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イグ恋!-愛機のF-15が美人になっていてー  作者: 室内あるみ
第二話「俺はイーグルドライバー」
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俺はイーグルドライバー

 309の庁舎につくと隊長が共用スペースの紹介を済ませていく。どうも隊長はイーグルの身柄を309で扱うということで上層部とやり取りを進めているらしく、今後も出勤はこの庁舎になるそうだ。

「隊長、俺まだF15乗れるんですかね」

 ずっと不安に思っていたことを聞く。今回のF15紛失事件の責任を取って、なおかつイーグルの面倒を見るのも含めれば最も適当な対処が、俺のライセンス剥奪と飛行停止のどちらか。どちらにしろF15には乗れなくなることには変わりはないので不安になる。実際はなるようにしかならないのだがもし今の時点で結果が出ているのなら是非とも聞いておきたかった。

「あー、降ろされると思ってるのか?」

「はい、器物損失でこれじゃあ反省文じゃすまないと思うんですけど」

 下手したら懲戒免職だってあり得る。国民の血税である戦闘機を仮にも本質的には変わっていないとはいえ人型にした責任は俺にあるのだから。小銃の弾は無くして部隊総出の捜索を行った上で反省文で済むが、戦闘機は規模が違う。懲戒免職でもないにしろ、閑職への左遷なんて十分視野内だった。

「大丈夫だ、お前がパイロットをやめることにはならない。F15にも乗れる予定だ。流石に昨日の今日で訓練に参加させることはできないがな」

 だがそんな心配は吹き飛ばされてしまった。おまけにF15にも乗っていられるという、どういう形であれ乗ることができるというのは大きい。それが例え毎日乗れないということであったとしても、DJの後席だったとしても、だ。

「本当ですか!」

「嘘をつく必要がないだろ?」

「ありがとうございます!」

 イーグルと三尉が他のパイロットたちと顔を合わせているのを離れてみていた時にその話題を振った俺は、感謝の言葉と共に頭を下げていた。

 コブラたちがなんだなんだと覗いてくるのを手でしっしっと手を振りながら、頭を上げると隊長がにっこり一言こう言った。

「まぁイーグルちゃんの面倒を見るのがメインになるとは思うがな」

「それでもです。俺は俺がイーグルドライバーであることに誇りを持っています」

 窓際によりながら、そう言い切る。俺は自分の職業に誇りを持っている。自衛官というのもそうだし、国防の最前線ともいうべき防空識別圏に常に飛び出す用意をしているファイターパイロットという職業にも。だけれど最も大事なことは、F15を扱うイーグルドライバーであるということ、夢を叶えたということ。それに誇りを持っている。

「それがどんな形であれ不名誉に終わるなんてことは絶対に嫌だ、か」

「はい」

 それが自分の意思じゃなかったとしても、いいや自分の意思ではないからなおさら嫌なんだ。自分の意思で辞める時は辞める。でも今回は余りにもイレギュラーに過ぎた。

「まぁ、気持ちはわからんでもない。俺もこれで20数年イーグルドライバーだ、子供たちの憧れの的。夢の仕事、誇りを持つなとは言わない。いや言えない。だがな、固執もするなよ」

 隊長が諭すようにそう呟く。それに静かに頷きながらイーグルたちの方を向くとコブラが思い切り鼻っ面を叩かれていた。大方下ネタでも言ったのだろう。三尉の顔がしかめっ面になっており汚いものを見るような眼をしていた。

「分かっています」

「年間9人」

 同じように見ていた隊長がコブラたちに向かって野次を飛ばしながら、一息ついて俺の方を見て数字を唱えた。

「?」

「何の数字だか分かるか?」

 何の数字だろう?俺に聞き覚えはなかった。年間の飛行学生からファイターパイロットへのORに進んでいったパイロットの数、には少し多すぎるような気がするような、微妙なような。ともかくパイロットに関する数字であることは理解できた。

「ファイターパイロットを辞めた人間の数、ですか?」

「そうだ、正解。年間これだけ辞めて、同じ数のORを編入しようとしているが年々パイロットは減っていて定数を割ろうとしている。ただ9人と言っても、パイロットを辞めただけで、ウィングマーク返上も民間パイロットへの転向も含むからな。ただこの数字の中にお前は入りたくないんだろ?」

 頷く。

 そうかそんなに年間で辞めていくのか。ただでさえ空自のパイロットは不足気味と言ったところだが、数が多すぎるのも考え物、その丁度いいラインが今の年間9人なんだろう。

「でも自分はイーグルドライバーでありたいですね」

 それだけを目指してパイロットを受けたのだから。クビになったら民間パイロットにでもなった方がマシだ。

「そうだな、そう言えば知ってるか?」

 そこで話題を変えるように隊長が語りだした。

「お前が初陣で助けたバジャー、あの時の乗員がファイターパイロットに転属したらしい」

「は?バジャーの乗員がファイターパイロット...ですか?」

 最近はPLANの航空部隊も拡張されていると聞くが、あの時のバジャーのパイロットも海軍航空隊に転属し空母山東のJ15パイロットとして採用され、その様子がプレスリリースされたそうだ。

「インタビューでJASDFなんて正式名称で言うし、助けられたなんて言うからまさかと思って情報を問い合わせてみたらな」

「んで、それが今回の事と何か関係があるんですか?」

「ある、んだがまだ言えんのだなこれが」

 思い切りよくズッコケた。言えないのに何故話題に出したんだよ。

「ま、お前がイーグルドライバーとして出会った人間が同じファイターパイロットとして同じ空を飛ぶ。なんだか感慨深いものがないか?」

 そう感傷に浸るような声で言われれば、確かにと同意せざるを得ない。そうやって助けたつもりはなくても助かったと思ってくれて感謝してくれるのは嬉しいことだし、喜んでおいた方がいいんだろうな。

 それに彼のように大きな転向を、今度は俺が迎えるのかもしれない。

「なぁ、風見陸」

「なんですか?」

 突然フルネームで呼び出して。

「お前は良いイーグルドライバーだよ」

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