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イグ恋!-愛機のF-15が美人になっていてー  作者: 室内あるみ
第四話「結成!特殊飛行班」
40/50

その時イーグルは

 お昼のおにぎりを食べていると、隊長さんが電話に出て大声を出しました。

 続いて、隊長さんがテレビをつけろと言ったのでプレハブ小屋につけたばかりのテレビの電源を入れると、すぐそこにある宮古島の映像が映り、宮古空港で事故という字幕が。

 急いでチャンネルを切り替えてもどの番組もお昼のニュースの途中にその情報を知らせ始めました。

 隊長さんが電話を掛けながら、私にこう言います。

「イーグルちゃん、一年前、星が落ちた日を覚えてるかい?」

「覚えています」

「あの時の書類がそこの段ボールに入ってるはずなんだ、出してくれ」

「了解です」

 私は咄嗟に自分の記憶を思い出し、声を上げそうになります。

 一年前、星が落ちた日。間違いないです。宇宙ゴミが落ちてきた日、アテネさんが気絶し、私が意思を持った日でした。

 その時の記憶は朧気です。私も守ることに必死で一杯一杯。ただアテネさんを救うために操縦を請け負った時、それが宮古島、それも宮古空港の上空なのでした。

 書類を取り出すと「事案報告書」というお堅い文面が彩る綴じられた書類が出てきました。何時の間にか電話をかけ終えた隊長さんは、その書類を手に取ると、プレハブ小屋の入口側にあるソファに腰を下ろし、タバコを吸います。

「ふーっ、おっと失礼」

「気にしなくていいですよ?」

 私は特には気にしていません。最近では喫煙に白い眼を向けられると言いますが、個人的にタバコを格好よく吸う男性は嫌いではありません。普段情けない上に下ネタを喋るコブラさんも、タバコを吸っている間は顔相応のイケメンでした。

 タバコを咥えたまま、書類を捲る隊長さんは綴りをこちらに見せてきました。

「これ、イーグルちゃんが意思を持った時の飛行図だ」

 差し出された資料には正確な時間とフライトレコーダーの記録が書かれています。題名には「パイロット気絶時の099号機の進路」と書かれています。

 宮古空港の航空路を締め切ったうえで宇宙ゴミを宮古空港の上空でインターセプト、雲に入って見失いかけたところで編隊二番機であるアテネさんが気流に飲まれて気絶。ここまでは私にも記憶はありません。けれどその後の那覇基地の方にINSを見ずに宮古島上空すぐまで降下し、蛇行して那覇基地に向かった進路は私がコントロールを奪って操縦した進路に間違いありませんでした。

「覚えてます、アテネさんが気絶した後、この島の上空まで降りて北北西に進路を変えましたから」

 そう言って私はテレビに映し出されている宮古島の写真を指差します。

「やっぱりかぁ、関連はあるかなー」タバコを思い切り吹かしながら隊長さんが呟きます。

 関連がある。誰が聞いても今の流れではこのニュースと宇宙ゴミの関連です。宇宙ゴミは雲に入ってからは海に落ちただろうと仮定されて放置されています。当然海には重力に逆らうこともできず落ちているはずですが、そのあたりはどうなのでしょう。

「落ちたところを誰も確認していないということは落ちていないと同義だ」

 すっぱりと言い放ってしまう隊長さん。

「でも正直関連はないんじゃないんですかね」

「そうだよなぁ」

 コーヒーを飲みながら隊長さんはソファに崩れました。

 カフェラテの缶を持ち上げ、プルタブを捻ります。口に甘ったるい味が広がり息が漏れ出しました。

 ニュースでは、ネットの情報から事故機が無線に応答せず無言のまま着陸ミスしたと速報が入りました。

 飛行機では離着陸時が一番危険で事故が多いので、着陸ミスというのは珍しくありません。けれど私にとっては一つの情報が喉に突っかかりました。それは「無線に応答しなくなった」というところ。隊長さんの宇宙ゴミとの関連で突っかかったのです。もし、この応答しなかったのがアテネさんのように何の原因もない唐突な気絶が原因だったとしたら。

「隊長さん!この宮古空港のパイロットさんと乗客の方の情報を得られますか!」

「ん、分かった。俺も引っかかったところだ」

 隊長さんは業務用電話の方に歩いていきます。

「もし、この事故と1年前の宇宙ゴミが繋がっていた場合、私が生まれた原因が分かるかもしれません」

 カンカンを放り投げると甲高い音を鳴らしながらプレハブ小屋の角にあるゴミ箱のインしました。

「イーグルちゃんの生まれた原因ねー。まぁそれはいいんだけれど」

「え?」

 思わず聞き返してしまいます。

 ちょっとした空白の後、隊長さんはポツリと漏らしました。それはいいって何だろう。なんだかモヤモヤする。私だって気にしているわけではないけれどもっと大事なことがあるのでしょうか。

「もっと重要なのは事故を起こした原因を解決できるかだよ。現状イーグルちゃんは戻れないというのが現実的な見方と解析結果だ」

「確かに、これ以上同じ事故が広がるのも困りますね」

 そうしてすぐに納得します。結局一番大事なのは国民です。それは間違っていませんし、元々自分の意思がなく国民の血税の塊である私は、その考え方をすぐに受け入れることが出来ました。隊長さんは国や国民を守ることの方が、ただ一人の飛行機である私よりも大事だというのは普通の感覚を持っている人ならちょっと敬遠したい考え方です。けれど、そちらの方が自衛官としての考え方に為っていました。確かに仲間の信頼も大事ですが、それより任務の遂行を重視する必要もある時にはあるのです。

 格納庫の外から車がブレーキをかけて止まる音が聞こえました。

「すみません遅れました!」

 扉が開けるとともに、聞きなれた声が響きます。思わず背筋が跳ね、扉の方向を向いて立ち上がりました。

 アテネさんと一ノ瀬三尉が事故の一報から遅れること1分でやってきました。すぐさま特殊飛行班の間で会議が始まります。

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