撃破!
イーグルの声が響き渡る。
立ち向かうように轟くその旋律は、次第に広がり、歌の効果を打ち消した。
空という布を黒く染めていた歌を、漂白剤のように真っ白にしたイーグルは、その白を雲海の上に広げる。
「行ける!」
敵の発光が強くなる。連れるように歌の音量もでかくなるが、無線に直に届けているイーグルの声の方が効果は大きい。
成功したと認識するまでにそう時間はいらなかった。イーグルの声によって、ようやく敵やイーグルと同じ土俵に立つ、次は倒すだけだ。
サイドスティックを押し込み、マスターアームを操作。サイドワインダーを2発、シーカーオープン。
イーグルの歌に対抗するために発光し音量を上げようとした敵の表面をロックする。JHCMSのバイザーにロックコンテナが浮かび、2つのボックスが交差した。
ビーッ!
ロック音が鳴り、耳をつんざく。
「FOX2」
そうコールし、トリガーを人差し指で絞り込む。
翼端パイロンのレールランチャーから打ち出されたサイドワインダーが正面に飛ぶ。
操縦桿を引いて、ロール。ラダーを合わせて、上昇する。
「命中しましたよ!」
喜んだように歌を止めたイーグルの声がした。
確かに俺が放ったサイドワインダーは命中して、さっきより表面を壊している。ミサイルの弾頭が効果的に炸裂して散弾みたく硝子を砕き散らした。歌は止まり、宇宙ゴミは空というキャンバスにピン止めされたように止まっている。
「イーグル!そのままサイドワインダーで破壊しろ!」
「了解!」
力強く応答した彼女は編隊から分裂し、サイドワインダーを放つ。
雲の上をペンで殴り書きしたように伸びる雲が敵を貫くように伸びる。
これで終わり。誰もがそう思っていた。けれど、次のシーンに移り変わった瞬間、息が出る。
敵はサイドワインダーを上昇し、ギリギリで避けた。平然として砕けている表面を光らせたそいつを見て、汗が肌に浮かぶ。
操縦桿を引き、残り少ない機関砲の残弾を吐き出すために追いかける。こちらに気が付いた敵は降下してロックを避けた。
「ええい、しゃらくせい!」
バイザーを持ち上げ、左手でキャノピーを伝って後ろを振り返る。
「オーバーシュートした!」
隊長が声を上げる。確かにオーバーシュートしてしまったがそれは想定内だ。相手の方が初速が遅いので、どうしても減速勝負の最初は勝てない。おまけに相手は物理飛行しておらず、上下左右自在。ただスピードが遅いというのが救いだが、もしこれで速度も自由であれば、手の打ちようがなかった。
Gで首が折れそうになるが、操縦桿を緩めてそれに対応。敵の位置を確かめて、スロットルを握り直し減速。
雲の切れ間に飛び込むようにもつれ込む。
エアブレーキを閉じて、左右にエネルギーを分散してしっかり減速して、敵が降下しすぎるタイミングを図った。
降下するスピードを出し、先に雲の下に飛び出た敵は上昇に切り替え、Gで狭くなる視界から飛び出す。
操縦桿を押してローヨーヨーで再び加速する。
ふっと体にかかっていた横に分散する遠心力が、上に飛び出す力に打ち消された。
広がる視界に敵が映りこみ、HUDの中心に映る。
ドンドンドンドン。機関砲が発射され、下から打ち上げるように火線がのびた。
「壊れたか?!」
マスクの中で大声を上げる。機体が上昇し、命中した煙で見えなくなった敵と交差した。
「まだです!」
「まだだ!」
後ろを振り返っていた隊長と、イーグルの声が重なる。
敵は確かにボロボロにはなっていたが、それでも空に浮いていた。
もうダメだ。弾がなくなってしまった。諦めるしかないのか。そこまで考えたところで思い直す。今諦めたらそれこそダメだろ。最後まで抵抗するのが、パイロットのあるべき姿だろ!
無線にノイズが走った。
「アテネ、ミサイルのお届けだ。最終ロックはデータリンクで!」
「コブラさん!」
力強い声で、仲間の声が聞こえた。
すぐさまJHCMSのバイザーを降ろし、データリンクでロックオン。Link16で送信されたロック情報に従って、視界外から打ち出されたAIM120アムラームが敵に殺到する。
連続して32発のミサイルが同時に破裂し、高速で上昇していた敵を砕いた。
ボロボロになった宇宙ゴミの表面が空気の層で崩れていく。
「イーグル、止めだ!」
「ラジャー!」
一旦上昇して離れていたイーグルがマッハ2で一気に近づき、腰に付いた機関銃を撃ち尽くす。
「ターゲットスプラッシュ!」
E2Cの報告で無線が沸いた。




