いざ。
▽
踵のアダプターをはめ込む感じで機械の方へ降ろす。
カチリとハマった音がすると確かめるように左右に振った時、思わず先ほどの事を思い出した。
顔が真っ赤になる。
「貴方の命を守ります(キリッ)」ってなんだよー!なんで私そんなこと言っちゃったんだよ!
しかもアテネさんは「期待してるぜ相棒」なんて言いだすし。
そこまで考えたところで頭は赤べこのように揺れた。上下に振るようにした後、余韻で左右に揺れる。とりあえず、今思い返すと途轍もなく恥ずかしいことを整備士の前でやったと気づくと、頬が熱くなった。
そ、それに・・・イーグルに乗らないとって・・・意味は分かるけどさぁ!勘違いしそうになるじゃないですか、アテネさんのバカ!
自分がとんでもない発想をしていることに気づき、赤面ABオン。気分はマッハ2.5。
整備士さんが機械をウィンチで持ち上げ、接続状態にして声をかけてくる。ようやくそこで正気に戻った私は、顔をぱんぱんと叩いた。
海の夜風が吹き込み、あっという間に頬も冷やす。
左右を見て、安全確認。足のホイールをバックに切り替え、後ろに下がった。
「オーライ、オーライ」
顔を時々後ろに向けて、格納庫の暗闇の中に照らされた機械の方に腰を向ける。
ある程度近づくと、整備士さんが声を上げ、機械を近づけた。
「イーグルさん、準備いいですか?」
覗き込んできた整備士さんにサムズアップしてOKの合図を見せる。
機械の私を飲み込むぐらいに大きなエアインテークと接続部が近づき、ハマった。
エンジンをかけていない間は静かだが、スタートさせてしまえば、もうほぼ何も聞こえなくなる。
息を整え、右手を上げた。
整備士さんが前に立ち、照明の光と順光になった状態で同じように右手をガツンと上げる。
エンジンスタート。
ギューーーン、起動音が鳴る。
ポポポポッ、警告音が響き、右インテークに空気が流入し始めた。
エンジン音が響く中、右エンジンの排気熱が安定してきた辺りで、左もスタート。
出力をチェックしながら指を上げる。
まずは右手の二本。これで右エンジン20パーセント。
続きに三本、四本と出して、パーの形になってもエンジンに異常がなければ左もスタート。上げる手を換えた。
そのまま上がっていき左も50パーセント。
パワーを上げて65パーセントで安定させて、一旦アイドルまでエンジンの出力を抑える。
左も安定したら両手を合わせ、広げた。前に立っている整備士さんに示す。
つま先に差し込まれていた車輪止めを整備士さんが引き抜くと、機体がつんのめるように動いた。
パーキングブレーキをかけて、無線でアテネさんを呼び出す。
ふとさっきの事を思い出し、もう一度恥ずかしさが再燃しそうになるが首を左右に振って気を静めた。
エンジン音がもう一つ格納庫の中で響き始める。
アテネさんと隊長さんが乗り込むゴールデンイーグルだ。比較的高いバイパス比から生み出されるドロドロしたエンジン音が響き、低バイパス比の私と共鳴するように響く。
「イーグル、行けるか?」
「いつでも」
「5分待ってくれ」
そこまで言われたところで無線から声が抜ける。離陸前チェックに入ったようだった。
「イーグルさん、動翼チェックお願いします」
「了解」
整備士さんが前に立ち、右手を下に下げる。
右エルロン、ダウン。
右手が上げられると、今度は反対方向にエルロン動作。
続いてぴょこぴょこと連続で動作させる。
尾翼、右、左。異常なし。
上、下。異常なし。
グッと前にサムズアップを突き出すと、整備士さんも同じようにして返してきた。
離陸準備完了。あとはアテネさんがフライトチェックインをして、ランナップ。
「イーグル、行けるぞ」
格納庫から出てきたゴールデンイーグルのキャノピーの中でアテネさんが手を振った。
前進するゴールデンイーグルを追いかけるようにパーキングブレーキを解除して、ホイールを回転させる。
3度首を振って曲がり、滑走路にランナップ。
広すぎるくらいの滑走路がアイドルのステージのように光り輝き、私を出迎えた。
エンジンをマックスまで叩き込み、パワーチェック。
「イーグルフライト、クリアードフォーテイクオフ」
ゴールデンイーグルがブレーキから解き放たれるように飛び出る。
追いかけるように加速。
加速度の違いで私は遅れそうになるが、上昇スピードでは十分に間に合った。南の海に飛び出すように雲を飛びぬけると、エアブレーキを展開し背中を地面に向けてエルロンロール。速度の速い私は、出力を引いて、ゴールデンイーグルと足並みを合わせる。
雲空を突き抜けた後、北東に上昇した。
「イーグル最初の給油だ。次は宇宙ゴミをレーダーサイトが捕捉してからになる」
「ラジャー。ホース降ろしてください」
僅かに欠けた月が反射する光が、雲海の上に並び立つ2機に注ぎ込む。
ゴールデンイーグルの右翼からスルスルとホースが降りたつと、プロープに接続された固定具が伸び、私の左翼にある給油口に差し込まれた。
本来ならF15(ワタシ)は、フライングブームという給油機が棒を伸ばして、受油機が給油口に接続する仕組みだ。けれど、バディ給油ポッドは米海軍が採用しているプロープアンドドローグ方式で設計されているため、接続できない。そこで技術本部が至急で開発したのが、ドローグ用のアダプターと、私側のプロープ代わりの給油口。わざわざ私サイズのものを3Dプリンタで作った特注品はC2からバディ給油ポッドに移植されていた。
「イーグル編隊へ。敵位置は貴隊から240(ツーフォーゼロ)、2.6ノーティカルマイル(5㎞)の同高度。ヘディングはサウス、速度が50ノッツ。徐々に減速している。レーダーではこれ以上捕捉できない」
「イーグル1了解。データリンクで最後の位置を送ってくれ」
那覇から飛行し空中で警戒していた早期警戒機より無線が入る。
この月明かりの中、たった2.6NMの位置に宇宙ゴミが浮いているということに驚いて思わず、雲の周りを見回してしまう。
「よし、イーグル。給油終了だ・・・イーグル?」
「あ、はい!」
綺麗な雲海を見回していた私は、アテネさんに声を掛けられていることに気づかなかった。訝しむように彼が私の名前を呼んだ時、ようやく気が付き返答する。
「しっかりしてくれよ。装備は実弾を搭載してるんだから」
「分かってます」
隊長さんがアテネさんに代わり無線に声を上げた。
「確認してくれ。装備は?」
「サイドワインダーが2本に、ガンの残弾が100発あります」
「気を付けることは?」
出発する前に耳が痛くなるぐらいに言い聞かされた言葉を口ずさむ。
「任務優先、じこるな、早まるな!」
「よし、空域に進入する。敵は空中で停止して、レーダーには映らない。戦法は、イーグルのガンを撃って歌が止んだところでミサイル。オーケー?」
「大丈夫です」アテネさんが力強く答える。
「了解です!」私も少し遅れて声を上げた。
編隊を密集させて速度を落とし、敵がレーダーから外れた空域に進入した。
相手は完全に速度を落とし空中停止していると思われ、射撃は難しい。
呼吸が早まり、視界が狭くなる。
深呼吸1回。2回。
落ち着いた。一度リセットされた呼吸は緩やかになり、自然と視界が元に戻った。
雲海の端、月明かりの方向に向かったところに小さなドットが映る。
「タリホー」
さぁ、やるぞ。




