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ありえないこと


「ごめんね…仕方ないんだ…」


それが、僕の家族だった男の子の最後の言葉だった。

猫だって、生まれたときから人間に囲まれていたら、人間の言葉は分かるようになる。

それが、諦めたときの言葉だと。

お前を捨てる、という意味だということも、僕には分かった。

分かっていたから、僕はボロボロと零れる男の子の涙を舐めた。

それは、泣き虫なこの子が泣いているときに、いつもしてあげることだった。

その塩辛い味を、二度と口にすることはないと、分かっていたから、舐めたのだ。

涙の止まらないまま、僕を地面に下ろして背を向ける男の子。

僕は、追いかけなかった。

ついて行ったら、その子がさらに泣くことを分かっていたから。

でも、簡単に割り切ることは出来ない。


やっぱり、待ってしまうんだ。


彼がもう一度ここに現れて「ごめんね」と僕を抱き上げてくれる。

そのとき、泣き虫な彼はまた泣いているかもしれない。

いいよ、って言葉の代わりに涙を舐めてあげたら、彼が泣き止んで、また、温かい家に一緒に帰る。

そんな、ありえないことを、夢見てしまうんだ。


“…あんた、いつまでここにいるのよ”


子猫の問いに、僕は答える。


“君が受け入れるまで”


でも、ありえないことを夢見てしまう時間も、僕らには必要だ。

もう絶対に来ないな。

そう分かるまでその場所に執着しないと、僕らはまた主人の影を探してしまう。

この子猫にとって、この時間は大事なものだ。


“あっそ。じゃあ、ずっとここにいることになるのね”


子猫はそう言うけれど、数日後にはきっと諦めることになる。

そう分かっていながら、僕は心の奥底で祈った。

どうか、この子の家族が迎えに来てくれますように。


でも、この大きな世界は、やっぱり僕らには優しくないようで。

僕の祈りは、叶わなかった。

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