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イグ恋!-愛機のF-15が美人になっていてー  作者: 室内あるみ
第三話「テイクオフ」
31/50

クリアード

 コクピットに潜り込み、夜間の格納庫照明から光を遮断するためにヘルメットバイザーを下げる。

 バイザーを下まで下ろし切るとマスクの外縁部と繋がるようにヘルメットを固定すると、大きく息をつき、液晶の電源に触れた。

「APU始動、メインシステム異常なし、エンジンスタートします」

「おう」

 後ろに座る隊長が応じると、エンジンスタートのスイッチを押して起動する。タービンの回転数が上がるのを待ちながらスロットルをアイドルの位置に合わせた。メインモニターのスイッチを押して航路と天気を確認する。

 天気晴天、今日の月齢は満月。明るい中を飛行できるようでなんだか安心した。

「C2が離陸してからイーグルの撮影をしつつ上がります、でよかったですよね」

「おうカメラは任しとけ」

 エンジン出力がアイドルまで追い込まれると熱風がハンガーの奥の開放扉に吹き付けられる。グッとラダーを踏み込んでパーキングブレーキを解除すると頭が一瞬だけつんのめった。滑走路に向かうC2の後ろをイーグルが一番機のポジション、俺が二番機のポジションでランナップする。

 今日の月齢は満月。真ん丸大きなお月様が、風の良く吹く空に雲一つなく浮いている。こんな日は星も綺麗だ。少し上を向く射出座席は誘導路に出るとさながらプラネタリウムの中、思わず息を飲む。誘導灯が薄く光る中、まずはC2が離陸する。離陸管制もC2の中に臨時で設けられた前線指揮所から出されるため、隊長の合図を待つ。

 斜め前を見ると、イーグルが機械を身に纏った状態で足の裏のローラーで誘導路を走る。

「ホールド」

「イーグル、ホールド」

「はい!」

 滑走路前まで出ると、滑走路の誘導灯が眩しいぐらいに目に突き刺さる。誘導路の薄い光が嘘みたいにライトが爛々と輝く。

 声を掛けると無線を耳に差し込んでいるイーグルの背が弾けるように跳ね、急ブレーキがかかる。俺はゆっくりとスティックについているブレーキを押し込み一旦ブレーキをかけつつ、操縦桿を押す。

「マックスパワーチェック」

 隊長の合図に反応してスロットルを押し込むとドロドロしたターボファンの音が更に重低音を鳴り響かす。イーグルの背中のノズルが長く青いバーナーの炎を出した。

「ランナップ、クリアードテイクオフ」

 ブレーキを解除し、ラダーを右にけって滑走路17に進入する。そして、一呼吸置いてから、全体をトレースする。滑走路は見た限りクリア、進路上に障害物なし。モニターのスイッチで切り替えてレーダーをチェック、ブルー表示が2機。レーダースケールを大きくしてサーチする。鳥もいない。行ける。

「イーグル、行けるか?」

「チェック終了しました、いつでも行けます」

「よし5カウントでアフターバーナーオン」

「「ラジャー」」

 3秒数えたところでブレーキを引っ張ったまま、スロットルを押し込む。アイドルからマックスパワー。エンジンが先走るように機体を前に押すが、イーグルが中々スタートしない。

 機体が飛び出す。そう思った瞬間、イーグルがアフターバーナーの青い炎を伸ばし、出力比例でF15と同等の数値を出したパワーで一気に加速する。

 イーグルの重さと出力重量比で出た加速度はとてつもなく、あっという間に離陸するが、F404エンジンの加速度も同じくらいで同時に地面から飛び上がった。

「ローテート、V2。イーグルの出力重量比は変わっていると」

 隊長がカメラを片手に声を出す。エンジン音でカメラには入らないが声に出すことで記憶しようとしているのだ。

 イーグルの出力重量比はとんでもなく、離陸滑走距離は恐ろしいほどに短い。人の重さをターボプロップで持ち上げるようなものと言えば早いだろうか。そんな化け物のような離陸の速さで飛び立ったイーグルはローラーを脚部に仕舞うと、腰部のフラップを仕舞い上昇を続ける。その勢いはF404のTA50だから何とか追いつけるといった具合だ。

「アテネさん、C2が見えました」

「俺も見えてる。イーグルのレーダー反射がえらく低いな。ステルス機並みだ」

 サイドスティックを操作した。モニターの表示を変え、レーダーモードを単機照射に切り替えて、イーグルをロックする。

 イーグルの表示スケールはほぼ鳥の群れを追っているようなぐらいで、高速域で飛んでいなければそこにイーグルがいるとは思えないほどだ。本当にサイズはイーグルの体程度しかないらしい。オカルトに有り気な影がF15のままというわけもなく、本当に飛んでいる人をロックしたみたいにしか感じなかった。

「本当だ、C2、レーダー反射数値も残しておいてくれ」

「ラジャー」

 TA50から送られる各種数値は随時C2に記録される、その仕組みはLink16を利用した自衛隊機含め西側のデータリンクの秘密回線を使った形だ。TA50からの操作は特定の回線にデータを送信するというプログラムを実行するだけ。簡単で恐ろしいぐらいだが、元の099号機もJMSIP(日本のF15Jの改修のこと)機としてデータリンクも実装されていて飛行データは直接イーグルから吸い出している。

「ダンパー26に乗るまでイーグルちゃんはC2の下に潜り込んで取れるだけの機動を取ってみてくれ」

「了解です!」

 隊長の言葉に元気よく答えたイーグルは跳ねるように体を前に倒すと、機械のノズルがカメラレンズのように一気に絞り込まれる。

 操縦桿を倒してC2の前に潜り込む。事前ブリーフィングでは秘密にするためになるべく各機を接近させると聞いたけれど、TA50の胴体サイズならそこまで難しくないな。

 もっと大変なのは初めての体で飛ばなければならないイーグルだ。そもそも人型で飛ぶという理論が作られていない以上操作方法はイーグルに一任されているがそれが難しい。物理学的にはじき出すのも大変だろうし、そんな時間もなかった。だが、こうしてイーグルはぶっつけ本番で飛ばして見せた。それは他ならない彼女が飛行機であるという証明だろう。

 イーグルがC2の白い腹に添いかうように飛行する。その姿は鯨に寄生するコバンザメのようだ。それを追いかけて、後ろから輸送機のランプドアに機首を接近させた。

「ダンパー26に乗りました。TA50は離脱して後ろからイーグルの飛行をチェイスしてください」

 C2に乗っている管制の声に合わせてサイドスティックを手前に寄せて機首を上にあげる。垂直旋回の要領で距離を取り始めたTA50はC2の作った気流から離脱した。月明かりが差す中、バイザーを上げて空を見上げると星が綺麗にキャノピーに映り、流れていく。

「星が、綺麗」

 イーグルが無線に呟く。思わず相槌を打ち、息を吐いてしまう。スイッチを押していないので無線には声を拾われないが、なんだか恥ずかしくなってヘルメットの位置を確かめるように触る。

「アテネさん、星が綺麗ですよ!」

 能天気にC2の腹の下から後ろに移ったイーグルが確かめるように無線に声を入れた。返答をいれようと思ったけれど、なんて言えばいいのか一瞬では思いつかなくて。

 無線のスイッチを2回クリックする。

「ジジーッジ」

 無線の途切れる音が鳴り、耳障りな音が流れる。ジッパーコマンドと呼ばれる返答方法だ。俺はこれをよく使う。最初はイーグルドライバー1年生だった頃の教導飛行隊アグレッサーとのACMの時、タッグを組んでいたパイロットが先にやられた報告をした時に返答するのが面倒になり、ジッパーコマンドで返答を済ましてしまった。ジッパーコマンドは乱暴な印象があり少なくとも新人がやることではなかった。おかげさまで今でもコブラ以外の先輩とは若干距離が開いている。悪いのは俺だが、過剰反応した先輩たちも先輩たちでどうも今更仲良くするという気にはならないらしい。一ノ瀬三尉がパイロットを面倒くさいと言うのはそういうところも含まれているのだ。

 イーグルも怒ると思っていたが、彼女は無線で唐突に笑い出した。

「あーてーねさん!それ、やったせいで先輩たちと上手く行ってないって言ったやつじゃないですか!」

「なんで知ってる!」

 いや本当に!しかも隊長のいる前でうまく行ってないなんてことを暴露するなよ、隠し通してたんだから!

 俺がイーグルにジッパーコマンドをやったせいで嫌われているなんて言った覚えもないのに。いや、確かに初めてジッパーコマンドした時の乗機、つまりアグレッサーとのACMで乗っていたのは099号機だが、ってそう言えばパイロットの記憶を吸い出してるんだった、こいつの人格形成って。もうやだ。

 動揺して大きな声で返答すると、後ろからの大きな大きな圧力が目に見えるように大きくなっていく。

「アテネ?」

「何でしょうか、ギブリ」

 震え声で返す。隊長の声はおどろおどろしい感じのそれはもう恐ろしい声だった。俺は震えながらも巡航するC-2の後ろを追いかけながら、操縦桿を間違えて引かないように手を離す。

「なんで新人なのに上手く行ってないことを報告しなかった!」

「い、今はどうでもいいじゃないですか!」

 この話題に関しては俺は絶対に分が悪い。もう何を言っても俺が悪くなること確定なのだ。だが、謝るというのも多分隊長の気に障るし・・・張り合いがないって怒られる。じゃあどうするかってこの場だけを乗り切るしかないんだよな。

「どうでもいいことじゃない!そういうのはしっかりと報告しろって新任の時に言っただろ」

「うっ、すみません」

 訂正、しっかり怒られたら平謝りするしかなかった。たかが20数歳の俺が50目前の年季入った、実の父親でもおかしくない年齢の人に怒られては謝るしか道はなかった。その場を乗り切るなんて浅はかな考えすぎてあっという間に否定されてしまった。

「あー、アテネさん怒られたー」

「茶化すな、イーグル!」

「アテネ、仲のいいパイロットの名前、上げてみろ」

 子供が笑うように声を上げたイーグルは茶化す。それを消し去ろうと声を上げたもののそれで話題がすり替わるわけもなく、隊長は追及の口を止めない。

「隊長!今日は実験の方が大事です、この話題は明日の帰り道に!」

「あー逃げたー」

「はぁー、しょうがねぇな。今は見逃してやる。イーグルちゃんに感謝するんだな」

 何を?!あいつ茶化してただけじゃないか。どこが隊長の見逃す基準になったのか理解できなかったが、もう諦めた。それよりもチェイス飛行だ。

「空域到着しました。イーグルさんは今後イーグル2、TA50はイーグル1として。管制の呼称はホエールでお願いします」

「了解!」「コピー」

 イーグルが事前のブリーフィングの通りに一気に加速して空域の端から端まで一気に飛行しようと加速していく。

「アテネ、マックスパワー!」

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