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イグ恋!-愛機のF-15が美人になっていてー  作者: 室内あるみ
第二話「俺はイーグルドライバー」
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朝ご飯を食べよう

 着替え終わり、寮舎の廊下を歩いていくと幹部食堂にたどり着く。定食Aを頼み、並ぶ。

 朝それなりに早いからか人は少ないが、前を見れば既にイーグルと一ノ瀬三尉が前に並んでいた。イーグルの服装は昨日買ったシャツとジーンズのセットだ。それでも制服姿ばかりの幹部食堂の中では浮いていた。なにより若いのだ。見た目が。

 大学生ぐらいの見た目、よく言ったところで新隊員ほどの若さにしか見えない上に基地内ではかん口令が敷かれているとはいえ既に噂は広まっているし、目立つ。

「定食Aでーす」

「どうも」

 そうして考え事をしながらスマホを弄っていると食堂のおばさんがお盆を持っておいてきた。急いで受け取り、箸を一膳取ると、イーグルたちの向かった席を探す。

「アテネさーん、ここでーす!」

 目を回して探していると奥の方からイーグルが腕を振り回しているのが見えた。当然周りの隊員たちの注目もいく。そこでひそひそ噂話をされるんだから溜まったもんじゃない。肩をすくめながら手を振り返すと、無言でお盆を手に持ち、歩いていく。

 椅子を引くと、イーグルが出合い頭に対面から顔を近づけてくる。それを押し返して隣に座る一ノ瀬三尉に顔を向けると、彼女は再びコロコロ笑いながら「もうたんまりと叱ったから、これ以上言わないで上げてください」なんて言い放った。昨日までの辛辣だった態度はどこへやら、あっという間にお淑やかなお嬢様風な人間にキャラが移り変わってしまっている。

「一ノ瀬三尉、どうしたんだ?」

「私はこちらが素ですよ」

「そう、なのか?」

 割と昨日は辛辣だったが、そういえば帰りはやけに静かだったような、違うような。

 頭を捻りながら納豆を混ぜる。

「昨日のお二人を見て素を見せても大丈夫だなって思ったんです。普段は初対面の相手に壁を作りますし」

「まぁ、妥当だな。おまけに俺たちは警護対象だし、か」

「そうです」

 納豆をご飯の上に掛けると、目の前に座るイーグルも見様見真似で納豆を混ぜ掛けていた。

「というか昨日ってことは、あのやり取り・・・見た?」

「見たから心を開いたんですよ?」

「ですよねー」

 卵焼きを一つ掴んで口に放り込む。味噌汁をかき混ぜ、飲み干した。塩味が舌に感じると旨味がぐっと深まるような感覚がしてきて温かい。

 イーグルも味噌汁を飲むがしょっぱいとベロを出していた。

「さて今日は何やるんですか一ノ瀬さん?」

 ご飯も食べ終えたのところでブリーダーの指示を受けるのを尻尾を振って待っている犬が如くワクワクしながら聞くイーグルは落ち着きがない。

「今日は顔合わせです。ギブリさんが迎えに来るのでそれまで待ちましょう」

 そこまで三尉が語ったところで今度は俺が落ち着かない状態になった。

 言葉には出さないが、隊長が迎えに来るという事実に吃驚している。本来なら迷惑をかけたと俺たち側から顔を出すのが筋なのに、隊長に出迎えさせるという無礼に落ち着かない。そしてそこで気が付いた。俺だけ先に出勤すればいいじゃん。なにもずっとイーグルの面倒を見てなくてもいいんだ。というかその役割は三尉の仕事だ。

「おし、俺、先に出勤してますわ」

「え?」驚くイーグル。

「やっぱり」何か呟く一ノ瀬三尉。

 逃げるようで悪いが、俺が居ることで食堂の空気が悪くなっているというのも事実。居なくなれば他の隊員たちも気を張らずにイーグルに・・・それこそ話しかけることもできるかもしれない!そういう甘い見通しで席を立つと3人分のお盆と食器を積んで、食堂の端の方に歩いていく。

 そして、スマホを置き忘れたことを思い出し取りに帰ると、それはもういい笑顔をしたギブリ、いいや隊長がいた。

 拳骨を落とされる10秒前である。

 閑話休題。やっぱり、先に顔を出すなりしておいた方がよかったと後悔する。好奇心旺盛な隊長はイーグルとあの機械の関係を知りたがっていて開口一番大声で喋りだしてしまった。普通なら三尉が止めそうなものだが黙っているし、イーグルに関しては聞かれるままだ。

「んでな、あの機械と君の着ていたスーツのベルトは同じ規格を使っていたんだ。これは仮説だが、もしかすれば099号機という本質は変わっていないのかもしれない」そう語る隊長の言葉に思わず頷かされる。言われてみればやっぱりあの機械はF15Jの各所を模していたし、もしかすれば装着すれば飛べたりするのかもしれない、なーんて小説の読み過ぎか。

「ま、そういうわけでアテネ、イーグルちゃん借りてくぞ?」

 仮説を語り終えた隊長は、あの機械とイーグルを合体させる実験を明日に取り付けたらしい。なんでも基地の整備士だけでなく、技本(技術本部)や飛実(飛行開発実験団)のメンバーも集めて。

「まぁ、どうぞ。俺の持ち物でもないですし、そいつ人だし」

 食後のコーヒーを飲んでいた俺は関係ないですよーとイーグルを生贄に平然と差し出す。何故なら、イーグルはれっきとした人間の姿を持っていて自分の意思を持っているからだ。責任能力がないならともかく男の部屋に寝起きドッキリできるような人間はそれぐらい自分で決められるだろう。

「え、アテネさん?ちょっと待って愛機だって言いましたよね」

 パンと机を叩きつつイーグルが立ち上がって世迷言を言う。なんだ愛機って言ったら責任も持たなくちゃいけないのか。愛機は愛機、自己意思は自己意思、別だ。そういう気持ちを顔に出さないように言葉にする。

「愛機とお前の意思は関係ない。人間の形持ったんだから自分の責任ぐらい持てよ」

「ウッ、確かにそうですよね」

 完全に俺の言葉で折れたイーグルは、椅子に座り、隣の席で朝ご飯を食べている隊長に実験に参加するという意思を見せた。

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