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第一三話 算段

これ以上の毎日投稿は厳しそうですが、これからもハイペースを維持できればなと思います

この話は比較的楽に書けるので、そこまで間隔が開くことはないかな…と

 豚顔の大オーク(ボア・ウルク=ハイ)は、消えた獲物を諦め森へと帰っていった。


 いや、よかったよ?うん。よかったのはよかったんだよ。確かに言ったよ?やり過ごすのがベストだろうと。


 だがこっちにも心の準備ってものがあるんだ…まさかお姉さんに小一時間講義してもらって、さぁこれから頭を捻って最適解を導き出すぞ!ってタイミングでいなくなられるとは思わないだろ…このやり場のなくなったやる気をどうしてくれる…


 盛大にやさぐれたところで、上から最早聞きなれた声が降ってくる。


「まぁ、あれだ、よかったじゃないか。危機は去った!」


「うん、まぁ、そうなんですけどね…まぁいいか…」


 もうどうでもいいや。


 さて、やり過ごしてしまったがこれからどうするか。とりあえず徐行で前進して逃げ道を探しながら、さっき後回しにした話をしよう。





「…ふむ、大体事情は理解した。要するに君は自分が何者なのか、なぜここにいるのか、ここがどこなのかがわからず、とりあえず人里を探しているが、ここがどこだかわからないからどちらへ進んだものか思案している、と」


「そういうことになります。まぁ人里がどの方向にあるにせよ、とにかくこいつをそこまで持って行ける道がないことには…」


「うん、そっちは望み薄だね」


「あ、やっぱりそうですか?」


「ああ。まず、君の疑問の一つ、ここがどこであるのかについて答えよう。ここはライプニッツ帝国東方の高原地帯。一番近い集落でも3()0()()()()先だ。そのごく小さな集落は森の縁にあって、つまりそのくらいまではほぼ途切れることなく森が続いている。まともな道の来ている村がそこからさらに1()0()()()()ほど先だな」


 うむ、全く話についていけん。言語自体は通じるからニュアンスからして遠いのだろうということは伝わったが、単位が全く分からなくてかえって混乱する。


「あー…申し訳ないんですけど、まず1ミタスってのがどれくらいなのかわからないんですよ」


「おっとこれは失敬、といってもミタスはかなり大きい単位だからな…1ミードという単位があって、まぁ大体これより少し長いくらいかな?」


 そういってお姉さんは例の剣――鞘に納めた形状は飾りのついた杖にしか見えないので、仕込み杖と言った方がいいのかもしれない――を持ち上げる。


「これが30ウィリで、1ミードが36ウィリだ。で、1ミタスは1760ミードだ。なんだってそんな中途半端な数字なのかは知らないが、先帝の時代に商人ギルドと職人ギルド、ついでに各国の納税に係る部署が集まってそう決めた。まぁつまるところ1ミタスは…大体こいつ2100本分ってところだね。単位という概念はあるみたいだし、これで君の知っている単位に落とし込めるかい?」


 問題の剣…大体Mk18くらいじゃなかろうか。いや俺が体感で見知っているのはマルイの次世代(エアガン)だから実寸かどうかは知らんが…確か70cm台だったはず。その2100倍…おおよそ2km弱ってところか?ミタスは大体マイルと考えればあってるだろう。どのマイルかは置いておいて。


 30ミタスともなると…50kmくらいか。馬で一日に移動できる距離が確か通常は30kmとかだったはず。平野で足場が悪くないという条件で馬を使っても一日じゃまず無理、相当な距離だ。ましてやそれが森なのだから大変だ。


「おおよその見当は付きました。平野で馬でも一日じゃ無理な距離ってことですね?」


「そういうことだね。でだ、そんな辺鄙な秘境に馬車が通れるような道なんて通ってると思うかい?」


「何もないなら通す必要はないですね」


「ま、当然だね。道があるなら私は道を通れば済んだ話だし、そもそも道が通ってるなら私はこんなとこまで来なかっただろう」


「…そもそもお姉さんそんな辺鄙なとこまで何しにいらしたんですか?」


 こうして助けてもらってる俺が言うには随分な言い草だが、純粋に気になる。ほんとこのお姉さん何者なんだ?


「お姉さんとは嬉しいことを言ってくれるね。助けてくれた恩もあるし、君には少しサービスしてあげようかな?」


 そう言って不敵に笑うお姉さん。サービスって何をだ、何を。この身体男子中学生相当だから自制するの大変なんだって、頼むから妙な目を向けないでくれ、俺がまだ見ぬ社会で死んでしまう。いやその前にお姉さんに切り刻まれて物理的に死ぬか?ならいいや。


「ふふふ。…私は魔導院の研究者でね、ここへは調査で来たんだ」


 やはり魔法使いなのか。それも明らかに権威がありそうなやつだ。ところで。


「調査?」


「そう、フィールドワークってやつだ。このあたりに妖精の群生地があるらしくてね」


「妖精の群生地…しかしこんなとこまで来るにしちゃ軽装じゃないですか?」


「必要な物資は空間魔法にぶち込んでいるからね」


「空間魔法!?」


 このMAVの設備、人の魔法で再現できる類のものなのか。というかこれはリアル魔法を初めて見れるチャンス…?


「ところがこのあたりに来たら急に魔法が使えなくなってね。これはまずいと思って、土地の何かだろうから一旦引き返そうとしていたところにあれが出てきて、魔法が使えないから対処できず逃げてきたってわけだ」


 その言い方だと魔法が使えりゃ軽装甲車程度の耐久力はありそうなアレを処理できるっていうふうに聞こえるんですが。一人で。このお姉さんムエタイXか?というかやっぱり気になるな…


「魔法が使えない?」


「そう、この草原のあたりから魔法発動を阻害するような力場が発生しているみたいでね。こっちに近づいたらまともに魔法を発動できなくなった」


 この草原から?ここなんかヤバい系のとこだったのか…?


 ていうか、あれ?じゃあなんでこのMAVの空間魔法や魔力探知に対する擬装は使えるんだ?


「この中でならどうです?魔法、使えますか?」


「この中でかい?…なるほどこれは盲点だった。使えそうだ…よっと」


 突然、虚空に穴が開いた。


「ぬおっ!?…これが空間魔法ってやつですか…」


「その通り。こうして荷物を仕舞っておける」


 そういって何やら大きな包みを取り出す魔法使いのお姉さん。


 俺はそれを見て、あることを閃いた。


「これってどのくらい荷物入るんですか?」


「ん?そうだね…詳しくは言えないが、それなりに沢山入るよ」


「今俺たちが乗ってるこれとかは?」


「やろうと思えば」


 よし!


「じゃあ、お姉さんにこれを森の縁まで運んでもらうってわけにはいきませんか?途中道でなくともこれを出せる場所を見つけられればそこで安全に休息も取れます。どうですか?」


 これで魔法を使えない地帯さえ抜ければ安全に森から脱出できるという寸法だ。


 しかし残念ながらそう上手くはいかなかった。


「なるほどそいつは悪くない提案だね。これの中から出ずにこれを空間魔法へ収納できれば、だが」


「あっ」


 失念していた。ここは魔法が使えない。MAVの外へ出たが最後、これを格納することはできない。


 打つ手なし…と思ったところで、お姉さんが助け舟を出してくれた。


「ところでさっきから気になっていたんだがね。その鞄、アイテムボックスだろう?」


 そう言って革のトランクを指差すお姉さん。


「そうらしいですね…あ」


 そうだよ、これ草原の中でも開けたよな?最初の戦闘(チュートリアル)の時に開いたぞ。…まさか!?


「これにMAVが入るなら…?」


「えむえーぶい…?ああ私たちが乗ってるこれのことかい?そう、それに入れればいいと思うよ。どこで手に入れたのかは知らないけどそれ、相当質の高いもののようだし、入らないということはまずないんじゃないかな。それにアイテムボックスなら魔法阻害地帯でも開けるはずだ」


 盲点だった。まさか装甲車を丸ごと一台手提げのトランクに入れて移動するなんて手があるとは。固定観念に囚われてはいけないな…


「そうか…これなら」


「ああ、森を脱出できる」


 喜びもつかの間、お姉さんが再び問題を指摘した。


「魔法が使えるところまで、あの豚顔の大オーク(ボア・ウルク=ハイ)に見つからなければ、ね」


 どうやら、俺のやる気は有効だったらしい。いや、もう霧散しているんですが…

単位は基本的に国際ヤードポンド法

Mk18はM4カービンという有名な銃の、無数にある派生型の一つみたいなものです

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