どうして
それは、雨が降ってきた日だった。
“…分かってるわよ、本当は”
子猫がそう呟いたとき、僕は顔を伏せることしか出来なかった。
子猫は立ち上がり、雨に掻き消されないよう、叫ぶように続けた。
“捨てられた、なんてことは!段ボールに入れられた瞬間から!もう嫌ってくらい分かってるのよ!”
この子も、結局受け入れた。
受け入れるしか、なかった。
“どう!?満足!?自分の言った通りになって、ざまぁみろって思ってるんでしょ!”
“ざまぁみろ、なんて…”
僕も立ち上がって、叫ぶ。
“そんなの思うわけないじゃないか!”
“どうしてよ!”
“だって君は!僕の過去の姿なんだから!”
子猫は、息を呑んだ。
雨が、僕の涙に見えたのだろう。
僕にも、子猫が涙を流しているように見える。
涙を流すことすら、僕たちには出来ないのに。
“僕だって待ったよ!一匹で!ずっと!ここで待ってた!人の気配がしたら、もしかしたらって期待するし違って辛くなることもあった!温かい家に帰れることを、夢見たりもしたんだ!”
雨はさらに激しく降る。
この世界は…僕らをどれだけ傷つければ満足なんだ。
“目が覚めて外だったら、未だに辛くなるんだ!君だってそうなるよ!僕には分かる!”
“じゃあ…じゃあどうすればいいのよ!どうすれば辛くなくなるのよ!教えてよ!”
“そんなの出来ないに決まってるだろう!”
“じゃあどうするのよ!”
“知らないよ!”
“どうして知らないのよ!”
“僕だって知りたいよ!”
“どうして…”
子猫は小さな身を震わせて、怒鳴った。
“どうしてわたしたちがこんな目に遭わなきゃいけないの!”
僕は、答えることが出来なかった。
“…雨、強くなってきたね”
“……”
“少し行ったところに、雨宿りできる場所があるんだ”
それは橋の下で、ちっとも暖かくない。
でも、僕らには、そんなところ以外に雨をしのぐ場所もない。
“行こう”
僕の言葉に、子猫は返事をしなかった。
でも、僕が歩き出すと、子猫はしっかりとついてきた。