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イグ恋!-愛機のF-15が美人になっていてー  作者: 室内あるみ
第四話「結成!特殊飛行班」
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軽トラ借りて下地島へ

 テーブルの上へ、水で締められたばかりの冷たい蕎麦が乗せられた皿が置かれる。汁を割ってそれぞれの器に入れている間に里さんは天ぷらを揚げていた。

 ガスコンロで熱せれられた油が跳ねる音が耳に心地よく響き、その音は本来熱い音にも関わらず、窓際にかかった風鈴の音と相まって夏の間の気持ちが良い「涼」を感じさせる。

 蝉が鳴く中、蕎麦をズズズッっと音を鳴らしながら啜ると、出汁の鰹節と昆布の旨味が効いた味に喉が震える。

「うーん、美味しい!」

 頬に手を当て喜ぶイーグルを横目に俺もただひたすらに蕎麦を食べている。

 油の跳ねる音が収まり、廊下を歩く足音を聞いて振り向くと、天ぷらの乗った皿を持った里さんがお茶と一緒に持ってきた。

「イーグルちゃん、ドンドン食べなさいよー」

「あ、天ぷらありがとうございます!」

「ありがとうございます」

「いーえー」

 里さんに礼を言いながら、コップを手渡すとキンキンに冷えた麦茶が氷の入ったガラスコップに流れ込んでいく。

「こんな暑い中、下地島の方を歩いてきたんでしょう?しっかり食べて元気になりんさい」

「いやー、本当に今日暑いですねぇ」

「ホントねぇ、でもイーグルちゃんぐらい若ければ、瑞々しさで補いきれるんじゃないかしら」

「そんなこと言う里婆ちゃんも瑞々しいですよ!」

「お上手ねぇ、あら風見さん、皿が開いてるわ。まだ蕎麦いるかしら?」

「いえ、お気使いなく」

 箸を置き、手を合わせ、ごちそうさまと呟くと腹の中がいっぱいになる幸せな気持ちがした。

 イーグルはお代わりを頼むが、流石に俺はそんな余裕がなかった。

 腹に手を置き、窓のすぐそばに体を持っていくとほぼ真上にある太陽の光が僅かに差し込んできて、丁度良い暖かさだ。お茶を飲み干すと、里さんに持ってきてもらった軽トラの鍵を手の中で弄びながら窓の外を眺める。

 風を浴びて風鈴が、リン、リンリンとあまり聞きなれない、けれどどこか聞き覚えのある音を鳴らす。

 ほとんど吹かないぐらい暖かな天気だったけれど、時々海の方から吹いてくる風で風鈴は揺れた。

 軽トラの鍵を指で振り回しているとようやくイーグルも食べ終えたのか、立ち上がってスニーカーを履いている。

「行きますよーアテネさん」

「おう、今行く」

 庭に置いてある軽トラに向かって先に歩いて行ったイーグルに手を振り返すと、片づけをしていた里さんに声を掛ける。

「それじゃ、今から軽トラ借ります。帰りは五時くらいになると思いますんで。お蕎麦と天ぷらごちそうさまでした」

「いーえー行ってらっしゃい」

 窓際からそのまま靴を履いて立ち上がると、再び上から日光が当たる。暑さに辟易しながらも、軽トラに乗り込みエンジンを掛けた。

 運転席に座って袖を捲って、ハンドルを握る。イーグルは隣に座るなり、シートベルトをつけてカーナビを触り始めた。

「しもじーしまっと、あ、出た出た。島の外周から出て橋の入口からいけばいいみたいですね」

「行きと違って快適だなぁ」

 思わず運転しながら惚けてしまう。軽トラだから、冷房は付いていないがそれでも日陰になるかどうかで大きな違いだった。なにより直射日光ではないというのが最高な点だ。

 島の外周まで出ると海からの吹きあがる風が車内に入ってくる。

「あぁー歩いた後の冷房がガンガンに効いたタクシーってのも罪ですが、こうやって気持ちのいいドライブってのも冒涜的ですねー」

「罪じゃない、あれは当然の対価」

 軽口を交わしながらも道を進み橋に差し掛かると、行きは地獄で延々と続くと思えた道もあっという間に通り過ぎている。

 橋を越えると森に囲まれた道が出てきて、その中を通っていく。

「なぁーイーグル?」

「なんですかぁ」

 ハンドルを曲げながら声を上げると、窓際に溶けたイーグルが声も溶けさせて応えた。

「まださ、お前が人間になってから五日もたっていないのにさ、なんか大変だよな。ごめん」

「なんでアテネさんが謝るんですか」

 ジトーと湿りに湿った視線でイーグルは隣から睨んでくる。

「俺が謝らないと誰が謝るんだって話だからよ」

「そこは素直に、お前を守るのが俺の仕事だからよってぐらいに格好つけてくださいよーっ」

「恰好つけろ、って」

 なんじゃそりゃ。それ恰好つけるというのだろうかとふと疑問に思う。確かにイーグルを守るのが俺の仕事ではあるが、それを俺の仕事だとまで言って恰好をつける必要はあるのか?そんな大言壮語しても、恰好が付くとは思えなかった。それこそそんなセリフを吐かせるなら、もっとイケメンなハリウッド俳優でもないと似合わないだろう。よく言ってチンピラ止まりの俺では少々無理がある。

 自分なりの恰好つける仕草なのか、長い髪の毛をファサっと手で振り回してイーグルが睨んでいたと思ったら今度は隣からシートベルトをつけたまま乗り出してきた。

「アテネさんって時々カッコいいけど、普段は何とも言えないんですよね」

「それぐらいでいいんだよ」

 恰好つけなくていい。カッコいいってのは他の人が決めることだ。自分で決めることほどカッコ悪いことはない。恰好はそれこそ珍しくつくぐらいがいいのだ。普段ないモノの方がある時に価値が上がる。出し惜しみもしてはいけないが、無理に絞り出すのも情けない。

「えー、アテネさんの格好いいとこ見てみたい」

「そんな飲み会のノリで言われてもなぁ」

 よくある、一気飲みのコールみたいなノリで言われてもイマイチやろうと言う気が起きない。イーグルがその黒髪を揺らして熱弁するがピンと来ないまま下地島空港まで車が着いてしまった。

 軽トラを第一格納庫に横付けすると、車から降りる。イーグルは整備士たちに呼び出されて格納庫の中に入っていく。

 結局話そうと思っていたことを喋れなかったと後悔するが、すぐに呼び出されたことでそのことも忘れてしまう。

 続いて、格納庫の中に入っていった俺を呼び出したのは三尉。警備の面を見るため着いてきてほしいということだった。

「遅いですよ、風見三尉」

「すまん一ノ瀬三尉。飯食ってたら時間食ってた」

 頭をかきながらも、車が必要だと言われて軽トラに戻る。運転席のドアを開けた。

「美味いこと言ったつもりですか?」

「ん?俺なんか間違えたこと言ったか?」

 エンジンを掛けながら振り返る。俺本当に何か間違ったこと言ったか?

「無自覚ですか、これはいいオッサンになりそうです」

 隣に座った三尉がため息をつきながらそう言い放つ。いいオッサンとは一言聞けば誉め言葉のように感じるが、この三尉に限ってそれはないだろう。

 ハンドルを握りなおすと、三尉はエンジンにノッキングのかかった車のように気まずげな顔をしてシートベルトを着ける。

「どうしたんだ、そんな顔して」

「いえ、少し。一日に年頃の娘をとっかえひっかえ助手席に座らせるとはやり手だなと思って」

「軽トラだかんな?ついでに言えば、こんなムードもへったくれもない・・・」

 一体何を悩んでいるのかと思えば、そんなことかよ。確かに、助手席に座らすってそういう関係匂わす表現だけどなんかちょっと古くないか?

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