射器と比べてそれほど劣るというわけでもないらしいのであとはもう、やるしかない。
PIATにHEATを装填し構える。あらぬところから上がっている煙幕はまだ奴の身体を隠すには至っておらず、今なら狙える。
発射。シュポンという間抜けな音がした直後、爆炎が咲き、爆発音が轟いた。直撃だ。確認する前に次発を装填するが、苦痛に悶える豚顔の大オークにユニークスキル「状況把握」が立てたマーカーは赤のまま。まだ生きている。すぐさま二発目を装填、発射。命中…したが爆発しない。
Cock、不発だ!
スモークを追加で前方、奴と俺の間に投げておく。これで目が見えるようになる頃には煙幕が奴の視界を阻んでいるはず。今回の装備はベルトに付ける拳銃用が二本入るやつ二つ以外はマグポーチを捨てた、漢グレネード祭り…もとい漢煙祭り仕様だ。蛇ではないし煙草でもない。
スモークが上がる前に、三発目を撃ち込む。命中し今度はきちんと爆発した。しかしまだ奴は斃れない。
いや硬すぎだろ!ティーガーだってもう少し可愛げあるだろ…!
スモークを追加でその場へ残し、開けっ放しの革のトランクへPIATを仕舞い、ベルトを着けて背負えるようにした革のトランクを背負い、俺はさっきまで目指していた方向へ向けて走り出す。煙幕が視界を阻まないところまでくると、お姉さんが笑顔で手を振っているのが見えた。いや余裕あるな!
スモークをさらに追加で後方へ投げつつ、俺はお姉さんの方へ全力ダッシュした…
「なんとか撒けたかな?」
「そうだといいんですがね…」
結構な距離走ってきた後、一息ついている。
「ぼちぼち私も戦力になれそうだ。魔法がまずまず使えるようになってきた」
「それはよかった。とりあえずの目的は達成ですね」
「ああ。しかし、あの君の切り札でも倒せないとはね…」
それについては完全に予想外だった。まさか念のための二発目ですらKOできないとは。あの時代の対戦車擲弾発射器はPIATに限らず命中率に難があるし不発率も高い、それも踏まえて3発取り出したが…まさかこんな形で撃ち切るとは思っていなかった。
「3発しか撃ち込んでなくてうち1発不発ですから、4発5発と撃ち込めばわかりませんが…とどめは刺せてないと思います…」
「うーん…正直私の知ってる豚顔の大オークという種類の魔物よりだいぶ強いように思うんだよねぇ…」
なんだって?
「え、そうなんですか?」
「いくらウルク=ハイでも、ここに生えているような大きな木を、走るついでに根っこから引っこ抜いて投げ飛ばしてくるほどの腕力、という話は聞いたことがない。体格も大きい気がするし、恐らく通常の個体より相当に強いと思う。ここの環境か、それとも他のなんらかの要因か…ともかく、普通に出てくる類のものではないだろう。おそらく特異個体だ」
なるほど、ありゃなんかインチキしてると。それならHEATで死なない生物がいるのも納得だ。
「むしろ安心しましたよ。HEATで死なない生物がゴロゴロいるんじゃ俺の正気が保ちません」
「はっはっは、そうかい。あれは余程強力なもののようだね?そして君にとっては馴染みのあるものでもあるようだ」
おっと、迂闊だった!?
「馴染みがあるってほど身近にあったわけではないですね…見聞きして知っている程度です」
ネットなんて言うわけにもいかんのでこのあたりで誤魔化す。
タブレットを使わなくても神器召喚(現代)は使える。脳内にインターフェイスを表示しそれを操作するという関係上少々疲れるだけだ。すぐにTERYXを再度召喚。…うん、マグポーチとかでわかっちゃいたけどやっぱりできるのね。流石は神様謹製のチートスキル。
「さて、行きましょう。奴が追いついてくる前に」
「ああ、そうだね」
俺とお姉さんは再びTERYXに乗り込み、森の中を駆けてゆく。
その日、日が暮れる直前にMAVを出せる空間を発見し、MAVを展開して夜を明かす安全地帯を確保するに至っても、豚顔の大オークは現れなかった。




