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イグ恋!-愛機のF-15が美人になっていてー  作者: 室内あるみ
第四話「結成!特殊飛行班」
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荷物を運ぼう

 先ほどまでイーグルと通っていた道を反対側に三尉を乗せて走っていく。

 下地島から伊良部島までを結ぶ橋の入口まで行くと車を止めて、三尉は車道脇の木々に荷台から監視カメラを取り出して固定する。

 その固定作業を手伝いながらも、汗をタオルで拭く。

 蝉がうるさいほどに鳴く中、新しいタオルを軽トラから持ち出して木々の上に居た三尉に投げた。

「ほい、一ノ瀬三尉!」

「わっ・・・どうも」

 何だか三尉が今日は一段と不機嫌な気がする。なんだか木々の上でさっきみたいに落ち込んだ顔を時々浮かべている。でも下手に口出しするとそれこそセクハラになりかねないし、と声を上げる意思を留めていた。そんな落ち込まれるようなこと、俺したかな?

 かなり不安になりながらも、木から降りてきた三尉に手を貸す。

 作業ブーツのまま足を俺の手に当ててきた三尉の足場になるようにゆっくりと下に下げると、器用にも体重を木に掛けながらも、体を下に移動させた三尉がトンと立つ。

 監視カメラももう5台は取り付けた。荷台の上にはもう在庫はなく、これでおしまいなのだろう。

 それでもこんな地方の空港の入口に5台は置きすぎな気もするが。

 さっさと軽トラに乗り込む三尉を追いかけるように運転席に乗り込むが、その間も三尉が不機嫌な理由が分からない、本当に何もやらかしてないよ・・・な?

「あの、風見三尉」

 ハンドルを握ると三尉の方から話しかけてきたので、思わず背中をびっくりさせてしまう。

「さっきから随分ビクビクしてるようですが」

「い、いやなんでもないぞ?」

「まぁいいですけれど。もし私を心配してそんな表情カオしてるなら取り消してください、不愉快です」

 むッと来るが飲み込む。ここで言い返してたらキリがない。不機嫌な顔をしているぐらいだから虫の居所が悪いのだろう。俺が下手に出ればいい。そうすれば言い合いにはならないはず。

「よし、帰るか!」

 雰囲気が最悪になった車内の空気をぶち壊すように元気な声を上げて、サイドブレーキを引いて、方向転換する。

「なんでこんな顔してるか、聞かないんですか?」

 あぁ、もう面倒くさい!

 聞いてほしくないからさっき挑発してきたんだろ、なんでわざわざ喧嘩を売ってくるのだろうか。買うのを待っているのだとしたら、絶対乗らないぞ。

「聞いてほしくないんだろ、なら聞かない。話して楽になるなら、聞いてやらんでもない」

 もうハッキリと自分のスタンスを話してその話題を切ろうとした時、彼女の暗い顔がまた一段と暗くなったような気がした。思わずサイドブレーキを踏んで、止めてしまう。

「どうされました?」

「い、いやなんでもない」

 サイドブレーキ解除、再び走り出すが、軽トラは初めて坂道発進をした仮免ドライバーの運転のように止まってしまう。それはもう情けない。車内の空気が再び静かになった。

「そこまで露骨に反応します?」

 静かになった車内に唐突に吹き出す声が聞こえる。そして続く笑い声。

 三尉が笑ったようだった。ステアリングで曲がっている中、肩をバシバシと叩かれる。

「わ、悪いかよ!」

「悪くはないですけど、やっぱり馬鹿ですね貴方」

「やっぱり馬鹿ってなんだよ」

 なんでそんな喧嘩腰なんだよと笑いながらも普段の姿勢を崩さないどころか普段通りの姿勢に戻った三尉の様子にホッとしながらも、ハンドルを切り空港への入口に止まる。

 このまま話題も終わってくれよ、こんな雰囲気、俺は嫌だよ二度と。

「よし、次、寮へ荷物を運びますよ?」

 そう言った三尉は格納庫に指を向ける。格納庫は扉が開いていて、中に止めろということらしかった。

 タオルを顔の辺りまで持ち上げながらも、すぐに車を止めて扉を開ける。

 汗がにじむ中、荷物を一つずつ持ち上げて軽トラの荷台に乗せていく。軽いものは荷台の上で待っている三尉に手渡すが、ほとんどの大きな荷物を手前に載せて固定を後回しにする。

 手持ち無沙汰になった三尉がこちらを振り返ってくるが、無視。さっき、俺を笑った罰だ、そこで罪悪感に押しつぶされてろ。

「家具は、後回しでよかったな!」

 自分の分のボストンバックを持って車内に積むと、中に用意しておいたロープを手に持つ。

 車の座席に腹を押し当てるように力を込めながら、三尉に確認すると彼女は荷台から降りて、俺のケツを思い切りよく叩いた。

パチーン!

「いてっ」

「さっきから荷物持たせないようにしませんでしたか?」

「そんなことしてないよー」棒読みな声で淡々と読み上げた文章ぐらいに味の薄い返答をすると、彼女は不機嫌そうな顔をせず、いつも通りなテンションで再び叩いた。

パチーン!

 作業中の整備士達が何事かと振り返ってくるが、何ともない。ただそこに軽トラとその運転席に潜り込んでいる俺、そしてその後ろに立っている三尉しかそこには存在しないのだ。

「何すんですか」

「風見三尉、キャリーケースぐらい自分で持てますから」

「女子にモノ持たせてるとそれはそれで面倒、なので!」

 そこまで言いながら、ようやくロープが解け運転席のシートから身を持ち上げる。

 そんなに文句があるなら自分で動かそうとすればいいのだ。そうまでするつもりがないから、そうしないだけじゃないかという言葉を飲み込み、荷台に回る。

 横に置いたトランクケースと段ボール箱を並べ、中心部が山になるように積んでロープで固定した。ブルーシートを掛け、紐を結ぶと、既に三尉は乗り込んでいる。

「一ノ瀬三尉は仕事ないんですか?」

「まだ取り掛かれないだけです」

 車を出しながらそう問いかけると、蠅のようにピシャリと叩き落される。

 返答しながら口を引きつりそうになっても運転する腕は止めず、門を出た。

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