第九話 再びの戦闘へ
再びの戦闘準備だ。しかも今度はチュートリアルじゃない。スキルと装備以外は一切神様からの手助けはない、この身を頼りに挑む、初めてのガチンコの実戦だ。
タブレットの説明書によれば、ユニークスキルの「状態把握」が敵位置にマーカーを立ててくれるには、俺自身が敵位置を一度は目視で把握しなければならないらしい。解説によると実はかなり効果範囲の広い強力なスキルらしいが、その分個々の分野における使い勝手は微妙な部分もあるらしい。
とまれ、俺に取れる選択肢は二つ。このままMAVに立て籠もって敵が向かって来るかイナクナリナサ…居なくなるのを待つか、こっちから出向くか。
しんきんぐたいむ。
…そもそも奴ら(魔物)は何を喚いているんだ?
なんかいいもの――野生にとってのそれは大概食い物――でもあったのか、もしくは…
…「何かと戦っている」?
可能性はある。
では「何と」戦っているのか。
…そこまで考えて、俺は兵員室へ飛んで帰ると、Ak 5Cとタクティカルベストをひっつかみ、車外へと飛び出した。
魔物は人間を襲う。人間は魔物と戦う。これは一つの「お約束」だ。
無論、魔物同士で戦っていることもあるだろう。だが、魔物が戦闘しているのなら、相手が人間である可能性がある。
可能性に可能性を積み上げただけの、薄弱な根拠。今までの俺だったなら、確実にMAVに籠って待った。自分が前世からの臆病者であることは、前世についてのそれほど多くない個人情報の記憶の一つだ。だがそろそろ孤独でおかしくなりつつあったらしい俺には、その可能性は十分すぎる劇薬だった。
それに、もし万が一可能性が現実で、待ったがために死なれでもしたら寝覚めが悪すぎるし、俺はここから出る数少ない手がかりを失った後悔で発狂しかねない。どんなに根拠が弱くても、やるだけの理由はある。俺の精神衛生という、十分すぎる理由が。
しゅっ、しゅっ、かちっ、かちっ、しゅっ、かちっ、じゃこっ、じゃっ、がしっ、じゃこっ、
\デェェェェン/
遊んでる場合じゃない!!
肩に担いだAk 5Cを普通の構えに戻し、森の中へと突入する。
いやほら、やっとくと勝てそうな気がするじゃん?娘の居場所がわかっていない時点で爆薬マシマシの只で建物を片っ端から爆破しても、最終的には娘とパートナーの色黒美人フライトアテンダントと羽根のついたカヌーに乗ってハッピーエンドできそうじゃん?筋肉式で全て解決できそうな気がするじゃん?
…それはともかく。
全力で警戒しながら森の中を声の方へと進む。どこに伏兵がいるとも限らんし、警戒は徹底しつつ、しかし可能な限り急ぐ。
しかし勢い込んで飛び出してきたが、やはり懸念はある。
また相手が人型だった場合、俺は今度も引き金を引けるのか。
今度こそ精神ダメージでやられてはしまわないか。
…しかしまぁ、それも人命と情報という可能性には代えられまい。
それに人型魔物なんてモドキではなく、ド直球の人間を殺してしまうことが致し方ないこととして法的に見逃されるという状況だってあるんだ。
それにそれに、戦争における兵士による敵兵士の殺害は基本的に罪じゃない。
…む、少し注意が散漫になっていたな。用心せねば…ッ!
「ギャア!ギャア!ギャア!」
「そぉいっ!」
「ギェェ!!」
間違いない、人の声だ。人の声がした!
低くはない、恐らく女の人の声だ。こんな見るからに辺鄙なところまで来るとは、どういう事情あってのことなのだろう?
ついに戦闘現場が見えるところまで来た。
「ふんっ!」
ローブを纏い眼鏡をかけた女の人が、短めの剣を振るって多数のゴブリン相手に戦っている。というか既に屍の山を築き上げていらっしゃる。強いな。
あれ?これ俺出て行かなくても大丈夫じゃね?と思ったが、貴重な手がかりだ。逃がしたくないし、なればこそ一緒に戦って好印象を持ってもらったほうがいい。それに多勢に無勢、彼女がどこまで保つかは未知数だ。あと血肉の臭いの撒き散らされた場所にあまり長時間いると、他の獣が寄ってこないとも限らない。早急にゴブリン共を片付けて、できるだけ早くここを離れたほうがいいはずだ。第一俺がこのままゴブリンに気付かれないという保証はないし、まだ彼女が戦えていて、余計な強敵が現れないうちに出て行ったほうが、俺も彼女も生存率が上がるだろう。
彼女を避け、ゴブリンの群れに銃口を向ける。おびただしい数の敵マーカーが林立し、威圧してくる。恐怖と緊張6割、躊躇い3割、残り1割は…興奮。緊張と闘争心、期待と高揚感が入り混じったような、興奮。
今はこれに縋ろう。人間誰しも心の中に怪物を住まわせているという台詞は使い古されているが、ならば俺の中にもいるはずだ。今この時だけは、俺の中の怪物の力を借りよう。
セレクターをセイフティからフルオートへ。
躊躇いを恐怖と興奮で掻き消しながら、俺は引き金を引いた。
ようやく主人公以外のキャラの影が…()




