プロローグ3
「これは一体何事だね、アテネ、いいや風見三尉」
窓が一つしかないせまっ苦しい部屋の中、与えられた席に座り、そして上官である防衛部長小牧三佐に詰問されるかのようないいようで言葉をかけられた。
一体何事かだって俺が聞きたいよ。いつもの通りにスタンバイに入ったら乗るはずのイーグルが女の子になってたんだから。どう説明すればいいんだよ。馬鹿正直に彼女は099号機が人に変わったんですとでもいえばいいのか?そんなこと俺が決めることじゃない、それは彼女が話すことで俺が断定することでは決してあり得ない。
防衛部長が談話室の内線の受話器を取り、一言二言かわす。
そして顔を上げると一言こういった。
「お前ー覚えてるか?星が落ちてきた日の事」
脈絡もない言葉だった、けれど俺にとっては確かにわかることで、その一言で記憶が蛇口を捻ったホースに指を当てたように吹き出し始める。
それは1年前、俺がイーグルドライバー1年生をしていたころの事。
大きな宇宙ゴミが地球に落下してきてそれを迎撃しにスクランブルに飛んだ、あの日の事。でもそれと今回のことが関係しているとは全く思えない。防衛部長は何が言いたいのだろう。
「自称099号機が、言ったそうだ。紛れもない1年前、星を迎撃したとき確かに初めて意識を持った、ってな」
「彼女が?!」
「つまりは、だ。彼女は1年実体化するまで格納庫で意識を持っていたことになる。オカルトもオカルト、こんな話聞いたこともない」
「自分もです」
1年前、星の落下で意識を持った。まるで何処かの3分間しか戦えないヒーローのようだ。けれど彼女がそういうって事はそうなんだろう。如何せん彼女以外にこの事態を正確に把握できる人間がこの世に誰一人としていないということが大きな壁になっていた。
彼女を人として扱うのか、それとも備品である099号機として扱うのか。
彼女が人になった原理とは何か、他の機体にも同様のケースが起こりうるのか。
ざっと上げてもこれだけの大きな問題が上がってくる。更にもっと言えば、現実問題的なものとして、いや自衛隊がお役所である証拠としての大きな問題が一つ上がっていた。
それは・・・099号機という自衛隊、ひいては国民の血税である戦闘機が人権を持つであろう人間に代わるという備品損失事件の責任を誰が取るのか、という問題が大きく、大きく、広げられていた。
「風見、命令だ。彼女、いや099号機紛失の責任を取り、彼女の今後の面倒を見ろ」
「はぁ・・・はぁ?!」
そうして俺、風見陸三等空尉は自称099号機の面倒を見ることとなったのである。
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