表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イグ恋!-愛機のF-15が美人になっていてー  作者: 室内あるみ
第一話「私の名前はイーグル」
8/50

服を着替えよう

「ご家族でお買い物ですか?」

「まぁ、そんなところです」

 買わなかった服を抱えて売り場に並べていると、店員の女性も手伝いながらそう語りかけてくる。服を丁寧に折りたたんで返答する。こんなところで綻びを生むなよ、俺。

「珍しいものですから」

「まぁ服全部買うなんて変ですよね」

「まぁ、人間としては気になっちゃうんですが店員としては失格ですよね」

「あはは、確かに。でも手伝ってくれて助かってます、それじゃ」

「またのご利用お待ちしております!」

 店員は話をしながら俺の倍以上の速度で服を畳んで行く。これでも航空学生の時に畳むのを徹底的に練習したからできないわけじゃないんだけど。やっぱり本職は違うんだな。まぁそれが仕事、と言ってしまえば一言だが。仕事をしっかりこなせるっていうのは大事なことだ。

 一通り片付け終えると店員は頭を下げる。それに軽く返しながら売り場を出ていった。

 後ろ手に手を振りながら、デパート棟を離れていく。

「遅いですよ風見さん」

「すまん、片付けてたら店員と話が弾んちまった」

「守秘義務」

 一ノ瀬三尉がぼそりと小さな声で呟いた。守秘義務、099号機のことだろう。備品損失、人間の誕生を起こしたのは途轍もないスキャンダルだ。少しでも漏れたら、人権団体、反基地団体などにバッシングされることは間違いない。とてつもなく面倒な事だ。でも今後099号機の面倒を見るのには必要なことだ。

「守ってるって、そこらへんは流石にずっと考えてる」

 荷物を両手に抱えながら、小さくため息をついた。

 099号機が・・・もう099号機って呼びづらいな。機体ナンバーで呼ぶのは面倒だ。けれど今だけの偽名の玲子で呼ぶのもちょっと抵抗感あるしなぁ、他の個体が居ないならいつも呼んでいたイーグルって呼び方がいいかもしれない。だけどそれも小さな理由で、俺の個人的な思いで却下したくもある。

「一ノ瀬」

「何ですか?」

「ほかの基地からの連絡で同ケースを報告はされていないんだよな」

「えぇ、それが?」

 不思議そうにしながらも099号機の服を選んでいく一ノ瀬の後ろを歩きながら声を掛けた。

 個人的に迷っている今の思いを断ち切りたかったのが理由だけれど、なんだか話しかけると脈絡がないように感じて話すのを躊躇してしまう。だから、誤魔化すように他の話題を提供した。

「いやな、あいつしか個体は存在しないってことを確かめたかっただけだ」

「それだけではないでしょう」

 そのままその話題を終わらせようと言葉を締めると思い切り踏み込まれた。服を選びながらも考え事を続けていたらしい。

 お互い黙ってしまったなんとも言えない空気の中、彼女の方からこう切り出された。「名前のことでしょう」って、言われると言い返しもできずに素直に頷いてしまう。続けるように顎をしゃくらされ、一度嘆息してから言葉を選び出した。

「あいつの名前の呼び方で誰でもわかるものがいいなぁってな」

「もしかして、個体名を除いてそのまま?」

「ダメか?」

 そう、それが俺の案。彼女以外に人間飛行機が居なければ彼女のことを「イーグル」と呼べば呼びやすいし個体名であるということだ。他の機体ナンバーだったら数をもじったりすればいいかもしれないが、それで思いついたのが「くく」だったので却下。犬のダックスフンドをダックスフンドと呼ぶようなものになってしまうが、一番無難で誰でも分かりやすい、何より親しみが持てる名前じゃないだろうか、そう思って考えた。

「どうでしょう、彼女自身に選んでもらった方がいいんじゃないでしょうか」

「そうだよな」

 一通り理由を聞いた一ノ瀬三尉は服を自身の体に合わせながら返していく。099号機は自由に歩き回って気に入った服を俺の持つ籠の中に放り込み、試着室に入るという作業を繰り返している。一ノ瀬三尉も護衛とはいってもある程度周りに溶け込むように普通の買い物客をしていた。大量の荷物を抱えさせられた俺だけが完全に取り残されては・・・いないか、休日のお父さんやデートに連れ出された男子のような感じだろう。

「これなんてどうです!」

 試着室から出てきた099号機の服は白色のブラウスに小麦色のカーディガン、茶色の膝丈スカートだ。落ち着いた雰囲気が、彼女の声と調和してテレビドラマに出てくるヒロインのような雰囲気を見せていた。もともと着ていたのが芋ジャージだったのに一ノ瀬三尉チョイスの服を着ただけであっという間にモデルに様変わりしたのを周りの客が驚きの目で見ている。

 かく言う俺もその姿というか雰囲気の変わり具合には驚いていた、言葉を発せずにいた。

 だが一通り全身を眺め終わると一ノ瀬三尉が店員を呼び会計をし始める。彼女はその作業の合間にこちらをチラリと睨み言外に主張をする。つまりはあれだ、このまま芋ジャージを着続けても目立つから、これを買ってそのまま着させろということらしい。

「いいんじゃないか、着てそのまま買い物をしよう。もうすぐに会計も済むみたいだし」

「え、じゃあ芋ジャージ卒業?」

「あぁまぁな。ずっとジャージってのも嫌だろ?」

 あとこれ以上服の紙袋を持たされる俺の気持ちにもなってくれっていう気持ちも含まれている。ジャージなら薄いから持っているビニール袋に入るだろうし、なによりあの3点を持つよりは軽い。

 まぁこの後も普通に荷物は増えていくのだろうが、それでも部屋着、外着、靴下下着類を一通り、買い終えたのだから一度荷物を置いていくのもありだ。

 それにそろそろ夕食の時間でもあるし、昼間に口に入れたのがゼリー飲料だけだからお腹も空いた。

 名前のこともご飯の時でいいだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ