偵察へ発進
格納庫の中に設営されたプレハブ小屋の中に駆け込む。入った瞬間、イーグルが振り向いてくるが今はそれよりも追加の情報が欲しかった。
「すみません。隊長、遅れました」
電話に出ていた隊長が遅れて、奥から応接セットまで出てくる。
テレビには宮古空港のリアルタイムの中継映像が映っていた。滑走路の真ん中から煙が出ていて、火が機体の燃料に延焼しないように液体消火剤の泡が消防車から放射され、機体全体に降り積もる。
「いい、許容範囲内だ」
テレビの画面をチラ見した隊長は資料をコピーした紙を机の上に置き、開いているソファに座り込んだ。
「宮古の着陸事故ですよね」
「そう、呼び出したのは宮古空港の航空機事故が原因だ」
そこまで言ったところで、隊長は再び電話に立つ。
隊長が事故をここまで大きく扱うということは何処かが引っかかった時だけ。今回は何処が引っかかったのだろうか、隣にちょこんと座っていたイーグルに聞く。
「なぁ、イーグル。隊長はどこがひっかかってるんだ?」
「1年前、アテネさんが宇宙ゴミをインターセプトしたときのこと、覚えてますか」
「俺が気絶した時のことか」
そこまで聞いたところで考え込む。俺は気絶した当時の事を全く覚えていないんだよな。飛行中の記憶は薄れていて、雲まで燃え盛る宇宙ゴミを追いかけた時から、那覇基地の上空まで、記憶が飛んでいる。飛行中に宮古島まで降下して旋回したことも、高度を下げたことも覚えていない。
思い出そうとしても靄が掛ったように記憶にベールがかかる。
麦茶をポットからコップに入れた三尉が右前に座り、4人分のコップを並べた。
「前の事と、今回の事が繋がっているんですか?」
「それがよく分かっていないんです、でももしかしたらって」
そこまでイーグルが話したところでコップに口をつける。
麦茶が喉を過ぎると冷たい感覚が舌に残った。テレビに視線を向けると残骸は消火されたようだった。火が静まり、中継映像からは救急車のサイレンの音が印象的に残る。
そうか、俺が気を失った時の記憶がないのと、唐突に応答が途絶した今回の事故。本当に少しだけ繋がりがあったとしたら、何か見つかるかもしれない。
考えが至った時、隊長の事を改めてすごいと思った。場所しか最初につながる場所はなかったのに、いくら印象的だったとはいえ、一つの事案と繋ぎあえるのかもしれないと想像をつけるのは並の人ではなかった。イーグルのように、当事者であれば、より引っかかる点もあったんだろう。
手の中にコップの汗が残った。両手を擦り合わせると、水は広がり肌に馴染んでいく。
「アテネ!TA50発進用意だ。戦術偵察ポッドを搭載する」
「ラジャー」
隊長が電話を置いて話しかけてくる。TA50は特殊飛行班の機材。単座化などが予定に入っているが昨日の今日で改修に入るわけではなく、当分は下地島に置いてあることになっていたが、それが早速活躍することになるようだ。部屋の角にあるロッカーに向かい、扉を開ける。
片手で中に置いてあった装具に手を伸ばしつつ、もう片方はプレハブ小屋の内線のボタンを押し込み受話器を持ち上げる。
「何です?」
「TA50発進、装備は戦術偵察ポッド」
「了解」
整備士が格納庫の電話を取ると、すぐに発進の用意と搭載物の伝達を進めていく。整備の要綱、搭載燃料、帰還時の整備要望などを話す。
すぐさま整備士が格納庫の反対方向にあるプレハブ小屋から出てきてトーイングカーを操作し、奥に置いてある偵察ポッドを引っ張り始めた。
マスクとホースをロッカーの扉の内側に引っ掛けながら、フライトスーツを着込み、対Gスーツを装着する。電話を終えた隊長もフライトスーツの上に対Gスーツを装着し始める。
ジィーッ。
救命胴衣のジッパーを上げて、首を回す。マスクとヘルメットの片頬の接続をつけて、手に持った。
手袋をはめて、確かめるように手を握りしめ開くと、ジンワリと手に血液が広がる感覚がする。ヘルメットを脇に抱えるとプレハブを出て、TA50に駆け寄った。
「持ち越し整備はなし、各部点検は終了。燃料の積み込みも終了しています、搭載兵装は偵察ポッド、サイドワインダー」
「OK、サイン」
機材ごとに用意される書類を手渡されながら、一通り目を通し整備士から鉛筆を借り、機長としてサインする。
サインを終えると、機体を回りながら胴体センターパイロンに搭載された偵察ポッドを確かめた。翼端に設置されたサイドワインダーから安全ピンを引き抜いて、武装管理の整備士に手渡しこちらも確認。コクピットに乗り込むと、隊長が既に乗り込みフライト前チェックを始めている。
機付き整備士が前に立ち、エンジンスタートの印である握りこぶしを上げ、それに応答するようにエンジンがスタートする。モニターが立ち上がり、INSを入力、マップが表示された。
グラウンド無線に声が入り、各部チェックを済ました整備士達からの報告を耳に入れ、スロットルを少しずつ押し出す。
「エンジン温度」
「チェック」
エンジンは燃焼を直に受けるため温度が上がるが、それでも融点には追い付かない。
「パワーチェック」
「50」
スロットルを引き、アイドルへ。
「アイドル」
「アイドル」
そこまで繋いだところで外回りをチェックし終えた整備士がグラウンド無線を外した。
敬礼しながら、パーキングブレーキを解除し前進。頭がガクッと引っ張られように上下し、下げていたバイザーに太陽の光が差し込む。
「イーグル1、オーダーテイクオフ」
「ディスイズ、下地島タワー。テイクオフ、オーザレイション。ウィンド、330(スリースリーゼロ)、5ノッツ。イーグル1、クリアードフォーランナップ、ランウェイ17」
「ラジャー、クリアードフォーランナップ。行け、風見」
「ラジャー」
誘導路から頭を振るようにランウェイに進入したゴールデンイーグルは頭をもう一度左に振った後、ガクンとつんのめるように停止した。
「マックスパワーチェック」
ドロドロしたエンジン音が跳ね上がり、タービンの音が高回転になっていく。高ぶる鼓動と共に出力がマックスになる。スロットルを引いて出力を下げると応答するようにタービンの音が落ち着いた。
「イーグル1、クリアードフォーテイクオフ」
「クリアードフォーテイクオフ」
隊長が応答するとともに一気にスロットルを押し込み、ブレーキ解除。跳ぶように跳ねた計器の針を視界の端に入れながら、滑走路のラインを視線の上に押し込み、追い風に合わせて機体は滑走路で加速する。
速度が上がると機首が下を向くようなモーメントを起こすが、ゆっくりと操縦桿を引く。F15のように力で抑え込む必要のない、安定した離陸。一気に地面を離れた。
「アテネ、ヘディング120、高速で宮古空港を横断して、そこでライトターン、そのまま高度を5000mまで上昇させろ」
「ラジャー」
レフトターンして伊良部島から宮古島に伸びる橋を視界に入れながら加速。レフトターンして徐々に高度を上げて海を越える。3000mでライトターンして橋を機首の下に飲み込むように巡航し、煙の後を頼りに宮古空港を横断するように飛行する。
「ターゲットインサイト、現場写真一枚撮る」
そう言うと、隊長はモニターを睨み。後部座席のトリガーを引く。
戦術偵察ポッド内に搭載されているデジタルカメラのシャッターが切られ、墜落した機体とその周りの画像が一気に何枚も画像が取られた後、合成され一枚の大きな画像に変換されLink16に送信された。
操縦桿をやんわりと引き、高度を上昇させ始める。




