表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

風邪

“何やってんのよ、もう!”


クロの怒りはもっともで、僕は苦笑で応える。


“ごめんねぇ、クロ”


“ごめん、じゃないわよ!”


クロの威嚇を見るのは、久しぶりだ。

そんなことを考えていると知られたら、また怒られるんだろうけど。


“何考えてるの!?この雨の中、狩りを続けるなんて!”


橋の外側では、弱々しい雨が降っている。

この降り方は長引きそうだな、と分かっていたのに、今日の分の食料が捕れるまで粘ってしまったのだ。

僕は何日も食べないことに慣れているけれど、まだ野良になりたてのクロは空腹に慣れていない。

クロの悲しそうな顔が頭に浮かんだら、引き返すなんて選択肢は消えてしまった。

クロのために、なんて答えたら、怒られるどころか悲しませてしまうかもしれない。

だから、それを悟られないように、目を逸らしながら答える。


“…何か食べ物を、と思って”


“それで風邪ひいてどうするの!”


“いやぁ、全くその通り”


“笑ってるんじゃないわよ!”


クロは怒ることに疲れたのか、威嚇を止めた。


“…もういい。シロは安静に寝てて。明日から食べ物を捕るのは私がやるから”


“うん…。ごめんね。でも、本当に大丈夫?僕もついていこうか?”


“だから、安静に寝てろって言ってんでしょうが!シロに狩りの仕方はもう習ったんだから、私だって出来るわよ!”


勢いに押されつつ、僕は小さく注意する。


“狩るのは虫とかだけで良いからね。鳥は口ばしが鋭くて危ないから近づかないで。あと、人間にも十分気を付けて…”


“過保護すぎよ!シロは私のお母さんか何かなの!?”


でも、心配なんだよ。

口にしていないのに伝わったのか、クロはギロッと僕を睨んだ。

誤魔化すように目を逸らしていると、不意に体の右側が温かくなった。


“クロ…?”


寄り添うように隣に座ったクロに、僕は困惑する。


“クロ、そんなに近くに居たら風邪が感染っちゃうよ”


“うるさいわね。私の勝手でしょ”


“えぇ…?”


でも、その温もりを手放すのは惜しかった。


“…うん、ありがとう”


僕が言うと、クロは目を閉じて呟いた。


“…早く治りなさいよ、バカ”






“迷惑かけてごめんね”


次の日の夜、狩りを終えたクロに謝った。

クロは珍しく怒らずに苦笑する。


“何度目よ。シロのごめんはもう聞き飽きたわ”


“あ、ごめん…”


“ほら、また”


クロは僕に寄り添ったまま、夜空を見上げた。


“気にしないで。多分、私が野良で生きてこられたのはシロのおかげだから”


“えっ…”


僕は驚いて咳き込んだ。


“シロ!?大丈夫!?”


“クロに…感謝された…!”


“驚きすぎでしょ!まるで、私が全くそんな素振り見せなかった、みたいな言い方ね”


感謝していたとしても、クロがそれを素直に言葉にするとは思わなかった。


“クロ、今日は素直だね”


“…風邪を引いてるから優しくしてみただけ。特に意味はないわよ”


おやすみもなく、クロは目を閉じた。

僕も目を閉じる。

明日の光を見るために。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ