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捨てられたんだ

久しぶりに長編です。

よろしくお願いします。


ごとっ、という重い音は、僕の目を覚ますには十分だった。

自然ではあまり聞かない音に、草陰から外の様子を窺う。

音の主はすぐに見つかった。

大きな木の前に人間が立っている。

幸いこちらには背を向けていて、僕の存在には気付いていないようだ。

僕に気付かないまま、人間はザクザクと大きな音を立てながら立ち去っていた。

その足音が随分と遠くまでいったのを確認してから、音を立てないよう慎重に木の根元へ走り寄る。

そこには、カタカタと揺れ動く、小さな段ボール箱が転がっていた。

角が潰れていることから、手荒に投げ捨てられたことが分かる。

動いているそれに手をかけ、横向きに倒した。


「うにゃっ!?」


悲鳴をあげて転がり出てきたのは、黒い子猫。

やっぱりか、と僕は思った。

慌てて受け身をとったその子猫は、僕に気付いて威嚇を始める。

こういう子を見つけるのは、初めてではない。


“初めまして、可愛い新入りさん”


僕がお辞儀をすると、子猫は威嚇を止めた。

だが、鋭い眼差しだけは緩めない。


“新入りって?”


うんうん。ここで生きていくにはそのくらいの警戒心が必要だ。

僕は答える。


“もちろん、野良の世界のだよ”


ハッ、と子猫は、僕の言葉を鼻で笑った。


“何言ってるの?”


小さな体の割に、気の強い女の子だな。

口に出すと引っかかれてしまうだろうから思うだけに留める。

子猫は続けた。


“わたしはここに預けられただけ。ご主人がすぐに迎えに来るの”


そう、皆そう言うんだ。最初だけは。

だから、僕が教えてあげなければならない。

…随分と嫌なことに慣れきってしまったものだ。


“来ないよ、お迎えなんて”


子猫が、キッと僕を睨む。


“すぐに来るわよ”


“すぐっていつ?”


“すぐはすぐなの”


“来ないよ、絶対”


“なんで来ないって言い切れるのよ!”


黒い子猫はまた威嚇を始める。

その怒りの炎を消すように、僕は静かに言葉を落とした。


“僕が、そうだったから”


僕の家族だった男の子を思い出す。

もう顔もぼんやりとしか思い出せない、その男の子を。


“僕のご主人が…来なかった”


“アンタのご主人がそうだったとしても、わたしのご主人はそうじゃない!”


“君も心の何処かでは気付いてるはずだよ”


子猫の威嚇がピタリと固まる。


“…なに、いってるの?そんなわけ…”


“捨てられたんだ”


事実を突きつけると、子猫は黙った。

気味の悪いくらい静かな冬の夜に、僕の無情な声が響く。


“僕も、君も、捨てられたんだよ”


それから、僕たちは黙り込んだ。

ただ、大きな世界に凍えて、身を寄せ合って朝を待った。


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