敵を討て!
▽
蝉がやけに煩く聞こえる。
「うっ、うーん?」
唸りながら、体の上に乗せていた薄い布団を足でけってどかす。
汗を掻いたシャツを脱ぎ捨てて、枕元に置いてあるスマホの画面を見た。
7時ピッタリ。起床時間。
重い体を持ち上げて瞼を擦った。
ドタドタ、ピシャッ!
床板を蹴り歩く音が鳴り響き、廊下から男子部屋の扉を開ける音がする。
「アテネさん、朝ですよってキャッ!」
寝起きでイマイチ血が上らずクラクラする頭のまま扉を向くと、イーグルがそのポニーテールを揺らし、モーニングコールしに来た。
「イーグル、おはよう」
「ふふふ服を着てくださいよ!」
慌てて入口傍に置いてあった電気のリモコンを投げつけてきたイーグルは、「あと、おはようございますっ!」と叫んで、リビングの方に戻っていった。朝から騒がしいやつ。
あー。
「筋肉いてぇよ、昨日の今日で」
昨日はいきなりこの伊良部島に移動してきて、宮古島で事故が起きたのを調査することになって。
そして歌に襲われ、戦闘をした。
朝早くから、日付が変わるまで。そして日付が変わった後も報告書を作成する隊長に付き合い、結局帰ってきたのは、朝の5時。報告書の途中で仮眠こそ取って、疲れは抜けているが、精神的な疲れと筋肉の痛みは今が絶好調だった。
トランクケースから下着を取り出す。
肌の表面が汗ばんでいて気持ちが悪いから、タオルで一通り拭って服を着る。
フライトスーツをハンガーから手に取り、電気シェーバーで髭を剃った。
「風見三尉?もうご飯できてるみたいですけど、今起きてます?」
「起きてる、起きてる。今行く!」
▽
「おはようございまーす」
「おっはようございまーす!」
「おはようございます」
「おーすおはよう」
朝食を食べた後、軽トラの助手席にイーグルを乗せて下地島空港に出勤した。原付に乗った三尉が先に寮を出ていて、隊長は報告書を書くために格納庫のプレハブで寝泊まり。
4人が集まると、隊長がパソコンを持って皆を見回し、プロジェクターと繋いだ。
「皆、昨日はお疲れ様。一通り、報告も終わった」
「結局アレはなかったことになりました。昨日の実弾演習をでっち上げて各航空隊の弾薬消費を消し、メディアに訓練だと公表して隠蔽」
「隠蔽って・・・」
人聞きが悪い。もし知られでもしたら隠してることを指摘されて、より痛くなる。けれど、宇宙ゴミが兵器の攻撃を遮って、オマケに音響兵器も有していたなんて事実はそうそう発表できるものでもなかった。
「んでだ、イーグルちゃんの事についてもいくつか推論が出来た」
そう言ってまず一枚目の資料が白幕に表示される。
隊長が指揮棒を持って、その資料の真ん中を叩く。
「まず、1年前。宇宙ゴミが落ちた。この時の中身はイーグルちゃんの意識だ」
「な、中身?」
なんじゃそりゃ。思わず口に出してしまう。
「何かはまだよく分かってない。今後の研究でそこを確かめる予定だ。まずは、1年前の宇宙ゴミとイーグルちゃんが何か関係があると認識して問題ない」
「だから、歌に対抗できた?」
「ま、端的に言うとそう言うことだな。あの歌の周波を調べてもらったが、機械にすら認識できなかった」
「逆に言ってしまえば、イーグルさんが機械でもあるということです」
そこまで語った隊長は地図を表示し、指差す。
「各地の宇宙系観測機関に問い合わせた結果、落下が確認されていない宇宙ゴミはいくつかあった」
最初に指差されたのは、大きな青色の表示の上。太平洋に浮かぶ島だ。
「まず、ハワイのヒッカム基地。ここでは一時期滞在していたF22(ラプター)がイーグルちゃん同様の変化を起こした」
「ラプター?!」
現在実戦化されている中では最初のステルス戦闘機。F15と同じく、最強の戦闘機にあげられている一機だ。
「次に、PLAN(人民解放軍海軍)、空母山東の所属機、J15(フランカー)が東シナ海で同様の現象を起こした」
「それってこの前のスタンバイが掛った時の!」
「そうだ」
隊長が話していたのはこういうことだったのか!
ヒッカムの案件と同レベルの速さで伝わっているのは、回収に自衛隊が付き合っていたから。そこで情報が漏れていた。そして、俺に語ったバジャーのパイロットが関わっている。そこまで説明されたところで大きく息をつく。
「この他にも今後浮かんでくるだろう。だが、俺たちはひとまず最初の2件と協力して、あの歌を流した宇宙ゴミと同様の被害を起こす、敵を討つ!」
「「「了解!」」」
以上部分で、イグ恋第一部(一巻分)完結となります。
二巻分の展開として考えているのは
ラプター編
基地祭編
フランカー編
の三編。
この辺りで完結です。
▽最後に、ここまでのお付き合いありがとうございました。
もし、他の作品を書いて出会った際は、またよろしくお願いします。




