第一四話 離脱準備(前編)
ひとまず行動方針は決まった。というか他にやりようがなさそうだ。
となれば問題は、例の豚顔の大オークを如何に料理するかだ。
MAVの空間魔法にも当然のように気付いていた魔法使いのお姉さんにMAVの中を案内した後、お姉さんの希望もあって風呂を貸した。お姉さんの反応からしてこの手の風呂は珍しいどころかまずないようなので、長引くことが容易に予想できる。そんなわけで、こちらは何を召喚するか、タブレットとにらめっこしていられる。あれだけいろいろと股間に悪いことをされたあとなので意識してしまうが頑張る。
豚顔の大オークが出てくるまでに戦闘でゴブリンを倒したことにより、ユニークスキル:神器召喚(現代)のレベルが上がり、召喚できるものの幅が広がった。
携行火器でどうにかすることを考える場合、時代時代の戦車を屠るために存在するロケットランチャーや無反動砲の類、つまり対戦車擲弾発射器が最有力候補だった。しかしながら最新のパンツァーファウスト3やRPG-29は勿論、かの有名なRPG-7やM20、それどころか大戦中のM1/M9や初代パンツァーファウストすらなかった。カールグスタフもM72も、何もない。ついでに対戦車兵器ではないがロケットランチャーではあるM202もない。いくら説明書を読んでも物がなければ撃てん。
ちなみに対戦車擲弾発射器というのは、主に成形炸薬弾をロケットで飛ばす弾を撃ち出す火器のことだ。ロケットという部分に関しては例外がないわけではないが。成形炸薬弾というのは…俺には説明できん。なんか金属に液状化するほどのものすごい圧力をかけて超高速でぶっ飛ばして装甲を突き破るものだ、確か。成形炸薬弾以外にも榴弾とか照明弾とかもあったりするものもある。
さてそれ以外だと…大型獣を狩るための手段として、散弾銃とスラッグ弾の組み合わせというものがある。猟銃として一般的な散弾銃から、複数の小さな弾を同時に撃ち出す散弾ではなく、一発の大きな弾を撃ち出すのがスラッグ弾だ。威力が高く、大型の獣への対策としては有効だ。
しかし、それが豚顔の大オークにも有効とは限らない。見る限り、Ak 5Cアサルトライフルの5.56mm弾は豚顔の大オークの身体を貫通してはいなかった。というかおそらく内臓にも殆ど届いていなかっただろう。ライフルの弾は速度が速く、非常に貫通力が強い。それが貫通しなかったのだ。重く威力のある弾とはいえ、速度が遅く貫通力が低いスラッグ弾がどこまで有効かは未知数だ。
よって次善の策として、大口径の対物ライフルが浮上した。こちらも戦後の「対物ライフル」というジャンルが確立して以降のものはなかったが、二次大戦期の類似兵器である「対戦車ライフル」がいくつかあったので、その中から選ぶことができる。
大体同じような弾薬を使う重機関銃のほうがいいように思えるかもしれないが、MAVを展開できる場所で戦えるとは限らないので厳しい。流石に三脚に据えて使う重機関銃は車両なしでは気軽に持ち運びできない。対戦車ライフルや対戦車ロケットだってアサルトライフルと比べればクソ重たいが、それでも三脚込みの重機関銃とは比べるべくもない。
対戦車ライフルを振り回して戦うといえば、某怪盗アニメの劇場版の傑作で、主人公の怪盗の相棒のガンマンがやっていた。あれもマグナムが効かない防弾装備に身を包んだ敵の集団を撃退するためだったっけ。
ただなぁ…対戦車ライフルってものすごく肩にクるらしいんだよなぁ…まだまともなマズルブレーキが出てくる前だし反動制御が未熟だからなぁ…
とりあえず件の怪盗の相棒も使用した、旧ソ連のシモノフ対戦車ライフルことPTRS1941を召喚した。うん、わかっちゃいたけどクッソでけぇ。これを森の中で振り回すのはやだなぁ…というか滅茶苦茶重い。どうやってこれ振り回して戦ったんだあのガンマン。どう考えても無理だ。これは素直に待ち伏せとかで運用するやつだ。まぁもとよりそういう武器なので当たり前だが。
いくらセミオートという強みがあってもこれでは森の中では念のためにも使えなさそうなので、PTRS1941はすぐにアイテムボックスに仕舞ってもう一つの候補、イギリスのボーイズ対戦車ライフルを召喚する。多少コンパクトにはなったがやはり背の低い人の背丈ほどはある。重さも長さも四分の三ほどだがいずれにせよ長いし重い。だがそれでも森の中での戦闘となるとPTRS1941より多少は使い勝手がよさそうだ。
ボルトアクションという、一発撃つごとにボルトを操作して弾を手動で装填しなければならない点は、引き金を引けばいいだけのセミオートのPTRS1941には劣るが、そこは仕方がない。他となるとそもそも単発だし、装弾数という概念があるだけマシだ。それにボルトアクションはロマンだ。これも持ち歩くにはでかすぎるので、来るべき時に備えアイテムボックスへ収納。
しかしなぁ…いくらなんでも取り回しの悪い対戦車ライフルだけでは心もとない。やはり対戦車擲弾発射器が欲しい。この際対戦車じゃなくてもいいから擲弾発射器が欲しい。擲弾発射器というのは文字通り、擲弾の発射器だ。グレネードといってもこの場合手で投げるものではない。撃ち出す専用のものだ。例外がないわけではないが…
一応アメリカのM79とドイツH&K社製のHK69があるな…どちらか…いや両方出してしまおう。どうせ弾は同じだ、単発だからマガジンもないしアイテムボックスに入れておく限り不都合はない。
しかしやはり不安だ。40mm擲弾なら無傷とはいかないだろう。だが一応ライフル用の弾薬である5.56mmNATO弾をあの程度で耐える相手だ。対戦車ライフルもそうだが、当たっていても倒しきれないなんてのがないとは言えない。
なんとか確実に殺せる武器が欲しい。大戦期のでもいいから、装甲車を破壊できるくらいの擲弾発射器が…あ。
ふと、ある名前を閃いた。そうだ、あれはバズーカもパンツァーファウストも作れなかった彼の国がロケットを諦め妥協して間に合わせたもの。こういう言い方は不適切だが武器の質としてのランクは一つ落ちる。もしかしたら、あるいは…
あった!あったぞ!
重さはあるが全長は対戦車ライフルよりだいぶ短い、取り回しは確実にいい。そしてこいつなら曲がりなりにもちゃんとした対戦車用の成形炸薬弾を撃てる。あの豚顔の大オークだって十分殺せるはず。長距離での命中精度は致命的に悪いが、奴を確実に狩れる火力を前にすれば些細な問題だ。5.56mmでも一応血は流れるあれがドイツ戦車より硬いということはいくらなんでもないだろう。
そういえばそのドイツにももう一つ面白いものがあったな。軽装甲車くらいなら屠れる、それでいてそれほど強力でない、つまり召喚できる可能性が…あった。こっちもあったぞ!
よし、この二つがあればとりあえずなんとかなるだろう。あとはお姉さんが風呂から上がってくる前に、タクティカルベストに付ける多目的ポーチを召喚して、今召喚した武器の弾薬をポーチとアイテムボックスに入れておこう。弾薬は例によってトレーニング施設にあるはずだ。少し使い方も練習しておかねば。
主人公の召喚した本命がなんであるかは…登場してのお楽しみということで()
まぁわかる人には普通にわかるとは思います




